夢/とある後輩の災難 | ナノ

初めまして、お久しぶりです


!注意!
前回からの転生ネタ。
現在アップしている「現代後輩」とは時軸が違います。





十七年間待った。
嘘ついてごめんな。あのあとお前はどうした?長生きしてくれたか?聞きたくないが、好きな奴はできたか?
かけたい言葉は日に日に増えていき、ようやくお前を見つけたときはそれが全部消えてなくなってしまった。
それほど嬉しかったんだ。


「―――千梅!」


何度も名前を呼んだことがある。友人たちにも「千梅に会いたい」と言ったことがある。
だけど本人を目の前にしてこの名前を呼ぶと、何だか嬉しい。
やっと会えた。ずっと待ってた。


「はい?」


振り返る千梅は昔より髪の毛が長く、昔より女の子らしかった。
そうだよな。昔みたいに……あのときみたいに男装しなくていいもんな。


「何でしょうか?…というか、何で名前…」


生まれたときから前世の記憶があった私は、いつも友人たちを探していた。
小学生のときに長次と出会い、中学生のときに残りのメンバーと出会った。
高校二年生になったとき、新入生代表に久々知兵助が現れ、よくよく見ると他の奴らもいて、喜んだ。
嬉しいことに長次たちも前世の記憶をすぐに取り戻してくれた。それは久々知たちもだった。
あとは千梅だけだ。
竹谷と同じクラスらしく、すぐに声をかけようとしたら竹谷は眉をひそめる。
千梅は記憶がないらしい。一人だけ記憶がなく、竹谷たちが話しかけても適当に会話をして終わり、らしい。
女の友達とばかりつるんでいて、特に仲がよかった竹谷は寂しそうに目を背ける。
仙蔵たちには「無闇に声をかけるな」と言われたけど、千梅を目の前にした途端、我慢していたものが溢れて名前を呼んでしまった。
千梅のまとう雰囲気は変わったけど変わらず、フッと笑うと何故か警戒されてしまう。


「あの……二年の先輩ですよね?特に用がないなら失礼しますよ」


警戒したまま、「さっさと離れろ」と言わんばかりに睨んでくる千梅。
お前が私に対してそういう態度をとるなんて初めてだな…。


「記憶が戻らないんだってな」
「記憶?……私は記憶喪失になった覚えがありませんが?」
「ああ……。あのあと悔いのない人生を送ったんだ。私は……情けないことに悔いが残ってしまった…」
「はぁ?あの、人違いじゃないですか?失礼します」
「千梅」
「なんすか」
「すまなかったな、嘘ついて」
「いや、意味わかんないっすから。失礼します」


本当に記憶がないんだな…。
千梅はさっさと背中を向けて女友達の元へと向かう。
女友達と一緒にいるところなんて見たことないから、その光景に違和感を感じてしまった。
お前の隣にいるのは竹谷なのにな…。竹谷も見るのが辛いだろう。私だって少し辛いぞ。


「だから無闇に声をかけるなと言っただろ」
「仙蔵」
「吾妻を見つけることはできた。しかし記憶がない…。さぁどうする小平太」
「そんなの、いけどんで記憶を取り戻す!」
「だろうと思った。しかしよく考えて声をかけろ。じゃないと記憶を取り戻す前に嫌われてしまうぞ」
「大丈夫!千梅は私のことを好いてるからな!」
「その自信はどっから出るんだ…」


ともかく頑張れ。と肩を叩いて仙蔵はどこかへ向かう。
記憶がないなら思い出させるだけ!きっとたくさん話しかけていったら思い出すに違いない!
昔はお前が私を追いかけてきてくれたからな、今度は私がお前を追いかけよう。


「ちょーじぃ!ちょっと知恵貸してー!あと竹谷たちどこいるか解るー?」


千梅が歩きだした方向とは反対に走り出す。
まずは長次と一緒に作戦考えよう。竹谷たちにも協力してもらって、これで記憶を取り戻す!

そう思っていたのがもう半年以上も前の話。
いつまで経っても千梅は記憶を取り戻そうとしない。
それどころか私の顔を見るたび避けるようになってしまった。
仙蔵や文次郎たちには「だから言っただろ…」と言われたが、じゃあどうしろと言うのだ?黙って千梅を見守っていろとでも言うのか?そんなのできるわけがない。
嫌われたっていい。きっと話さないと記憶を取り戻せない。いいんだ、声を聞けるだけで私は嬉しい。顔を見るだけで笑っていられる。


「千梅」
「げっ!」
「今日の昼飯はなに食べるんだー?」
「先輩には関係ないじゃないですか…。それより一年教室にわざわざ来ないでください」
「細かいことを気にするな!あ、そうだ。昼飯一緒に食わないか?竹谷たちも呼ぶぞ」
「あーもー…いっつもいっつも…!一緒にしませんって何度言えば解るんですか。いい加減私に付きまとうの止めて下さい!竹谷とも別に仲良くないのに…」
「千梅ちゃーん」
「ごめん、今行く!では失礼します」


友達に呼ばれ、私から離れて行こうとする千梅の手首を掴めば、「はぁ!?」と驚きの声をあげる。
声を聞けるだけで嬉しい。顔を見るだけで笑っていられる。
そう思っていたさ。だけどな、やっぱりお前に名前を呼んでほしいんだ。
今の私、きっと情けない顔になってる…。
顔を伏せて、掴んだ千梅の手首を引き寄せると反対側の手で私の頬を殴ってきた。


「遊びなら他の人でやってください!先輩にいい寄る女の子、たくさんいるじゃないっすか!嫌がらせっすか!?いい加減にしろ!」


相変わらず容赦のないビンタだな。と思いながら千梅を見ると、泣きそうな表情を浮かべて睨み、逃げるように去っていく。
嫌がらせ?私が千梅に?そんなことない。ただ私は千梅の記憶が戻ってほしいだけで……。


「………。鉢屋と尾浜、どこだ」


いや、仙蔵のほうがいいか?
勘の鋭い三人を探し回っていると、中庭のベンチで鉢屋たちを見つけた。
お前たちは昔と変わらなくて安心するな。本来ならそこに千梅も混ざるんだろうが。


「千梅の奴、何かあったのか?」


千梅のさっきの言葉に何かが引っかかって、五人に大雑把な質問をする。
竹谷、不破、久々知はご飯を食べながら首を傾げたが、鉢屋と尾浜はジッと私の顔を見てくる。
やはり何か知ってるな?


「教えてくれないか?」
「…。吾妻は隠すのが上手いですから、ハッキリと言えませんが、あまり好かれてはないみたいですよ」
「俺、女の子からの噂でしか聞きませんが、三郎と同じ感じです」
「好かれてない…?」
「え、あいつ好かれてねぇの?」
「クラスじゃ仲良くやってるように見えるけどなぁ…」
「……うん。俺もそう見えるのだ」
「言ったら余計混乱するかと思って黙ってましたが、」


鉢屋が箸を置いて私を真っ直ぐ睨んできた。
そう言えばお前からも「無闇に吾妻に近づかないでください」と言われたな。


「あなたにいい寄ってる女の先輩から虐められてるんだと思いますよ。吾妻は強いですからそれぐらいでいちいち凹みませんがね」
「味方になってる女の子たちも千梅のことよく理解してるみたいですし、今のところ問題ありませんけど、このまま放置してたらどうなるか解りませんよ」


目先のことしか考えない癖、昔と変わりませんね。と皮肉を込めた言葉を呟いて、鉢屋はさっさとその場をあとにした。
不破がそれを追いかけ、久々知と尾浜も離れる。
残ったのは私と竹谷だけ。


「七松先輩……。すみません、俺が気づいていたらもっと早く報告できたのに…」
「いや、いい。お前も避けられているだろ…」
「……」


何故だろうな。私と竹谷は極端に避けられている。
過去の関係からか、千梅が思い出したくないから無意識に拒絶しているのか…。
どうか解らないが、竹谷は「っす…」とだけ呟いて、離れて行った。


「………どうしろと言うんだ…」


じゃあこのままでいいのか?お前たちは千梅が記憶を取り戻さないでもいいのか?
私はよくない!色々伝えたいことがあるのに、今の千梅に何を言っても理解してくれない。伝わらない!
今度こそちゃんと千梅を守るんだ。嘘じゃなく、本当にあいつを守ってやりたいんだ。


「ほんっと意味わかんないよ、あの人!」
「でも七松先輩って人気者じゃん」
「スポーツだけでしょ。つーかそのせいでいちいち小言言われるこっちの身にもなってよ…。許されるならビンタの一発でも食らわせてやりたい!」
「それでも負けない千梅ちゃん、たくましー!」
「負けたくないもん!はぁ…とりあえずご飯食べよ…」


もうどうしたらいいか解らず、あいつらが座っていたベンチに寝転んでいると、千梅の声が耳に届いた。
顔だけ起こして探すと、千梅とその友達の背中が見えて気配を殺す。
時々見える千梅の横顔の笑顔に、こっちまで笑みがこぼれる。あの声も心地いい。


「で、千梅ちゃん。あの先輩はどうなったの?告白まだなの?」
「まっ、だ……。というか、多分できない…」
「え、何で!あの先輩も千梅のこと好きそうだし、きっと付き合えるって!」
「やだやだ!恥ずかしいし、無理!いいんだよ、見てるだけで幸せだからさ…」


その「先輩」というのが私ではないことにすぐ気付いた。
誰だ、その先輩。というか千梅、好きな奴がいたんだな。


「…」


自分が思っている以上にショックを受けていた。
身体が動かなくて、聞きたくない言葉を全部聞いてしまった。
そうだよなー…。記憶がないなら新しく好きな奴ぐらい作るよなー…。


「何で私じゃないんだろうな」


もうダメなのかな。前世みたいにはなれないのか…。
あいつは私のことが好きなはずなのにおかしいな。


「…それなら仕方ないか…」


お前を幸せにしてやれなかったその報いだ。
最後に千梅の背中を見て、その場を後にする。
いいんだ。長次や竹谷たちがいるだけで私は十分幸せさ。
そう割り切るように……自分に言い聞かせるように目を伏せて教室に戻った。


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