将来の話 委員会活動もない、静かな放課後。 縁側でのんびりと縫物をしていると、七松先輩が六年長屋からやって来た。 会釈をして、後ろを通ると思って少し道をあけると、私の隣に腰を下ろして座る。 バレーボールを持っていたから、これから遊びに行くと思ったのに…。 不思議に思って「どうかしましたか?」と聞くと、ボールを持ったまま私をジッと見てきた。 もしかして、縫ってほしいものでもあるのかと思い、縫っていたもの……竹谷と私の手拭いを置いて、手を出すと小首を傾げられた。 あ、違ったみたい。 「吾妻、お前将来の夢とかあるか?」 「将来の夢ですか?」 違ったみたいなので、また手拭いを取って縫っているとそんなことを聞かれた。 いきなりだったからすぐに答えることができず、「うーん」としばらく唸る。 その間、珍しく黙って待っている七松先輩。 今日はなんだか大人しいですね。いつもだったら「五秒以内に答えろ」って暴君ルール発動させるのに…。 「夢、とは違うかもしれませんが…」 「おう」 「評判のいいお城に就職して、それなりにいいとこまで出世したいなぁとは思ってます」 勿論、戦忍びとして。ここまで強くしてもらったんだ。どうせなら、この力や技を使いたい。女として生きるのは諦めてるしね。 「最初は住み込みでしょうが、出世してからは町……いや、森とかで暮らしたいですねぇ。動物も好きだから動物にも囲まれたいです」 「いいな、森!やっぱ忍びだし、街中で敵に襲われるのは困るもんな!」 「ええ、そうですね。森なら罠も張り巡らせることができますしね」 「それに食うに困らん!」 「あはは、七松先輩はお肉好きですもんねー」 「おう、好きだ!だから森いいな!よく考えているじゃないか、吾妻」 「ありがとうございます」 「それに子供たちもたくましく育ちそうだ!」 「……子供…?えーっと…、(なんか…ちょっと違わないか?)」 七松先輩と会話が噛み合わないのはよくある。今回もそんな感じがして、手を止めて七松先輩を見ると、彼は嬉しそうにニコニコと笑っていた。可愛い…。 「七松先輩?」 「何だ?」 「何で子供が出てきたんですか?」 「え?だっているだろ?」 「え?」 何を言ってるんだろうか…。 私一人で暮らしているのに、子供がいるわけないじゃないか…。あれか?孤児を引き取ると思ってるのか? ま、まぁ…できるなら七松先輩と夫婦(めおと)になって……あれだ、子供は欲しいなぁ…って思ってるけど…。 でもきっとその頃には、私に飽きてるだろう。だから結婚なんてできるわけがない。 そもそも、未だ夜を共にしたことないんだよ?そりゃあ私が拒否しているからもあるけど、無理やり襲ってこないあたり私に興味がないのかもしれない…。 そう思うと寂しいが、だからと言って共にはできない。だって私たちはまだ忍たまだ。他の人にも迷惑になるわけだし、何より孕む自信がある。七松先輩ならきっと一発だ。 だからね、きっと学園を卒業すると同時に捨てられそうな感じがするわけよ。あ、やべ。泣きたい。 「吾妻ー?」 「あ、すみません。何でもないです」 「ところで吾妻」 「はい?」 「お前、子供何人産める?」 「えッ!?」 いつもと変わらない様子で、ボールを抱き締めたまま聞いてきた。 「は…?え、っと……何を…?」 「だから、お前は子供何人産めるんだ?」 「……誰の?」 「私以外の男と作るつもりか?」 「…七松先輩の子供ですか!?」 「だからそう言ってるだろ。お前やっぱりバカだな」 「(あなたに言われたくない。けど…)」 言葉に出ないほど嬉しい。 この人の中では、遥か先の未来にも私がいる…。 嬉しさと同時に、恥ずかしさも湧きあがってきて、涙で視界が歪む。 一度俯き、手の甲で涙を拭ってから七松先輩と視線を合わせると、「どうした?」と聞いてきた。 「頑張って何人でも産みましょうとも!」 「そうか!」 婚約の言葉なんて七松先輩に必要ありませんよね! ええ、そんなあなたが私は大好きですよ。とても愛しいです。 「私頑張って組頭になる!」 「大出世ですね。でも死んだら嫌ですよ」 「死なん!だからお前も死ぬな」 「私も死にませんよ。たくさん子供産まないといけませんからね」 「そうだな。で、お前いつ忍者辞めるんだ?」 「子供ができたらですかねぇ」 「私すぐに作れるぞ」 「……。せめて二年は戦忍びとして働きたいです…」 「じゃあ二年も我慢するのか?そろそろ限界だぞ?」 「………すみません。…とは思うんですけど、…あのー…何で無理やり迫ったりしてこないんですか…?」 我ながら野暮なことを聞いてるな。と思ったけど、不思議でならん。 だって本能の赴くままに生きてる人だよ?ヤりたかったらヤる!そんな人っぽいのに、実は違うのかな。 「だってお前、嫌なんだろ?」 「…嫌じゃない、ですが…。学園にいるときは……とは思います…」 「だから襲わない」 「……私のため、ですか?」 「当たり前だろ?」 普段暴君で人の話なんて聞きやしない人だけど、実は私のことを考えてくれるこの人にまた惚れ直してしまう。 天然の垂らしだ。天然はダメだよ、天然は。 「でもヤりたい」 「……」 「吾妻、ヤりたい」 「さーて、縫物も終わったし夕食でも食べようかなぁ。今日の当番は雷蔵と三郎だったはず…」 「……。吾妻!」 「は、はいっ」 裁縫をしまい、立ち上がって七松先輩に背中を向けると、怒りがこもった声で名前を呼ばれ、直立不動になって止まる。 腕を掴まれ、無理やり反転させられると、唇に温かいものがあたり、七松先輩に接吻されていることに気づくまで時間がかかってしまった。 「まぁいいけどな。私、好物は最後までとっておくタイプだから」 「……」 「そのままおいしく育ってくれ!じゃあ、私は鍛錬にでかけてくる!」 「い、…行ってらっしゃいませ…」 「おう!」 呆然と先輩を見送り、残された私は唇に残る感触を指で触りながら、顔を赤く染めて部屋へと戻って行った。 笑うと可愛いのに、あんなときに見せる顔は大人びてるから苦手だ!格好よすぎる! (△ TOP ▽) |