夢/とある後輩の災難 | ナノ

戦忍び専用派遣会社


!注意!
六年卒業してます。
これからさき、就職先の上司などモブが大量に出てきます。





「そこをどうにかお願いします!」
「しつこいぞ吾妻。それにもう出してしまった」
「そんなぁ…!」


床に額を擦りつけ、ひたすら懇願するも、木下先生は首を横に振るだけだった。


「でも元はと言えば三郎がいけないんですよ!?」
「それに気付かんかったお前も悪い。もう六年生だろう?」
「そうですけど…。だけどっ…七松先輩と同じところに就職は嫌だ!」


早いもので私たちも六年生へと進級した。いや、詳しくは進級させてもらった。進級試験、ギリギリだったんだよね…。
五年の終わりごろに提出した進路希望調査票。
それを、六年になってからも提出した。確認と、実習(インターンシップ)の申し込みを行うためだ。
あの頃と変わりなく、それなりに評判のいいお城を希望し、書いて提出したのだが、先ほど先生の口から言われたのは、希望とは全く違うところだった。
そう、七松先輩が就職した場所だ…。
で、何故こうなったかと言うと、三郎しか考えられない。あいつ、立花先輩みたいに私と竹谷で遊んでんだ!きっと入れ替えたに違いない!
ようやく振りまわす先輩たちがいなくなって清々したと思ったのに、何故同級生の三郎に振り回されないといけねぇんだよもう!


「ともかく、もう取り下げることはできん。次の休みにちゃんと挨拶してこい」
「でもっ…でもぉ…!先生ぇ!」
「はぁ…。一度もやっておらんのに、「できない」はダメだ。体験して、本当にダメだったら変えろ。以上!」
「うわああああん!」


私をひっぺがえして先生は職員室へと向かって行った。
私は少しの間その場で泣いたり、文句を言っていたけど、下級生たちに心配され、恥ずかしくなったので重たい足取りで部屋へと戻ることにした。


「………」
「ど、どうした竹谷…」
「俺の就職希望が、七松先輩が就職した先になってた…」
「お前もか!」
「吾妻もか!?」


どうやら私だけではなく、竹谷も三郎の手によって入れ替えられたみたいだ…!
仲間がいてよかった!


「もうなんなのあいつ。私たちで遊びすぎじゃない?」
「つーか、先輩たちが卒業してから悪戯に拍車がかかってないか?」
「先輩たちの卒業式のとき、私たちが先輩たちに勝負申し込んだじゃん」
「おお。俺、七松先輩とやって一瞬で負けたけど…」
「私、潮江先輩とやって負けた…。で、三郎は立花先輩とやって、すっげぇあっさり負けたじゃん。あれにまだ腹立てんだよ」
「だからって俺らで鬱憤晴らすなよなぁ!」


七松先輩は好きだ。まだ全然好きだ。愛してる。
振り回されなくなって嬉しい半面、ちょっと寂しいなって思ってる。
卒業式のとき、「文は出さんぞ」って言われたけど、マジで届かない。
私から出せばいいんだろうけど、出したところで返信はないと思う。
何より。七松先輩が就職した先はとても忙しいらしい。だから文を書く時間も、読む時間もないと思うんだよね。
いくら人間離れした体力の持ち主であろうと、今は下っ端。きっと忙しい毎日を送って、体力もなくなっているはず。
だから文を送るに送れない…。
でもね!だからと言って、七松先輩と同じところに就職したくないんだよ!そんな忙しいとこ行きたくないっつーの!


「…ところで竹谷、七松先輩ってどこに就職したの?」
「え、お前知らねぇの?お前が知らねぇなら、俺も知らねぇよ」
「なんか…「たくさん戦える!」って言ってたから、きっと戦忍びになってるとは思う」
「だろうな」


そこで二人揃って溜息を吐いて肩の力を抜いた。瞬間、


「私と同じところに就職するんだってな!」
「「ひっ!」」


気配も何も感じなかったため、久しぶりに素で驚いてしまった。
心臓も止まって、全身から血の気も引く感じが懐かしい…。
振り返ると、卒業式のときより少し大きくなった七松先輩が私服姿で立っておられた。


「七松先輩!」
「おう、久しぶりだな吾妻!それと竹谷!」
「な、…何故ここへ…?」
「今日は久しぶりの休みだったからな!遊びに来た!」
「ああ…、なるほど…」
「あとお前たちが今度の実習で来るって聞いたから」


さすが忍者の世界…。情報伝達が早いようで…。


「そ、その件なんですけどね七松先輩「誘ったときあんなに嫌だって言っていたのに、結局来るんじゃないか!そんなに私から離れたくないのか、お前たちは!」
「ちげぇし、俺じゃねぇし、三郎だし…」
「なんか言ったか、竹谷」
「なんも言ってないっす…」
「そうだ!お前たち明日休みだろ?今から顔を見せに行こう!」
「「え?」」


ニコッと笑顔だけは変わらない七松先輩。
その大きな手で服を掴まれたと思ったら、「どんどーん!」の大きな掛け声とともに外に飛び出た。
太陽が眩しい…。って思ってる場合じゃねぇええええ!


「ちょ、ちょっと七松先輩!」
「く、苦しい…!」
「お頭もお前たちを見たいって言ってたからな!」
「いや、話聞いて下さいよ!つか、あれは間違いなんですって!」
「も、マジで……息が…ッ!」
「ちょっと黙れ吾妻。少し遠いから本気で走らんと今日中に間に合わん。舌噛むぞ」
「(お前一体どこから来たんだよ!)」
「……」
「いやあああああ!先輩っ、竹谷が死にかけてるんでちょっと待って下さい!」


ちょっ富松。


「いや、まぁ…。なんて言うか…」
「いてぇっす!七松先輩、今さっきから枝が俺の頭―――ってぇ!」


私を小脇に抱え、竹谷を肩に担ぎ、森を走って行く七松先輩を、誰が人間だと思うだろうか。
化け物だよ!解ってたけど化け物だよ七松先輩は!それと、後輩を荷物扱いすんな!


「ところで、一体いつになったらつくんでしょうか…」
「もう少しだ」
「今さっきもそう言って、一刻以上経ってるんですけど」
「しかもかなり急斜面だし…ってぇなぁもう…。俺の分の身長も考えて下さいよ…」
「よし着いた!」
「「いたっ」」


森を飛び出し、地面にポイッと投げられた。
私は胸を、竹谷は頭を打って、心の中で「大雑把め!」と文句を言いながら立ち上がる。
目の前には大きな木々に囲まれた屋敷が建っていた。そこに人工物があるととても違和感を感じる。
それほどここは森深い場所だった。きっと、山田先生の実家以上に秘境だと思う…。
森に慣れている竹谷も、目の前の屋敷を見てゴクリと生唾を飲んだ。私だって怖い。


「何してんだお前たち。中入るぞ」
「えッ!?い、いや…私たちは……ね、ねぇ竹谷!?」
「お、おうよ!いきなり来て失礼ですし、仕事もあるだろうし…」
「お頭ー!どこですかー?」
「「(頼むから人の話を聞いてくれ!)」」


ここまで来てしまったなら、諦めるしかないみたいだ…。解ってましたけどね…。
重たい足取りで七松先輩のあとを追い、屋敷に一歩足を踏み入れると、凄まじい殺気が四方八方から飛んできた。
すぐに懐に忍ばせていた苦無を持ち、屋敷から離れる。


「なはは。勘は落ちてないようだな」
「え…?」
「やべぇ…、もう一歩踏み込んでたら死んでたわ…」
「お頭、こいつらが私の後輩です!」


私と竹谷は冷や汗をかいているのに、七松先輩は笑顔のまま、屋敷に顔を向けた。
つられて私も屋敷を見ると、七松先輩より少し身長は高いものの、普通の男の人が出て来た。この人が、お頭…?


「いやー、あの殺気にそこまで反応できるとはな!小平太、なかなかいい後輩じゃねぇか!」
「はいっ、私が鍛えたんです!」
「そうかそうか!」


お頭、さん…は、ガハハと笑いながら七松先輩の頭を撫で、私と竹谷に近づいてくる。
思わず後ずさってしまったが、「まぁまぁ」と笑って殺気をしまってくれた。こ、怖っ…!


「………お?女子がいるじゃねぇか」
「はい、こいつも忍たまです」
「へー、そりゃあ面白ぇな。…ああ、文に女子の名前が載ってたな。しっかり読んでなかったから忘れてたわ!」
「ほら、お前たち」
「あっ……。えっと…、は、初めまして…。忍術学園六年の吾妻千梅です」
「お、同じく竹谷八左ヱ門です」
「因みに吾妻は私の女です!」
「なっ…七松先輩!?(初めてそんなこと言われた!)」
「おー、お前が小平太の女か!話は聞いてたぞー!ちっちぇなぁ!」


七松先輩と同じぐらい豪快で、大雑把なお頭さんに頭をグリグリと撫でられ、首がゴキンと鳴った…。いてぇ。
それを見た竹谷がガタガタと震えていたが、助けてはくれないようだ。


「先生から聞いてるぜー。ここに就職したいんだって?」
「あ…それはちょっと手違「そうです!」
「そうかそうか!因みにうちが何してるか知ってる?」
「いえ…」
「そっちの……えーっと、竹左ヱ門くんは?」
「八左ヱ門です。私もちょっと……詳しくは…」


だって希望場所じゃないんだもん!知るわけないじゃん!


「うちね、戦忍びの派遣会社なの」
「「え?」」
「ほら、今って戦多いだろ?戦忍び専用の会社があったら喜ぶんじゃないかなぁって作ったのが俺の親父。まぁ親父は一年前に戦場で死んじまって俺が跡継いでんだけどな!」
「立派な最期でした!」
「だろう?親父も嬉しそうな顔してたし、俺も覚悟してから悲しんじゃねぇんだよ」
「はぁ…」
「(もうやだ帰りてぇ)」
「うち、そういう業界で結構有名でさぁ。引っ張りだこなんだよ、すげぇだろ!でも需要と供給が追い付かねぇの!だからお前らが入ってきてくれて嬉しいぜ!」
「いや、まだ誰も就職すると「ありがとうございます、お頭!よかったな、お前ら!」
「これから頼むぜ、二人とも!」


ニコッと笑って両手を私と竹谷の肩にポンッと置こうとしたが、その手から微かに殺気を感じた。
でももう避けれない。歯を食いしばってその手を肩で受け止めた。


「っ…!」
「うおっ!」


受け止めたのは私だけで、竹谷は指が掠(かす)ることなく避けた。あいつ、私より反射神経いいからなぁ…。
つーか痛い!なに今の!肩に触れるか触れないかの距離で、いきなりスピードあげたぞ!置いたって言うより、叩いたって感じだった!


「……」
「な、なんすか…?避けたらダメでしたか…?」
「痛い…。脱臼するかと思った…」
「おう、合格だ!」
「よくやった、二人とも!」
「「……」」


ここに来て、訳のわからないことばかりで、もう驚きの声すら出なくなったよ…。


「すげぇなお前ら!まさかあれを受け止め、避けるとは…」
「お頭、私が鍛えたんです!」
「おう、よくやったぞ小平太!こいつらは使えるぜ!」
「あの…、私たちにも教えてくれないでしょうか…?」
「おー、悪い悪い!あのな、今の脱臼させるつもりで叩いたんだよ」
「まっ…!?マジ、っすか…」
「………」
「ほら、戦忍びって体力とか筋肉とかが必要だろ?腕っ節が強い奴がよく来るんだけどよ、今ので大体脱臼すんだよなぁ!因みに、あれ掠ってもダメだから」
「…え?」
「だって、毒が仕込まれたらあれだけでも死ぬだろ?耐えれるか、避けれるか。それができた奴しかここでは生きていけねぇなぁ」
「でも吾妻と竹谷は合格ですよね!」
「おー、二人は合格!二人とも小さいのによくやるじゃねぇか、気に入ったぜ!」


どうやら、学園を卒業しても私たちの休む場所はないらしいです。
就職先も、生か死かかよ!んで、また振り回されるのかよ!


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