合同演習 その一 !注意! タソガレ忍軍の生活などはこのサイトだけの妄想設定です。 「おはようございます…」 「何だ千梅ちゃん。珍しく寝不足だな。今日から数日タソガレドキ城に世話になるっていうのに、もうホームシックか?俺と一緒に寝るか?」 「はぁ……」 「話聞いてる?お頭こう見えて結構繊細なんだよ…?」 「あ、そういうのいいんで。荷物はこれだけですよね?」 昨晩のことがあってから、あまり深く寝ることができず、起きるのがしんどかった。 だけど今日は少し遠くにあるタソガレドキ城に向かわないと行けないから、いつもより早めに起床。 七松先輩を意識しないように朝の準備をしたけど、やっぱりダメで…。 昔みたいにビクビクしながらなんとか支度を終わらせ、屋敷前へとやってくる。 どの先輩も眠たそうだったけど、お頭さんの挨拶と注意事項、これからの予定を聞いてからは目をキラキラさせた。 もー……ほんっと戦うの大好きな先輩たちなんだから…。 チラリと七松先輩と竹谷を見ると、二人も嬉しそうだった。 合同演習…しかもあのタソガレ忍軍とだもんね。そりゃあ私だって楽しみと言えば楽しみだよ。色んな事勉強できるだろうし。 気持ちを切り替えて大きな荷物を背負い、屋敷裏の崖から下に降りて川沿いを北に向かう。 「千梅ちゃーん、優しい先輩が荷物持ってあげましょうか?」 「長ノ木先輩マジうざいっすね。これぐらい大丈夫です」 「いいねー、いいねー!強気な女の子も大好きだから、そんなこと言われても俺凹まないぞー!」 「生理的に無理なんで近寄らないでくれますか?」 「……それはさすがに悲しいっす」 「嘘ですよ。真面目に戦ってたら格好いいんですから、ふざけないで下さい」 「はいはいっと!」 長ノ木先輩はお調子者だが、腕は確か。お頭に続いて前線を引っ張っていく人だから、戦闘面に関しては尊敬している。 あれさえなければもっと頼るんだけどなぁ…。 「あ、そうだ!千梅ちゃん、ハチ。走りながらでいいから聞いてくれ」 「「はい?」」 先頭にいるお頭さんが大声で私と竹谷の名前を呼んで、私たちは急いでお頭さんの隣に向かう。 まだ息が切れてないから大丈夫だけど、もうちょっとしてから呼ばれたら隣に来ることすらできなかっただろう…。 「昨日言うの忘れてたけど、向こうについたら口布あててくれ」 「え?」 「合同演習つっても、いつもと一緒で頼む!」 いつもと一緒。 というのは、派遣先では常に目以外の顔、肌を隠している。正体も隠して、自分の痕跡を一切残さないようにしている。必要なこと以外、喋ることもしない。 この会社は「秘密」がモットー。だから今回の演習でもそれを徹底してくれ。とお頭さんは笑いながら話す 「あと、声も一切出すな。返事もいいから」 「声もですか?」 「ハチ、自信ねぇの?」 「んなことねぇです!悲鳴すらあげません!」 「千梅ちゃんは?」 「竹谷に同じく」 「特に千梅ちゃんが女だってバレたくねぇからな!」 「……ダメなんですか?」 「あ、嫌とかじゃなくて、あとからあの野郎をビックリさせたほうが面白ぇだろ?」 ニヤァと悪戯をする子供のように笑うお頭さん…。 ああ、タソガレ忍軍の組頭、雑渡さんとは仲がいい犬猿だとかなんとかって言ってたな…。 「とにかく何があっても声を出さない。反応しない。感情も出さない。何かするときは俺の許可をとってから。それ徹底してくれ。解ったか?」 「「はい」」 それからはひたすら走り続けた。 大きな荷物と慣れない道に四苦八苦しながらも、なんとか置いて行かれることはなく、正午過ぎ…夕刻前にはタソガレドキ城に到着することができた。 「よく頑張ったな、吾妻!」 「七松先輩……ありがとうございます…」 皆以上に息を切らしている私の頭を撫でてくれる七松先輩から最後の気力を分けてもらい、グッを身体を起こして口布で顔を隠した。 お頭さんは息を切らしている様子はなく、一度足を止めてから周囲を見回し、お城の正面入り口とは違う、森沿いを歩き出す。 森は鬱蒼と生い茂っており、もしかしたら敵が出てくるかも?と想像しながらついて行く。 「……そう言えばタソガレ忍軍はどこにあるんだろ」 「何だ吾妻、知らんのか?タソガレ忍軍はたくさん忍者がいるからな、城の裏に小さな集落、長屋を建ててそこで暮らしてるんだ」 「そうなんですか?」 「忍軍に力を入れてるからな。ちゃんと勉強しろよ?」 七松先輩に言われるのは何だか変な感じがしたけど、また頭を撫でられて嬉しくなって「はい」と答えると、笑って先を歩き出す。 たった一年だけど、先輩はやっぱり大人っぽくなられた。 強くもなったし、戦況も前より早く読める。作戦もたてられるし、こういった情報もよく知っておられる…。 私も七松先輩みたいになりたいな…。今回の演習、頑張ろう! 「―――ッ!?」 そう思って荷物を背負い直した瞬間、四方八方から殺気とともに苦無や手裏剣が飛んできた。 苦無を取り出して弾いたけど、弾くだけで反撃ができない。 取り乱していると、七松先輩に腕を引っ張られて地面に無理やり伏せさせられる。 「(七松先輩!)」 「(矢羽音、禁止)」 それだけ言って、苦無で飛んでくる武器を弾き飛ばして私を守ってくれる。 攻撃を見計らって仲間たちに近づき、背中を合わせて敵を迎え撃つ。 私もようやく落ち着いたので手裏剣を打ったが、森の奥でキィンと弾かれてしまった。 「―――あのねぇ、西条。せっかく招待状を渡したんだから、ちゃんと正門から入って来なさいよ」 「よぉ雑渡。久しぶりだな!まだ包帯巻いてんのか?どうせ昔と変わんねぇんだから取れよ!」 「人の話を聞かないのも変わらないねぇ…。とりあえずお前たち攻撃は止めなさい、お客さんだよ。むさ苦しい男どものな」 お頭さんはどう動くんだろうと思って指示を待っていたら、一人の大男…忍術学園の保健室でよく見た曲者さんが姿を現わし、木の枝に座ってからお頭さんと談笑を始める。 攻撃を止めた敵は森の奥から出てきて、曲者さんの周りに集まって私たちを睨みつけている。 さすがタソガレ忍軍…。殺気も凄ければ、用心も凄い。気配消して歩いていたのにバレてたみたいだ。 「にしても今回はちょっと遅かったねぇ。もうちょっと早くつくと思ったんだけど…」 「ほら俺らも忙しいだろ?いいからさっさと客人の部屋に案内しろよ。こっちはクッタクタなんだぞ!?」 「え、なに?疲れたの?戦忍び専門なのに?へー…腕も体力も落ちたのかな?」 「そうだな。じゃあ今度の演習は俺らの山に来てくれよ!もてなすぜ!」 「やだよ、あんなところ。登山なんて趣味じゃないし。陣左、案内してあげて」 「御意」 曲者さんの近くにいた男性が枝から降りて、お頭さんを睨みながら「こちらです」と先導する。 私たちも武器を収めて、荷物を背負い直してから陣左と呼ばれた人に続いた。 「(喋るな)」 隣にいた七松先輩が私と竹谷に矢羽音を飛ばして、私たちは矢羽音も使うことなく首を縦に動かす。 口布もちゃんとあてた。目だけしか見せていない。 たったそれだけなのに、何故か緊張してしまって心臓が早く動いた。 それがバレたのか、背中を一度叩かれ、ニッと笑顔を見せる。 「(すみません、七松先輩。ありがとうございます)」 心の中でお礼を言って、呼吸を整えた。 後ろを見ると既にタソガレ忍軍はおらず、枝から枝に飛び移って先に戻って行っていた。 「(……何だよ…)」 一人、曲者さんの近くにいた身長の低い(それでも私より高いが)忍者が私を見てきた。 ちら見じゃなく、凝視。なんかムカついたけど、今回は大人しくしとかないとね…。 陣左、さん…に案内されて到着したのは、城下町にしては質素だけど、そこらへんの忍軍長屋に比べたら広いところだった。 小さな村っぽいが、どれも全員男で、全員忍者だ。 私たちよそ者が入って来た瞬間、武器と殺気を向けられたが、「客人だ」と陣左さんが言うと通常の生活に戻る。 「今回もこちらをご利用下さい」 「おお、助かるぜ高坂!風呂とか厠とかも変わってねぇんだろ?」 「はい、変わっておりません。ですが、どうか規則だけは守って下さい」 「はいはい。おいお前ら、荷物置いて休憩しろー。吾妻、しっかり水飲んどけよ」 案内された場所は大きな家の客人用大広間。 綺麗に掃除されてるし、布団も、茶碗とかも必要品は一式揃っている。 だけど、全員がここで雑魚寝するのか…。部屋があるだけマシだが、皆と寝るとしんどそうだ。いや、うるさそうだ。 お頭さんに言われた通り、七松先輩に案内されて井戸水へと向かって水を汲む。 本当はその場で飲みたかったんだけど、顔を隠しておかないといけないので、部屋に戻って飲んだ。 「あ、できるだけ部屋でも喋るなよ。いいか、これは鍛錬だからな!」 どうやら、部屋にいても喋ったらダメみたいだ。 これは……かなりきついぞ。言葉を喋れないのは地味に辛い。 でもこれが鍛錬だと言うなら、しょうがない。竹谷も水を飲んだあと、コクリと頷いてすぐに顔を隠した。 「まぁ寝るときと風呂入るときはいいけどな!あ、そう言えば今回は吾妻がいるんだよなぁ…」 どうやらここでは私のことを「吾妻」と呼ぶらしい。どんだけ驚かせたいんだよ…。 確かに仲良さそうに会話してたけど、殺気が飛んでいたからなぁ…。 「一緒に入る?」 「……」 「嘘に決まってんだろ!千梅ちゃんは竹谷と一緒に入れ。竹谷も別に気にしてねぇし大丈夫だろ?」 お頭さんが首を竹谷に向けると、奴は何度も大げさに首を縦に振る。 ムカついたので睨みつけると、そっぽをむきやがった。あいつ、なんかムカつくな! 「とりあえず今日はもう何もねぇから、各自好きに動いていいぞー。但し、面倒ごとは起こすなよ。あと、街に行くのも禁止だバカ野郎!」 「むさ苦しい連中が増えたってのに、何で街に行ったらいけねぇんすかぁ!」 「雑渡の野郎に嫌味言われるのが嫌なんだよ!俺のために我慢しやがれ!じゃねぇと給料減らすからな!」 『横暴だ!』 「黙れ!俺がお頭なんだから、好きにさせてもらう!とりあえず、吾妻。お頭の近くにいるよーに。むさ苦しいものばっか見たくねぇや…」 「お頭」 「解ってるよ小平太!でもちょっとぐらいいいだろ!それにタソガレの奴らに吾妻を取られたくねぇだろ?俺らの大事な姫さんだぞ!?」 うっわ、もう……。また出たよ…。 お頭さんは、いくら私が「別に女として見なくていいですから」と言っても、「千梅ちゃん」と女の子扱いしてくる。 鍛錬のときや、戦中、忍務中は絶対にしないから私も滅多に文句言わないが、あまりしてほしくない。慣れてないもん…。 んでもって、時々からかい半分で私のことを、「姫さん」「ひーさん」と呼ぶ。 鳥肌がたつから止めてほしいって言ってるのに、「女の子だからな!」と笑って誤魔化す。 最近は慣れたけど、やっぱり苦手だな。というか、忍者なのに「姫さん」って矛盾してるでしょ。 「まぁ冗談抜きでマジで俺の隣にいな。いいか、いくら合同演習つってもここは敵陣なんだからな?」 いきなり真剣な声と顔で言ってきたので、思わず頷いてしまった。 そうか…そうだよね。合同演習とか言ってるけど、ここは敵陣、になるの、かな…? 派遣会社だから、敵であり味方でもあるよね?いや、基本的に「敵として見ろ」って言われてるからいいのかな?うん、そういうことにしておこう。 「騙されんなよぉ吾妻!」 「そーだそーだ!俺らだって潤いがほしい!」 「いいから黙れ!隠してんだから大声出すな!」 とか言うお頭さんが一番大きかったです。 「吾妻」 「七松先輩?」 「いいか、絶対に私たちから離れるなよ?」 「解りました…」 七松先輩の真剣な声には素直に頷き、ゴクリと生唾を飲み込んで、頭巾をきつく縛った。 (△ TOP ▽) |