進路調査票 七松先輩たち六年生が忍術学園を卒業し、私たち五年生が最上級生となった。 私たちを振りまわす先輩たちがいなくなって清々したものの、色々なことに責任がのしかかる。 辛かったり、苦しかったりするも、歴代の先輩たちは全部乗り越えていったんだ。 だから私たちも頑張ろう! 六人で誓い合い、背筋を伸ばした。 「で、吾妻。進路はどうする?」 六年になってまず最初に聞かれたことがそれだった。 五年のうちにある程度の進路を聞かれ、決定するのは六年になってからだ。 五年生のときは、「いいお城に就職したい」「戦忍びとして活躍したい」と思っていたが、その後色々考えた結果、私は忍者に向いてないことがよく解った。 無理だ。頭の賢くないし、戦闘だって微妙だ…。おまけに私は女なわけで、皆と対等に並べなくなる。 それを実感するのが怖いのもあり、私は一般職、カタギの人間に戻ることに決めた。 「私、忍者辞めます。やめて普通に暮らしたいです」 「そうか…。吾妻なら戦忍びとしても活躍できると思ったんだがなぁ…」 「いえ、私には無理です…」 木下先生に自分の気持ちを伝えると、先生は「そうか」とだけ呟いて頭を撫でてくれた。 怖い顔だけど優しい先生だよね! 話も終わったので部屋に帰ろうとしたら、部屋の戸が開いて三郎が入って来た。 「何だ。吾妻は忍びを辞めるのか?」 「聞くなよ。うん、まぁね」 「そうかー…。お前が働かなくても、七松先輩が養ってくれるもんな。いやー、お熱いですなぁ!私もそんないい人が欲しい。あ、先生。これ提出物です」 「ああ、すまんな。吾妻、お前も早く出せよ」 「え?」 「吾妻、結婚おめでとう!では、失礼します」 「は、え…?さぶろ…?」 「結婚するのは構わんが、提出物はちゃんと出すこと。今日中なら許してやる」 「あ……。えーっと、すみません、毎度毎度…」 「あと竹谷にも言っとけ」 「解りました。失礼しました…」 ………突っ込み…必要だったよな? 三郎のやつ、なんかおかしなこと言ってなかったか?私は結婚してないぞ?する予定もない。 大体、卒業した七松先輩から文の一つも届いてない。捨てられたと思ってるんだけど…。 「助けてくれ吾妻!宿題が終わんねぇ!」 「……木下先生が、今日中なら待ってくれるって」 「マジでか!よし、吾妻もやろうぜ!卒業できねぇなんて俺絶対ぇやだかんな!」 「おおっ、私もそれは嫌だ。頑張ろうぜ!」 「おう!」 半分泣きながら抱きついてきた竹谷と一緒に、出された宿題に手をつける。 三郎と雷蔵は優秀だからいいけど、私と竹谷はあんまり頭よくないからなぁ…。 なかなか進まない宿題にイラつきながらも、埋めていく。 でもどうしても解らないところがあったので、兵助に聞きに行くことにした。 三郎は絶対に教えてくれないし、雷蔵は委員会で忙しいし、勘右衛門は甘いもの要求してくる。 兵助は教え方は解りにくいものの(賢すぎて私たちには理解できない言葉で説明してくるため)、一番優しい。 二人揃って宿題を持ち、い組へ向かうと勘右衛門と兵助が楽しそうに話していた。 ちょっと気が引けるなぁ…。でも終わらせないとだし…。 「兵助ー、ちょっといい?」 「あ、千梅!」 兵助を呼んだのに、何故か勘右衛門がこっちを振り向いて名前を呼ぶ。 軽い足取りで私と竹谷に近づいて、ニコッと笑った。 「おめでとう!結婚するんだってね!」 「え?……誰が?」 「千梅がだよー!三郎から聞いたよー!」 「吾妻、おめでとうなのだ」 「はぁ?」 「お前、結婚すんのか?」 「するわけないじゃん。ちょ、三郎どこ行った!」 勘右衛門と兵助に何故か祝福された。竹谷も驚いて私を見てきたけど、私だって驚いてんだよ! だけど犯人はすぐに解った。あの悪戯大好き天才様だ! 宿題を二人に預け、三郎を探す。あのバカ野郎、どこ行きやがった! つか早く止めないと変な噂がたつ!その前に潰しておかないとっ…! 「わっ!」 「いたっ!…あ、吾妻!?ご、ごめんね吾妻!」 廊下の角を曲がった瞬間、丁度雷蔵とぶつかり、尻持ちをついてしまった。廊下は走るべからず…まさにその通りだ。 「どこも怪我してない?お腹の子も大丈夫?」 「怪我は………はい?ね、ねぇ雷蔵…。今なんて言った?」 「え?お腹の子は大丈夫?って…。ごめんね、まさか吾妻が飛び出してくるなんて思ってなくてさ…」 「いやいや、それはいいのよ。こっちに非があるから。それより、何でお腹の子?私、子供いないよ?」 「え?だって三郎が…」 「三郎ォオオオオ!出てこい!どこ行った!」 もぉおおおお!何言ってんだよあのバカ様は! 今度は走らず、早歩きで廊下を進み、学級委員長委員会の部屋へと向かう。 教室につくと同時に、竹谷も追い付いた。 「バカよ出てこい!」 「おい、ちょっと落ち着けよ…」 「こんにちは、吾妻先輩、竹谷先輩」 「庄左ヱ門!バカはどこいった!?」 「鉢屋先輩なら食堂のほうへ行かれましたが?」 「バカが三郎のことってよく解ったね!」 「ええ、まぁ」 「ところで庄左ヱ門。君は三郎から何て聞いた?」 「……。吾妻先輩のお腹には子供がいて、卒業と同時に七松先輩と婚約すると」 「盛りすぎだバカ野郎!」 「え?お前、いつの間に七松先輩とヤっ……」 「おバカさんは黙ってろ!庄左ヱ門、その話信じてないよね!?」 「信じてますよ」 「何で!?」 「七松先輩ならありえるかと」 「庄ちゃんったら冷静ね!」 「庄左ヱ門。……あ、吾妻先輩、竹谷先輩こんにちは」 「はい、こんにちは彦四郎!」 「おいっす」 「吾妻先輩、お子さんがお待ちでは?」 「ハァアアアアア!?」 おまっ、あの野郎…!どんだけホラ吹いてんだよ! 「あ、もう産んでいたのですか。それは失礼しました」 「産んでねぇし!そもそもまだヤってねぇよ!」 「「ヤる?」」 「ごめん、君たちにはまだ早かったね!あと竹谷ァ、お前何で今さっきから黙ってんだよ!親友が困ってんだから助けろよ!」 「吾妻、辛かったら言えよな。俺、子供の面倒見るの結構好きだぜ?」 「あーもう!」 「忍者辞めるなんて言わなければよかった!」 自分の発言に後悔して叫ぶと、先ほどの映像がブツッと消え、真っ暗な天井がうつった。 ………あれ?こ、これはもしかして…。 「んだよ吾妻…、うっせぇなぁ…」 ゴソゴソと布団から顔を出してきたのは竹谷。 「どうしたぁ?」と眠たいにも関わらず気にしてくれる優しいバカだ。今さっきのは本気で腹立ったけどな。 「竹谷…、私たちって五年生だよね?」 「はぁ…?何言ってんだよ…。六年生に早く卒業してほしいからってボケたか?」 「いや………そうか…夢か…」 「変な夢でも見たか?」 「かくかくしかじか」 「おほー…。そりゃあ怖ぇ…。え、お前戦忍びなんねぇの?」 「いや…、なるつもりだよ?何でそう思ったのか不思議でならん」 「だよなー。ともかく夢だったんだし、寝ようぜ!」 「う、うん…。ごめん起こしちゃって…」 「いいって。じゃ、おやすみー」 手を軽く振って、また布団の中に潜っていく竹谷。 すぐに寝息をたて始めた。寝付きがいいことで…。 竹谷を見たあと、机の上に置いてあった進路希望の紙を見つめる。 明日提出だから、あんな夢みたのかなぁ…。 「ま、普通の人間に戻るってことはないな。おやすみー」 絶対にいいお城に就職してみせる! しかし、これは予知だったのかもしれない…。まさかあんなことになるとは。 (△ TOP ▽) |