女装実習 可愛い着物。可愛い簪。そして、化粧をした私…。 「こんなの私じゃない…」 「だな。女らしいお前なんてお前じゃねぇよ」 「うるせぇ…。竹谷の女装なんて私のより目に毒だっつーの…」 「お前よりダイナマイトボディだろ?」 「胸詰めすぎだよタコ」 二人揃って溜息を吐いたあと、外に出て門前に向かうと、既に女装し終わった兵助、勘右衛門、雷蔵、三郎の四人が揃っていた。 他の五年生もいて、私と竹谷を見るなり「さすが五ろのバカ二人」と笑われる。バカは関係ないだろ! 今日は久しぶりの女装実習。 下級生のころは何とかなっていた女装も、上級生になると厳しいものがある。 特にガタイのいい竹谷は心底嫌そうな表情をしている。化粧も苦手だもんね…。 兵助は顔が綺麗なので女装しても似合うのだが、仕草がまるでダメだ。いつものまますぎる。もったいない。 勘ちゃんも若干男の子らしい身体つきだけど、仕草が女の子。勘右衛門は時々女の子より可愛い仕草するからなぁ…。 三郎は変装の名人だし、さすがって感じ…。雷蔵は普通に可愛い。ナンパしたくなる。 「今日の実習は、異性とお茶を一緒にしてくること。勿論これは最低条件だ」 実習内容の説明をする木下先生を見ながら、小さく溜息をはく。 確かに私は女だ。女だから誰よりも女装が似合うはずだ。 しかしだ。普段から女の恰好をしない者が、いきなりしたら恥ずかしいと思うだろう? 自意識過剰かもしれないが、「え、あれ女の子?似合ってない」って笑われてそうで…他人の目が気になってしまう…! 忍者なんだから気にしないくていい……というか、気にしちゃダメなのに気にしてしまう。男装したい。 まぁ竹谷よりマシだからいいだろう。 門前で説明を聞いたあと、適当に皆で町へ向かい、固まらないように町へと入る。 「じゃーな、吾妻。どっちがたくさん落とせるか勝負しようぜ!」 「私もお前も落第点だよ、きっと…」 「いや、俺なんかいける気がしてきた!」 「お前のポジティブが羨ましい…。はいはい、じゃあ勝負な」 「おう!」 竹谷くんは何を見て、自信を持ったのだろうか…。 まぁいいや。勝負を受けたからには私も頑張らないと! 最低条件は男性とお茶をすること。 もっと点数を稼ぐには、その男性とデートをするとか、男性から何か情報を得るとか、色々な男性に声をかけるとかまぁ色々ある。 「はぁ……。女の子ならまだしも、男に話かけるの苦手なんだよなぁ」 女の子の恰好をするのも苦手だけど、これも苦手…。 可愛い女の子をナンパしたり、声かけたりするのは好きだ。毎日声をかけたいほど好きだ。 でも男性は苦手だ…。なんて声をかけたらいいか全く解らない…! 自分が女にならないといけないってのも嫌だ。こんなの私じゃない。 「どーしよー…」 竹谷や兵助たちと別れたあと、一人で町を歩いて適当な建物の近くに突っ立って、行き交う人たちを目で追う。 んー…声かけやすい人…。怖い人とか大きい人は苦手だから、できるだけ身長低めで、気弱そうな人を狙おう。 …私におかしいところないよね?着物大丈夫?簪も…うん、ちゃんとある。化粧も落ちてないし、崩れてないと思う。 あーもう!やっぱり女装なんて嫌いだ!いちいち身なりを気にしないといけないし、声かけたくても、「あ、……あ…っ」ってなっちゃうし…! 「(どうしよう。このままだとマジで赤点だ。それだけは避けたい、これからの為にも!)」 「ねぇねぇ」 「ん?」 「君、今さっきから誰か待ってんの?もしかして俺とか?」 ………ナンパきたーっ!しかも向こうから! よ、よし…これは逃がさないようにしないとな! 女の子らしくだぞ。自分の中の想像する可愛い女の子を演じるのだ、千梅!頑張れ千梅! 「え、えーっと…。わ、私にご用です、か?(裏声になってないよね?)」 「あれ?気強そうな子かと思ったら、もしかして違うの?」 「え?あれ?(は?違うって何が?)いや、じゃなくて…いえ、えっと…。あの、私…」 「とりあえず一緒にお茶でもしよっか!ね?」 ガシッと腕を掴んで、無理やり連れて行こうとされるのを、何故か「い、いやです!」と言って拒絶してしまった…。 な、何故拒絶したのだ私は…!せっかくの獲物がパァだよバーカ…。 「俺、拒絶されると燃えるたちなんだよねぇ」 「……へ?」 「でもさ、誰かに声をかけられるのは待ってたんでしょ?色んな男に声かけようとして、失敗してたの、俺ずっと見てたんだよ?」 「い、いや…ちが…(くないけどっ…!こいつなんか苦手だ!ぶん殴りたくなるチャラさ!)」 「それなのに拒絶しちゃうなんてさー…。ともかくこっちおいでよ」 「いやいやいやいや!いいですっ、止めてください!」 止めろっつってんだろ! と言って殴り飛ばしたい衝動にかられたが、なんとか堪えてやんわり拒絶。 だけど本気を出してないから引っ張られてしまう…。 掴んでいた手を肩に回して、グイグイと人気の少ない路地裏へと連れて行かれそうになり、「やばい!」と思って足腰に力を込める。 「(で、でも…!ここで逃がしたら点数が…。チャラそうだし、話しかけたらペラペラ喋ってくれるかも?そしたら赤点は免れる!)」 少しの間悩んで、でもすぐに結論は出して、男について行くことにした。 まぁ襲われるなんてないだろう。襲われたら本気出してブン殴ればいいんだ! 腰を掴まれたまま「あ、あの…」と声をかけて、こっちを見る男に、 「宜しくお願いします」 「うっわ、ノリノリだね、君。うん、任せてー」 と言うと何故かニッコリ……いや、怪しい笑みを浮かべた。 ノリノリ?は?お茶飲むだけでしょ?こいつなに言ってんだ?やっぱりあれか?怪しい系か?よし、路地裏についたら殴る。 こいつは女の子の敵だ!私が排除してやる!でも赤点は採りたくないから、ちょっとお話してから倒す! そんなことを思いながら男と路地裏に一歩足を入れた瞬間、後ろから肩を掴まれ、強い力に引っ張られて転びそうになる。 気配なんてなかったのに誰だ!? 若干戸惑いながら背後に顔を向けると見慣れた松柄の私服…。見上げると何故か七松先輩の顔が…! 「なな「茶をするという空気ではないな」 「何だよテメェ。いきなり現れて横取りか?」 「女、茶なら私が奢ってやろう。そいつは茶が目的ではないらしい」 「えっと」 「おい!」 「失せろ」 私の肩を掴んだまま鋭く睨みつけて言い放つと、男は口を固く結んで路地裏の奥へと消えて行った。 戸惑う私の肩を引きよせ、人通りの多い道へと戻って、どこかへと向かう七松先輩に、必死について歩く。 掴んでる場所、今さっき男に掴まれてた場所だ…。 「あ、あの…?」 「黙れ」 七松先輩の殺気とともにくだされる命令に、さっきの男みたいな口になって、大人しく従うことにした。怖すぎる…。 何故、私服でこの町にいるのか…。 何故、途中で止めたのか…。きっと実習中だって解ってるはずだ。 た、確かに危なそうな雰囲気だったけど、でも……。 「好きなものを頼め」 「え?えっと、えーっと…。あ、じゃあ……あの、お茶を頂いても…?」 「構わん」 「(こえぇ…)こ、これください」 色々考えているうちに茶屋につき、言われた通り注文すると、七松先輩も注文して、再び黙る。 恐る恐る座って、お茶が出てくるまで待っているんだけど、空気が重すぎる…! 隣に座る七松先輩の距離が近すぎたので少し身体を離そうとすると、「動くな」とまた命令された…。 私が何したって言うんだよー…実習中だぞこらー…。とも言えず、お茶と茶菓が出てくるまで心苦しい時間を過ごす。 → → → → (△ TOP ▽) |