酔っぱらい 『飲んでる途中なんだ、八左ヱ門も来るだろ?』 「おう、行く!」 バイト帰りに三郎から電話がかかってきたと思ったら、飲み会のお誘いだった。 八左ヱ門は飲むのが好きだ。それに、仲のいい皆と遊ぶのも好きだ。 疲れたはずの身体だったが、三郎からのお誘いに身体は一気に元気になり、いつもの飲み屋へと向かった。 「そう言えば誰が来てんだ?全員か?全員だよな」 いつもは自分が企画したり、誘ったりするから途中で参加したことがない。 初めての体験にちょっぴりドキドキしながらも、お店に到着し、「連れがいるんですけど…」と店員に伝えると案内してくれた。 店員さんも自分たちを覚えているので、ある程度の言葉が通じて助かる。 「おーっす」 「八左ヱ門丁度よかった!吾妻を止めてくれ!」 「は?」 戸越しから聞こえる盛り上がる声に、「盛り上がってんなぁ」と笑いながら戸を開けると、三郎がすぐに近寄って来た。 三郎の後ろを覗くと、兵助の顔をジッと見ている千梅がうつる。 「……なぁ、三郎。もしかして吾妻の奴、酔っぱらってる?」 「ああ…」 千梅は普段から小平太や自分たちと一緒に飲んでるから、滅多に酔っぱらうことはない。 なのに今日は酔っぱらってしまったようだ。 相棒の八左ヱ門がいないからペースが解らなかったのか、とにかく目が据わったまま兵助をジッと見て、お酒を差し出す。 「兵助、おさけ…」 「も、もういらないのだ…。俺もあんまり得意じゃないし……」 「っんだよ……!私のお酒が、のめないのかよ…!」 さっきまでは笑っていたのに、兵助が「すまない」と断るとすぐに涙を流し、「へーすけのばかぁ!」と騒ぎ始める。 勘右衛門や雷蔵が止めようとするが、力の強い千梅が兵助をがっちり掴んで離そうとしない。 「これの繰り返しなんだ」 「吾妻が酔っぱらうと面倒なんだよ…。とりあえずちょっと待ってくれ、電話してくる」 「電話?」 「あと、それ以上酒飲ますなよ」 携帯を取り出しながら三郎に指示をして、一旦部屋から出て行く。 八左ヱ門は千梅が酔っぱらったらどうなるか解っているので、その為の行動に出たのだが、三郎は知らないので首を傾げるだけだった。 「へーすけ、私のこときらいなんだー!」 「嫌いじゃないぞ、吾妻。でもな、ちょっと飲みすぎて辛いんだ…」 「ほら千梅、あんまり兵助に迷惑かけないの。俺んとこにおいで」 「勘ちゃんやだ。らいぞーがいい」 「うん、兵助もう可哀想だから僕のとこおいで」 「え、何で俺嫌われてんの?ちょっとショックー…」 「らいぞー…………雷蔵のばか!」 「えっ!?」 「なんでさぶろーに変わったの!?うそつきだ!私をだまそーとしてるっ、ばかぁ!もうみんなきらいぃいいいい!」 酔っぱらいが面倒くさいことは知っているが、普段酔っぱらうことがない人が酔っぱらうともっと面倒臭い。 その場にいた四人が全員そう思い、溜息をはきながら何とか千梅を宥めようとする。 「騙してないよ、僕は雷蔵だよ」 「ほんと…?」 「ほんと!」 「じゃあお酒ちょーだい、喉乾いた」 「まだ飲むの?えっと……」 「千梅ー、もうお酒飲まないほうがいいって。明日大変だよ?」 「勘ちゃん嫌い。おこってる」 「怒ってないし!もー、これだから酔っぱらいは!普段の千梅と飲んでるほうがいいよ!」 「ほらぁ!勘ちゃん私のこと嫌いって!」 「あーもう!雷蔵、千梅にお酒飲ませてさっさと潰そうよ!寝かせて連れて帰ろう!」 「で、でも勘右衛門…。八左ヱ門には飲ませるなって言われたし…ねぇ三郎?」 「八左ヱ門が帰ってくるまで待て」 「……勘ちゃん、雷蔵、三郎…。吾妻が勝手に飲んでる…」 「「「あーっ!」」」 「待たせた。吾妻大人しくしてたか?」 八左ヱ門がようやく帰って来たが、時すでに遅し。 一升瓶のお酒をラッパ飲みし、空になった瓶を適当に置いて雷蔵から離れた位置に座る。 ふらふらと頭が動き、目もトロン…と焦点があっていない。 先ほどより大人しくなったが、それが逆に危なく感じる千梅を見て、八左ヱ門が「マジかよー…」と頭を抱えた。 「とりあえずお前ら。吾妻が甘えてきたら拒絶してやるな、今さっき並みに面倒くせぇぞ」 それだけ伝えた八左ヱ門は座敷にあがり、目を擦っている千梅の隣に腰をおろしてあげた。 すると、 「はちぃ…、ねむいぃ…」 「ほら、寝てろ」 「ぎゅー!」 「はいはい」 「ぎゅー!」 あの千梅が女の子のように甘えているではないか。 女の子なのだからおかしくないのだが、こんな風に甘える千梅を見たことがない他の四人はポカンと口を開け、二人の様子を見ていた。 八左ヱ門は慣れた様子で甘えてくる千梅の頭をぽんぽんと撫でたあと、散らかったテーブルを綺麗にする。 「あ、俺も酒頼んでいいの?」 「それは構わないけど…。えっと、八左ヱ門……」 「何も言うな。酔っぱらったらいっつもなんだ」 「あははっ、天井ぐるぐるしてる!」 「お前らもう飲んだの?食ってねぇなら食おうぜ。あとから七松先輩たちも来るみたいだし」 「え、七松先輩たち来ちゃうの?はっちゃんが呼んだ?」 「あー……。見ても聞いても引くなよ…」 テーブルに並んでいた枝豆を食べながら苦笑を浮かべた。 「こいつがこうなったら七松先輩にしか止められねぇんだよ…」 「はちのばーか!枝豆ばっか食べやがって!私のこと嫌いなのかよっ。皆も私から離れてる!」 また意味の解らないことや、被害妄想を叫ぶ千梅を落ちつかせようとするのだが、「八左ヱ門嫌い!」と八左ヱ門から離れ、兵助の隣に座った。 まさかまた自分の隣に来るなんて思ってなかった兵助はビックリして、若干千梅から離れると、「へーすけにきらわれたぁあああ」と先ほどのように泣き始める。 八左ヱ門が近づいて「俺は好きだぞ」と言うと、「ほんとにぃ?」とまた八左ヱ門に甘えた。 「吾妻が酔っぱらったら面倒なことこの上ないな」 「う、うん…。僕も酔っぱらったら面倒だけど、千梅ほどじゃないかな…?」 「甘える千梅は可愛いと思うんだけどねぇ…。被害妄想が激しいのはなー」 「はちー、ぎゅー!」 「はいはい、ぎゅー」 「っ今面倒くさいって思っただろ!なんだよっ、竹谷なんて童貞こじらせて、しんじゃえばいーんだ!」 「酔っぱらいって解っていてもムカつくわ。いいから寝ろって」 「やぁだぁああああ!はちに嫌われたら生きていけないよぉ!ぎゅーして、ぎゅぅううう!」 甘えて、泣いて、わめいてを繰り返しつつ、先輩たちが来ると言うので散らかったテーブルをさっさと綺麗にして、自分たちはノンアルコールドリンクを注文した。 アルコールを注文して、千梅に取られたりでもしたら面倒だからである。 兵助や三郎はぐったりとしていたが、千梅から解放された勘右衛門と雷蔵は八左ヱ門に我儘を言う千梅を見て、笑っていた。 さすがO型コンビだと、三郎と兵助は呟く。 「おさけ、のみたい…」 「お前はもうダメ。皆に迷惑かけてるだろ」 「ごめんなさい…!だからきらわないでください…っ」 「じゃあ大人しく寝てろ」 「はい……。っぐす…!……はちぃ、七松せんぱいは…?」 「そろそろ来るだろ」 「七松先輩……ふふっ…!あのねー、七松先輩、凄いつよい!つよくて、好き!」 「んー。あ、雷蔵、それ取って」 「はい。千梅が七松先輩にデレてるの久しぶりに見た気がする…」 「普段恥ずかしがってこんなこと口にしないよねぇ」 「これからもっとすげぇもん見れるぞ」 「「え?」」 「私はもう帰りたいよ…」 「俺も…」 「七松先輩はねー、おっきくてねー、優しくてねー、えーっと…七松先輩はねぇ…おっきくて、強いよー!」 竹谷の膝に頭を乗せ、一人楽しそうに呟いては眠たそうに瞼をシパシパさせる。 そろそろ寝るか?と思ったが、バッと身体を起こして周囲を見回す。 雷蔵が声をかけようとしたが、八左ヱ門に止められてしまった。 「七松せんぱーい!」 嬉しそうに戸に向かうと、同時に開き、前には小平太。 そのまま小平太の胸に飛び込んだが、不意打ちにも関わらず小平太は千梅を受け止めた。 小平太の後ろや周りには他の先輩たちが揃っており、千梅の珍しい行動に目を見開いて、様子を見ていた。 「何だ吾妻、また酔っぱらったのか」 「待ってたんですよー!飲みましょう!」 「吾妻はもうダメだ。大人しくしてろ」 「七松先輩と飲みたい!私のこと嫌いだからそんなこと言うんだぁ!」 また駄々をこねるぞ…。 と、三郎や兵助たちは思ったが、 「私は好きだぞ?」 「私も好きです!」 小平太の一言に、すぐに元に戻って甘え続けた。 「これはまた面白いものが見れたな…」 「立花先輩たちも来るとは思わなかったです。大部屋とりますか?」 「いや、全員入るからこのままで構わん。で、どういう状況だ?」 「千梅が限界突破して、我儘言って、甘えて、騒いでます。止められるのは七松先輩だけです」 「そうか」 ニヤリと笑ったあと、さっさと座敷にあがっていつもの場所へと座る。 他の先輩たちも、小平太と千梅を横目に座敷にあがり、最初からいた三郎たちから詳しい事情を聞く。 → → → → (△ TOP ▽) |