夢/とある後輩の災難 | ナノ

初めまして、お久しぶりです


!注意!
前回からの転生ネタ。
現在アップしている「現代後輩」とは時軸が違います。





あの先輩が私に近づくことがなくなってから、学校に来るのが楽しくなってきた。
あの先輩はいっつもうるさい。声はでかいし、振り回すし、無理やりだし…。とにかく苦手だった。
それに、あの人のせいで何故か三年や二年の先輩たちに嫌味言われたり、呼び出しを食らったりする。私じゃなくてあの人に言えよな!
変な噂を女子だけに回すから、一年の女子からも変な目で見られるしさー…。まぁ理解ある友人が近くにいるからどうだっていいんだけどね。
それと、同じクラスの竹谷も嫌いだ。あいつもうるさい。
クラスの中心人物なのは解るが、私にうっざいぐらい気を使ってきやがる。
まるで腫れものを触るようにだ。ウザい。あいつと仲のいい奴らも私のことを変な目で見てくる。
私を憐れむような目だ。同情されるなんて嫌いだ。それが知らない奴からなら尚更だ。


「はー……清々しいね…。素晴らしいわ」


それが全部なくなった!
あの先輩は私に近づかなくなったし、すれ違っても目も合わしてこない!
竹谷たちも私のことを無視するようになった。業務的な会話はするものの、それ以外では会話なし!
先輩たちからの呼びだしもなくなったし、本当に幸せ!
友達も増えてきたし、好きな先輩はいつ見ても格好いいし、とにかく学校に来るのが楽しくて仕方ない。
と、仲のいい友達に言うと「大げさだよ」と笑われた。


「でもいきなりどうしたんだろうね?」
「さぁ?遊び飽きたんじゃない?これで先輩だけを見ていられるぜ…!」
「千梅ちゃん、狩りをする野生動物のような目になってるよ」
「だって格好いいんだもーん!」


私の憧れの先輩は三年生で、とにかく優しい!言葉も柔らかくて、人当たりもよく、友人も多い、いわば学園の人気者。
ちょっとしたきっかけで知り合ってから、何かと声をかけてくれる。
自惚れかもしれないけど、私のことも可愛がってくれてて…。はぁ…先輩の声を聞くだけで私幸せです!


「あ、千梅ちゃんごめん!私ちょっと寄るところがあるから先に帰るね」
「一緒に行こうか?」
「ううん、遅くなるから先に帰ってて」
「解ったー。じゃまた明日」


友達を見送って、置いていた鞄を持ってから帰ろうとしたら、二年生の先生と廊下で出会った。
たくさんのノートを持っていたので、「やばい…」と思わず呟いてしまうと案の定気づかれて、「手伝え」と言われた…。
先生に言われたならしょうがない…。あからさまに「面倒です」オーラを飛ばしながらノートを半分持って二年生の教室へと向かう。


「(……あの先輩いないよね…。あ、部活中か)」
「悪いな吾妻。そのノートは二組に運んでくれ。置いたら帰っていいぞ、ありがとなー」
「めんどくさー…」
「担任の先生によく言っておく」
「お任せください!」


先生は一組の教室へ向かい、私は二組の教室に向かう。
太陽がオレンジ色に染まって、窓から教室に差し込んでいた。放課後って何だかいいよね、しんみりしちゃう。
教室の中は誰もいないのに、窓だけは全開になっていてカーテンがバサバサと激しく揺らいでいる。


「っ!」


誰もいないと思っていたが、誰かがいた。
ノートを教台に置いて、窓を閉めようかと思ったら、誰かが窓の下の壁にすがって寝ていた。


「(七松先輩だ…)」


部活動で忙しい方だから絶対にいないと思ったのに、あの七松先輩が鞄を近くに置いて眠っている。
何でこんなところで寝ているのか解らなったが、私には関係ない。
さっさと窓だけを閉めて帰ろうとしたが、寝ている先輩から顔を背くことができなくなった。
普段はうるさいのに寝息は静かで、まるで―――。


「七松…先輩……。先輩……っ」


死んでいるようだ。
と思った瞬間、胸が苦しくなって鋭い痛みが頭に走る。
だから嫌なんだ、七松先輩と一緒にいるのは…。
前にもこうやって痛んだし、凄く寂しい気持ちになるから嫌いだ…!
いつもだったらすぐに収まる頭痛も、今日だけは収まってくれず、七松先輩の目の前でしゃがみこんで頭をおさえた。。
痛い痛い…。頭だけじゃなくて、首が熱くなってきた…
。オレンジ色が赤色に見えて、また胸が苦しくなる。


「……い、たい…。熱い…!」


早く収まれ!
頭を抱えてひたすら痛みを耐えていると、ポンッと頭に何かが乗る。
ゆっくり顔をあげると、七松先輩が起きて私を見ていた。
寝起きのせいか、焦点が合っておらず、暗い瞳で私を見て名前を呼ぶ。
名前を呼ばれるたびに痛みがどんどん引いていく。
だけど、太陽の光りが七松先輩の顔を少しだけ照らすのを見て、首だけはさらに熱くなった。


「大丈夫か…?」
「…っんぱい…!」
「嘘ついてごめん。お前はあれからどうした…?長く生きてくれたか?好きな人はできたか…?私はな、後悔はしてなくても寂しかった……情けないだろ…」
「熱い…っ。先輩っ…!」
「千梅、千梅…。お願いだから、私の元に帰ってきてくれないか…。今度は、守るから…。嘘もつかない。ずっと、愛してる」


頭から手を離し、両手を広げて優しく抱き締めてもらう。
温かい先輩の胸の中に、既視感を覚えて、自然と目から大量の涙が溢れてくる。
だけど七松先輩の制服に染み込んで消えた。
熱くてたまらなかった首からは熱が引いていき、その代わりに胸が温かくなる。
解らないのに嬉しくて、目を瞑って甘えてみる。
大嫌いだった七松先輩の声が気持ちを落ち着かせる。匂いが懐かしくてさらに涙を溢れる。


「先輩…!七松先輩…!小平太先輩……」


目を瞑ると暗闇しかないはずなのに、色々な映像…光りが溢れて、次第に昔のことを思い出していく。
ああもう……何で忘れていたんだよ、私…!またこうやって出会えたのに、何で…っ。


「すみません、先輩!ごめんなさい…ッ」
「………あれ…?」
「七松先輩ごめんなさいぃ…!」
「…千梅?」
「許してくれなんてもう言えません…!でも言わないと気が済まないです!」
「………夢じゃない?」
「…七松先輩?」
「本物か!」
「…はい?」


鼻水も垂らしながら汚い顔をあげると、小首を傾げている七松先輩。
本物か…って。もしかして寝ぼけていたのか…?寝ぼけていたのか!


「ちょ、なんすか!人が一生懸命謝っているのに寝ぼけてるとか!」
「なはは、すまんすまん」
「もー……とりあえずティッシュティッシュ…」


顔ぐちゃぐちゃだー…。
見られたくないから顔を綺麗にしようと七松先輩から離れようとしたが、腰に手を回して力を込めた。


「記憶が戻ったんだな!」
「え、ええ…。すみません」
「いや、構わんぞ!そうか、ようやく戻ったか!」


嬉しそうに笑いながら抱き締めて離そうとしない七松先輩。
嬉しいけど、凄く恥ずかしいです…。久しぶりすぎて恥ずかしいです、七松先輩。
でも、


「遅くなりましたが、まだ間に合いますか?」
「ん?」
「またあなたの恋人になりたいです」


幸せそうに笑うあなたを見ると、やっぱり私も嬉しいのです。



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