夢/とある後輩の災難 | ナノ

タソガレ忍軍 その二


!注意!
タソガレモブ三人衆が出ています。
本編で名前が明らかになったのでそちらを使用させて頂きます。
アニメで見たい方は進まないようお気をつけ下さい。





「さて、まずはどこに行こうか…」


部屋の掃除を終わらせ、廊下に出てから周囲を探る。
左へ行けば山本さんの部屋やきっと幹部?の人たちの部屋。さらにその奥は雑渡さんの庵だろう。
だから行くべき方向は一つ。元の道を戻る!


「合同演習のときは動き回れなかったからなぁ…」


時々感じる視線を無視しながら、長屋や庭を観察すると、やはりただの長屋や庭ではないことが解った。
忍者らしいというか…。まず隠れる場所が少ない。長屋も少しだけからくりが仕組まれている。
見えない警戒線も張られているので、歩くのが慎重になった。


「あ、お前!派遣でやって来た女だろ?」


気配もなく前から現れた三人組の忍者に、目を見開いて歩くのを止める。
ビックリしたー…。さすがですね、タソガレ忍軍さんは。いや、私が油断しすぎたのかな?
七松先輩を思わせるかのような大きな声で私を指さすのは、三人の真ん中にいる瞳孔が開いている忍者。


「壮太、指をさすんじゃない」


それを止めせるように持っていた雑渡さんパペットで彼の指をパクリと噛む。
反対側にいた、ウェーブかかった人は私をジーッと見つめたあと、トコトコと近づいてコテンと首を傾げる。


「あのー…」
「…吾妻、千梅…?」
「あ、はい」
「私は五条弾。宜しくね」
「はぁ、宜しくお願いします」
「で、あっちの組頭パペット持ってるのが椎良勘介。あっちの騒がしいのが反屋壮太」
「どうもご丁寧に」
「……」
「あの、何か…?」


五条さんは自己紹介を終えると私をジッと見て、そそそ…とさらに近寄って、ぎゅっと優しく抱き締めてくれた。
いきなりのことでどうしていいか全く解らず、とりあえず突っ立っていると、「弾!何してんだよ」と…えーっと……反屋さんが私と五条さんを引き離してくれた。
後ろから椎良さんが五条さんの頭をパクリとパペットで食べて、「ビックリしてるだろ」と注意をする。


「柔らかかった」
「そうじゃなくて、いきなり抱きついたりしたらビックリするだろ」
「…千梅。抱きついていいですか?」
「そうだ」
「いや、そうだじゃなくて…」
「俺も抱きついていいですか!」
「えー……」


意味が解らないよ、この三人組…!
でもこの三人、見たことがある。
合同演習中、雑渡さんの周りによくいた人たちだ。
諸泉さんの先輩らしく、時々諸泉さんをパシっているのを見たことがある。
きゃいきゃいと大きな三人が私の前で話すので、気配を消して横を通り抜けようとすると、スルリと腰に手が回り、「いっ!?」と声をあげてしまった。
腰に手を回してきたのは今さっき抱きついてきた五条さん。そのまま背中に抱きつき、「気持ちいい」とだけ言って手を離そうとしない。


「あのー…。何か用ですか?」
「なぁなぁ、お前女なのに何であそこに就職したんだ?でも強いな!強い女は嫌いじゃない!」
「吾妻だったよな。お前何してるんだ?山本さんと一緒に仕事に向かったんじゃないのか?」
「ねぇ、今晩一緒に寝ようか。きっとぐっすり寝れる…。私、最近寝不足で辛いんだ」
「いっぺんに喋るな!それから手を離してください!身動きがとれん!」
「……ジタバタと暴れるのなんかいいな。人形みたいに可愛い。まぁこの組頭パペットが一番可愛いが」
「そのまま弾から抜け出してみろ。鍛錬だと思え鍛錬だと!」
「眠くなってきた……」


こいつらぁ…!うちも結構自由な先輩たちが多いが、ここもかっ!
あと、髪の毛をすんすんとかぐな!止めろ、汗臭いぞ!
抜けだそうと暴れ続けていると、反屋さんと椎良さんが私の目の前にしゃがんで、「頑張れー!」と応援してくれる。応援なんかいらんわ!人で遊ぶんじゃない!


「ぬおおおおお!ちきしょう!」
「アハハ、尊奈門みたいにからかい甲斐のある奴だな!」
「ほら、組頭パペットも応援してるぞー。「がんばれー」」
「がんばれー」
「「「あ、組頭!」」」
「あーもう面倒くせぇ…!」


あんたって人間は…!
いつからか庭にいた雑渡さんはニヤニヤと笑いながら私たちを眺めていた。
あんた組頭だろ。仕事してんのかよ……。
暴れるのを止めて頭を抱えて溜息をはくと、私たちに近づいて廊下に座る。勿論、足を揃えて。
ここに山本さんたちがいたら、「足を揃えないで下さい…」と呟くところだが、三人は特に気にする様子はなく「お疲れ様です!」と声をかけた。


「随分溶け込むのがうまいんだねぇ」
「好きでこうなったわけではありません…」
「勘介、壮太、弾。その子寂しがり屋だからどんどん構ってあげてね」
「雑渡さん!」
「「「御意!」」」
「山本に言われて探索してるんでしょ?迷子になったらいつでも呼んでよ。私にとって鼠を捕まえるのは朝飯前だからね」
「こう言ったら失礼ですが、雑渡さんは人を怒らせる天才ですね」
「まぁね。あ、それと言い忘れてたけど私のことは組頭と呼ぶように。郷に入れば郷に従えって言葉知ってる?」
「知ってます!解りましたからさっさと仕事に戻ったらどうですか!?遊んでばかりだと従いたくもなくなるわ!」


ほんとムカつく!と、未だに腰を掴まれたまま組頭さんを睨みつけると、背中がヒヤリと冷たくなった。
その空気に身体が止まり、目の前にしゃがんでいる二人に目をやると、先程まで遊んでいた彼らはおらず、鋭い目で私を睨んでいる。
腰に回された腕がグッと強まり、臓器を圧迫されて眉をしかめた。


「千梅、組頭に失礼だよ。このまま絞め殺してもいいんだよ?」


五条さんに顎を掴まれ、無理やり上を向かされたあと、反屋さんが私の首筋に苦無をあてる。椎良さんもいつの間にか手裏剣を出していた。


「ほらほら、新人を虐めないの。皆仲良くねー」


こうなることが解っていたであろう組頭さんは楽しんだあと、やはりどこかへと消えて行く。
あの人が私たちには解らない仕事をしているのは解っているけど、ムカつくからそう言っただけだし…。って、言い訳か、これは…。
素直に「すみません」と謝ると、喉も背中も解放された。


「じゃあ千梅、今日の夜ね」
「え?」
「一緒に寝るだろ?」
「寝ませんよ」
「じゃあ俺と鍛錬する?お前と鍛錬したかったんだよなー」
「しませんよ」
「パペット講座「聞きません。失礼します!」


やっぱりプロは凄いな…。何度体験しても尊敬してしまう。
どうやったらあんな風に気配を消すことができるんだろうか…。
力も強かったな。いくら暴れても逃げ出せなかったし、力の加える場所とかも関係あるのかな?
様々なことを考えながら色んな場所へ足を運び、適当に挨拶をする。
私の顔を見るたびに間をおかれ、「お、おう…」と言われるのもいい加減慣れた。


「お腹空いたー…」


大きな集落とは言え、半日もあれば回ることができる。
お城には行くなと言われているのでそちらには近づかずかなかった。また嫌味言われそうだし…。
夕食になったら迎えに来てくれると山本さんは仰ったけど、それより早くお腹が空いたので食堂、調理場へ足を運んでみると、高坂さんと下っ端さんたちがいた。
高坂さんが的確に指示を出し、大量のご飯を作っている。なるほど、彼もお母さんだったのか。


「で、お前はそこで何をしている」


一切こちらを見ず私に話しかけた高坂さん。やっぱり凄いなー…!
調理場に入って高坂さんの隣に立つと、深い溜息を吐かれた。


「まだ夕食まで時間がある」
「……」
「…。なら手伝え」
「解りました!」
「つまみ食いをするな!」


高坂さんは最初苦手だったけど、話すと普通にいい人で、それなりによくしてくれる。
顔は怖いけど、諸泉さんより親しみやすいし、話しやすい。口も厳しいことばっか言ってくるけど、私を気遣ってのこと。まるで潮江先輩みたいだ。高坂さんのほうが若く見えるけど…。
遊びながらも一緒にご飯を手伝いながら、タソガレ忍軍の人達とコミュニケーションをはかる。
仲良くなって、仕事をやりやすくするのも仕事のうちだからね。
最初は女の子に接するように優しく声をかけてくれるんだけど、私がこんな性格だと思うと遠慮なく背中を叩いたり、扱き使ってきやがった。やりやすいから別にいいんだけどね!


「でも女の子が作る手料理なんて久しぶりだな!」
「俺、母ちゃん以外では初めて!」
「つか普通にうめぇ!性格こんなんなのにすげぇじゃん吾妻!」
「こんなんとか失礼ですね。自炊ぐらいできますよ」
「おいお前らさ、さっさと運べ。吾妻は部屋に戻れ。持って行く」
「規則ですか?」
「え?」
「私は皆さんと騒がしく食べるほうが好きです」
「……」
「よーし、じゃあ俺らと食おうぜ!」
「宴会開こう!酒はダメだけど水で乾杯だ!」
「おーい、お前らも一緒に食うだろー?」


我儘なことを言ってしまったと思いつつ、肩を組んで長屋の大広間へと連行されながら笑みをこぼすと、高坂さんも呆れたように笑った。


「じゃ、尊奈門たちも連れて来るか」


今日は楽しそうな夕食を送れそうです。


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