合同演習 終了! 次の日も演習を行った。 先輩たちは二日酔いでしんどそうだったけど、「自業自得です」と言うと素直に「ごめんなさい」と謝ってきた。 特に長ノ木先輩が一番潰れていたので、今日はゆっくり休めと、青い顔をしたお頭さんに言われ、日陰で寝ている。 時々唸り声を出すので、面倒だなと思いつつも水を汲んできて、飲ませてあげた。全く、世話のかかる先輩だ! 「じゃ、今日は二人一組になって組み手しようか。思いっきり戦わなくていいから、全員出ることー」 今日もやる気のない雑渡さんの指示声が演習場に響く。 七松先輩や竹谷は、自分より強そうな人をさっさと見つけ、始めていた。 二日酔いしてないもんね。 じゃあ私は誰と組もうかと見回していると、雑渡さんと目があってしまい、「私と組む?」と言ってきたので近くにいたタソガレ忍軍の人の腕を掴む。 「いきなり何するんだ」 「…」 掴んだ相手は私のことを何故か嫌っている、諸泉尊奈門さん。 私も嫌いだが、雑渡さん相手よりマシだと思って、鍛錬お願いしますの意味を込めて頭を下げた。 諸泉さんは渋っていたけど、もう相手がいないことに気づき、「解った…」と溜息と一緒に承諾してくれる。 何も喋ることなく、淡々と鍛錬をしていると、不機嫌そうな顔をしていた諸泉さんが次第に「あれ?」という表情に変わる。 私何かおかしいだろうか?変な動きでもしてるのかな? 不思議に思いながらも、喋れないから黙っていると、「おい」と話しかけられ目を向ける。 「お前……」 その言葉の続きに首を傾げながらも、隙を見つけたので殴ると、彼は一旦殴られた場所に手を添えながら離れた。 すみません、なんて言いませんよ?鍛錬中ですからね。 そう言った目線を向けると、また不機嫌な顔になって私を睨みつける。 何だってこの人はこんなにも敵視するんだ…。私が何をしたってんだ! それともあれか?よそ者が嫌いなのか?ああ、それっぽいな。言っておくが、私もよそ者は嫌いだ。仲間が大事だから、できるだけタソガレ忍軍と関わりたくない。 「(似たもの同士だね)」 「っなに笑ってる!」 違うよ、諸泉さんが面白くて笑ったんじゃないよ。 だけど諸泉さんは怒って、少しだけ殺気を飛ばして殴りかかってきた。 やっぱりプロの動きは違う…。頭では理解しているんだけど身体が動かず、攻撃をかわせなかった。 強く顔を殴られ、バランスを崩した私は地面に叩きつけられてしまい、一瞬息が止まる。 「尊奈門!」 「―――っあ…!す、すまない!」 近くで鍛錬していた仲間やタソガレ忍軍が手を止めて私たちを囲う。 慌てて謝る諸泉さんは、根本はいい人なんだと解った。 「大丈夫か?」と声をかけてくれる仲間の中に、高坂さんもいて、心配そうな表情を浮かべている。 いくら鍛えられているとは言え、やはり男性に殴られると痛い…。というか、気持ち悪い…。 だけど奥歯を噛みしめ、身体に力をいれて起き上がろうとしたら、顔や口元が開放的になって、立ち上がると布が地面へと落ちた。 「(あれ?)」 「お前っ…!女だったのか!」 「(………あ…)」 殴られ、地面で叩きつけられたときに緩んだんだろうか…。 頭巾が取れてしまい、隠していた顔が露わになって、諸泉さんは驚きの声をあげた。 諸泉さんだけじゃなく、タソガレ忍軍の皆が驚いて黙ったまま私の顔を見ている。 「バレちまったなぁ、吾妻!まぁこいつらの驚いた顔が見れたからいいけどよ!」 「(すみません)」 「つーわけだ!テメェら、俺らの可愛いひーさんに手ぇ出すんじゃねぇぞぉ」 「手を出すような可愛げのある子じゃないけどね」 「はっ!雑渡にゃあ吾妻の可愛さは解んねぇよ。おら、さっさと鍛錬に戻れ。吾妻は少し休むか?」 私たちを囲う彼らを押しのけやってきたお頭さんに、首を振ると「そうか。じゃあ頑張れよ」と言って戻って行った。 落ちた頭巾を拾って強く結んだあと、諸泉さんに近づいて頭をさげると、ビクンと変な反応をされる。 「も、もうお前とは鍛錬できない…!」 一瞬、殺意が湧いた。 女だからか?と言ってやりたくなったが、喋ってはいけないのでグッと堪え、無理やり腕を掴んで背中で拘束してやる。 ギリギリと力を込めると諸泉さんは抵抗する。しかし解けないように拘束しているから無理な話だ。 「っこの!離せ!」 言われた通り離してやると、ギロリと睨まれ目を細めて笑う。 「女に背後を取られるなんて恥ずかしいなぁ」と心の中で呟くと、彼は殺気を飛ばしてきた。 鍛錬しに来たんだから、そうこなくっちゃ。 私じゃ諸泉さんに勝てるわけないけど、強い人とやって、強くなりたい、学びたい。 仲間たちに少しでも追い付きたいんだ。だから、 「(女だと遠慮せずかかってきてください)」 先ほどより私も本気になって諸泉さんに向かって行った。 「……ふーん、向上心の強い子だねぇ」 「根性あんだろ」 「若い子にしては珍しいね。お前が育てたの?」 「いや、七松。元々そういう性格だっただろうな…それを七松が開花させてやったみたいな?」 「ああ、恋してね」 「恋ってのはすげぇなぁ。普通ここまでできねぇぞ」 「猪突猛進系だもんね、あの子」 「だろ?そこが可愛いんだよ。ガキってのはそうでなくちゃ」 「お前はずっと変わらないけどね。ところで西条」 「あん?」 女だとバレてから、色んな人からジロジロとみられるようになったけど、特に何かあるわけもなく合同演習は終わった。 短い間だったけど色々なことを学ばせてもらった気がする。 諸泉さんともそれなりに仲良くなれたし、高坂さんも何だか優しい。山本さんは元から優しかったなぁ…。 「吾妻、よく頑張ったな!」 「七松先輩…。はいっ、勉強になりました!」 辛かったし、苦しかったし、凄く疲れたけど、やっぱり七松先輩に褒めてもらうと嬉しい。 頭をガシガシ撫でてもらったあと、荷物を背負って外に出ると、タソガレ忍軍の人たちが集まっていた。 見送りらしいが、何も全員集まらなくてもいいじゃない…。 まぁもういいや。早く帰ってゆっくり休みたいなー…。きっと仕事が溜まってるからそれの処理をして、それから……あ、まずは掃除だな! 「じゃ、また時間が空いたら頼むな。今回も楽しかったぜー」 「これで夜ゆっくり寝れるね。あんまりしたくないけど、それなりによかったよ」 「素直じゃねぇなぁ…。じゃあな」 お頭さんと雑渡さんが殺気を飛ばしあいながらお別れの挨拶をすませ、その横を通り過ぎる。 荷物を背負い直して最後尾につくと、グイッと首根っこを掴まれた。 驚いて後ろを振り返ると、ニコーッと笑ってる雑渡さん。 戸惑っていると七松先輩が近づいて、私の手首を掴む。 「すみません、これ私のです」 「いや、うちのだよ」 「あ、言うの忘れてた!吾妻、お前の次の仕事決めたから」 「当分の間うちのお手伝いしてね、吾妻ちゃん」 珍しく舌打ちをする七松先輩と、ニコニコと笑ったままの雑渡さんに乾いた笑いしか出てこず、「勘弁してくれ…」と最後の最後で呟いてしまった。 (△ TOP ▽) |