恋人は怖い人 その日、出された課題を終わらせるために私と八左ヱ門の部屋に同じ組の三郎を連れて来た。 最初は面倒くさがってた三郎だけど、文句を言いながらも課題に付き合ってくれて、なんとか終わらせることができた。 「忙しいから無理」とか言ってたけど、お前委員会の仕事なんてないだろ。って言ったら舌打ちされたけど…。だって本当じゃん。 でも付き合ってくれたのには本当に感謝してるのでお茶を出してあげると、やっぱり文句を言いながら飲んだ。(渋いとかなんとか) 「ところで吾妻。お前なに委員会だっけ」 「火薬委員会」 「うっわ、地味…」 「地味って言うな。兵助もいるんだぞ」 「いつも七松先輩に振りまわされて派手に暴れてるのに火薬委員会とか…」 確かに私は一つ上の先輩、七松先輩に同室の竹谷と一緒に振りまわされている。 何故振りまわされているかというと、私が七松先輩の恋人だからだ。 恋人。って言っても、そこらへんにいるラブラブカップルを想像しないでほしい。 付き合ってからも甘い関係になることなく、何故か鍛錬に付き合わされている…。うん、やっぱり竹谷と一緒に。 きっと恋人同士が何するか知らないんだと思う。だからいつも通りに後輩を振りまわしてる。ヤることはヤってるけど、付き合いというものを知らないんだろうね。…私もだけど。 でも、付き合う前からそうなると思ってたから不満はない。あるとすれば、人外に一般人が付き合えるかァ!ってことだけ。あ、体力とかの話ね。 まあでも七松先輩と付き合うようになってから体力がかなりついたし、体術も強くなった。武器の扱いも、気配を消すのも上手になって、今では五年の中でトップを争うほど。 嬉しいような、女としては悲しいような…。忍者になりたいから文句はないが、時々三郎から、「お前もとうとう人外になったな」と憐れみの目を向けられると悲しくなる。 「というか、体育委員会だと思ってた」 「いや、違うし。鍛錬で七松先輩に振りまわされてんだよ?委員会まで振りまわされたくないって」 「でもこの間、「吾妻は体育委員会だぞ!」と仰っていたぞ?」 「そうなの?あはは、でも私火薬委員会だからー」 私もお茶を飲みながら笑っていると、頭上でゴトッと天井の板を外すような鈍い音がして身体が固まった。 目の前に座っている三郎にも聞こえたようで、湯呑みに口をつけたまま固まって、目だけを私に向ける。 沈黙が走る部屋……。そして頭上からのプレッシャー…。 「ねえ、三郎。何か音しなかった?」 「いや、してないぞ」 「おい三郎。お前今どこ見てやがる」 「見てない。お前を見ている」 「嘘つけ!……よし、質問を変えよう。私の上になにかいるかな?」 「そうだな、いるな」 「だよね!そんな感じがするもんっ」 三郎は冷や汗を流しながら視線を私から天井、そして湯呑みへと戻してお茶を眺めている。 頭上に何がいるかは大体解る。三郎に確認したからもあるけど、こんなプレッシャーを与えてくるのは例のあの方だけだ! でも信じたくないから、怖いから明るい感じで会話を続ける。 「因みに誰?あ、名前は言わなくていいや。制服の色教えてよ」 「ああ。みど――――ぐっ…!」 「三郎ぉおおおお!」 制服の色を言おうとした瞬間、三郎が湯呑みを持ったまま俯いた。 どうやら天井にいるお方からの殺気にあてられてしまったらしい。 つーかさぁ…! 「(「みど」ってことは緑だろ?六年しかいねぇじゃねぇか!つかこの殺気、七松先輩だろ!?解ってるけど期待裏切れよちきしょう!)」 「―――では私はこれで失礼するよ。委員会の仕事が残ってるからな」 「嘘つけ!暇してたじゃん!だから課題手伝ってって頼んだんじゃん!」 「いやいや…。庄左ヱ門に迷惑かけたくないから帰るよ。ちょ、離せ!」 「お願い、見捨てないで!」 「お前が火薬委員とかぬかすからだろ!あと、力強すぎだ!無駄に鍛えやがって!」 「好きでついたんじゃないやいっ。だって私、本当に火薬委員だもん!ほら、名簿にもそう書いてる!」 「チッ」 「三郎ォオオオ!何で舌打ちするんだよ!」 「今のは私じゃないぞ!ほら、死にたくなかったら本当のことを言え!異動の件は私に任せろ!」 「じゃあ最初の台詞をお願いします!」 三郎の制服掴んで泣きながらお願いすると、三郎は真面目な顔になってその場に座ってゴホンと咳をする。 一度お茶をすすって、今までのことがなかったかのような態度で私をジッと見つめた。 「ところで吾妻。お前なに委員会だっけ」 「体育委員会です!」 ハッキリキッパリ言うと、ゴトンと音がして気配が消えた……。 そう、私たちは助かったのだ! 「帰った…?帰ったよな?」 「あー……もう私死にたい…。もしくは退学したい…!」 「吾妻!私まで巻き込むな!殺気で死にそうだったぞ!?」 「その殺気を毎日浴びてる私は何回死ねばいいんですか!?もう超怖いよー!真上にいたよ!めっちゃ見てたよ!」 「それを視界に入れた私のほうが怖かった!お前のことめちゃくちゃ凝視してたぞ」 「ぐすん…。殺気で死んじゃう…。いつか死んじゃう…」 なんか色々突っ込みたいけど、恐怖から解放されたので二人揃って深い溜息を吐いた。 もー…、私ずっと火薬委員なのに何でこうなるのさ。 体育委員は嫌いじゃないよ?でも七松先輩がいるじゃん?もうどうなるか解るよね。うん、振りまわされるよね! 七松先輩は好きだけど、あの有り余った体力についていけないよっ…。 殺気で疲れた身体を癒していると、廊下から足音が聞こえて、私と三郎にまた緊張が走る。 また七松か!?七松再臨か!? 「お、おい…。なんかすっげぇ寒くなかったか?」 入ってきたのは若干青ざめた竹谷だった。 虫カゴと網を持ったまま私と三郎を見て聞いてきたけど無視をして泣きながら飛びついた。 「うわあああん竹谷ぁあああ!私今日から体育委員会になりましたーっ!」 「え、は?どういう―――ああ、なるほどな…」 泣きつく私の頭を撫でながら最初だけ戸惑っていたけど、すぐに事情を解ってくれた。さすが竹谷!伊達に私と五年間同室じゃないね! 「まぁ頑張れよ…。疲れたらいつでも俺に飛び込んでこい」 「竹谷ぁ…!」 フッ…とタケメンスマイルをする竹谷にちょっとだけイラッとしたけど、そこは空気を読んで竹谷を抱き締める。 いい奴なのは解るんだけど、なんかイラッとするんだよなぁ。好きだけど。 「ほんとさー…、体育委員会とか無理だよ…。何だよそれ、拷問かよ…」 竹谷に抱きついたままぼやいていると、再び天井からゴトッと音が響いた。 音がした場所は先ほどと同じ場所。移動したので頭上じゃないにしろ、今度は背中に痛いほどの視線を感じる…。 竹谷は「ヒッ!」と声をもらして私を抱きしめる。丁度見えるもんね、その位置…。 「(おい、声を出すな竹谷。いないものとして圧力かけてきてるんだから、ないものとして振舞え!)」 「(で、でもよ…!目合っちまってるしっ…。ど、どうにかしてくれ吾妻!)」 「(うおおおい、マジか!…よし…)……で、でも…。毎日身体を動かせるなんてすっごく嬉しいな!七松先輩とも一緒にいられるわけだし!」 「お、おう…!よかったな吾妻!」 「吾妻、私も応援してるぞ。きっと立派な忍者になれること間違いない!」 「というわけで七松先輩。今日から宜しくお願いします」 「おい吾妻、何言ってんだよ。ここに七松先輩なんていねぇだろ?」 「あ、そっか。ついつ「おう、解った!」……(返事しちゃったよ…。確かに私から話しかけちゃったけど…。良くも悪くも素直な人だな)」 機嫌よく返事をした七松先輩はまた音を立てて今度こそ本当に帰って行った。 三人揃って部屋に座りこみ、当分の間喋ることなく体力の回復を図るのだった。 七松先輩の殺気、マジでパねェ! そして今日からさらなる地獄が私を待ってるわ!やったね! (△ TOP ▽) |