後日… 「嘘っ、私そんなに寝てたの!?」 「うわっ、きたねぇなぁ…。粥飛ばすなよ…」 「あ、ごめん」 あれから数日後。 起き上がれるまで復活した千梅は、八左ヱ門が持って来てくれたお粥を残すことなく食べていた。 あれだけ血を流し、臨死体験からここまでの復活に、伊作は「さすが小平太に続く体力バカ」と呆れて笑った。 元々治癒力が高いのもあり、今では歩くことも可能。それでも腹部の痛みには勝てず、途中で誰かの肩を借りなければ歩けなくなるのだが。それでも同級生たちは喜んだ。 「あれから一日ぐらいしか経ってないのかと…」 「だとしたらお前の治癒力どんだけすげぇんだよバーカ」 「だよねー!はい、ごっそうさんです。おいしかった!」 「食欲もすげぇし…」 「何日も食べてないからお腹空いてるんだよ」 寝間着を着せられ、背中には羽織り。 いつもは結っている髪の毛を下ろして、ニコニコと笑う千梅を、誰が怪我人だと思うだろうか。 呆れながらも八左ヱ門は鍋を片付け、薬を渡す。 その薬が伊作特製の苦いものだと解っているので、表情を歪めるも、許してくれるわけもなく、半分強制的に飲まされた。 「苦いぃ…」 「善法寺先輩特製だ。絶対利くぞ」 「解ってるけどぉ…」 「ワガママ言うな!これで死んだら、俺がお前を殺してやる」 「うー…ごめんよー。そんなに睨むなよー」 目が覚めたとき、丁度目の前には八左ヱ門がいてくれた。 起きた千梅を見た八左ヱ門は泣きそうな顔で自分の名前を何度も呼んで、何度も「よかった」と呟いた。 その行動で、自分がどれだけ危なかったか察することができ、それと同時に申し訳ない気持ちになった。 素直に八左ヱ門の言うことや、伊作の言うことに従い、そして… 「おー、吾妻。もう飯食ったのか?」 「七松先輩…」 「七松先輩、俺ちょっとこれ片づけてくるんで、こいつ動き回らないか見張ってて下さい」 「ちょ、ちょっとハチ!」 「解った、任せろ!」 小平太と二人っきりになると恥ずかしくなるのだった。 記憶がないので、どうやって、誰が治療したかなどは八左ヱ門を通じて知った。 あの不器用で大雑把な小平太に傷口を縫ってもらい、助けてもらったと思うと、背中がくすぐったくなる。 嬉しいし、感謝すべきことなのに、どうそれを伝えていいか解らない。 「もう痛くないか?」 「え?あ、はい…。大丈夫、です…」 「そうか」 嘘だった。 まだズキンズキンと痛みが襲ってきて、ぐっすり眠れない。 だけど心配されると平気なフリをしてしまう。 嘘なんて小平太には通じないし、いつもなら「何で嘘ついた?」と威圧してくるのに、今回だけは納得してくれた。 きっと千梅の気持ちを知ってるからこその答えだ。 その気遣いにまた背中がくすぐったくなる。 「……」 「…」 会話もそれで終わり、すぐに静かになる部屋。 そう言えば、お礼も言ってないし、目も見てない。 チラリと横目で小平太を見ると、小平太はずっと千梅を見ていて、視線が噛み合った。 「何だ?」 「いえ!」 「厠行きたいのか?」 「ち、違います。大丈夫です!」 「じゃあ飯か?」 「もう食べました!」 「そうだったな。薬は?」 「竹谷に無理やり…」 「…」 「……七松先輩?」 「何故、甘えん」 「……」 怒らせてしまったかと思ったが、そうではなかった。 ビクビクと外した視線を戻し、再度小平太を見ると、滅多に見れない寂しそうな表情をしていた。 「私より、竹谷に助けられたほうがよかったか?その傷も、伊作に縫ってもらったほうがよかったか?」 「……いえ…。全て七松先輩でよかったです。この傷跡も、自慢になります。好きな人に助けてもらったときの傷だと」 再び走る沈黙。 傷口を手で抑え、ゆっくりと気持ちに整理をつけながら伝えると、「そうか」とだけ返ってきた。 自分がもっと女の子らしく甘えたりすればいいのかもしれない。だけど、女の子らしいなんて自分らしくない。想像すらもできない。 と言うより、ただ恥ずかしいだけ。甘え下手でもあった。 「……っ、…」 「…。私がここにいないほうがいいな。早く元気になれよ」 立ち上がり、ポンポンと千梅の頭を叩いて背中を向けた小平太の制服を、キュッと掴む。 勢いがあったのか、布団から乗り出し、片方の手を畳みについていた。 だけど腹部の傷も、肩の傷も痛み、パッと手を離して布団に戻る。 「どうした?」 「……あー…っのですねぇ…。い、今から寝るんで、そこに…………。そこに、いて、くれ、ません、っか…?」 意識するから恥ずかしいんだ。意識しなければいいんだ。 そう思っても、相手が小平太だと思うと言葉はたどたどしくなり、声量も小さくなっていく。 「おう!」 しかし、耳のいい小平太にはあまり関係のないことだった。 喜んで笑い、再び腰を下ろしてから「寝ろ」と千梅を無理やり横にさせる。 「しっかり寝て、さっさと治せ!」 「はい。バレーも鍛錬もできませんもんね」 照れながら笑って寝転んでいる千梅の顔左右に両手をついて、身を乗り出したあと、首筋に接吻をする。 思わず固まってしまう千梅と、満足そうに笑う小平太。 「そうだな、お前がおらんとつまらんからな!」 首筋への接吻は、執着。 死んでも逃がさん。そう言わんばかりに小平太は笑っていた。 「(ね、寝られない…!)」 (△ TOP ▽) |