傷跡 !注意! 流血・暴力表現があります。 女性器の話がチラッと出てきます。 苦手な方は読まないことを全力でおすすめします。 ついでに、こんな簡単に治るはずかない。雰囲気でお楽しみ下さい。 大怪我を負った千梅を抱き抱え、早急に学園へと戻って来た小平太は、すぐに保健室へと向かった。 保健室には既に治療の準備を整えていた伊作が待っており、部屋に敷かれていた布団に寝かせるよう小平太に命令する。 他の六年生は忍務で帰宅していないため、追って来ているかもしれない者がいないか警備をすることができなかった。 しかし五年の勘右衛門、兵助、三郎、雷蔵が名乗りをあげ、学園外へと出て行く。 いつもの平和な夜が流れているかのように見えるが、水面下で静かに動いていた。 「……」 「治るか?」 寝かされた千梅を見た伊作は一瞬目を細める。 戸を閉めた小平太は伊作の隣に座り、一番知りたいことを率直に聞く。 小平太の言葉に伊作は返事をすることなく、千梅の忍び装束を破いて斬られた箇所を露出させる。 帰ってくる前に、小平太が自身の制服を破り、千梅の傷口を圧迫していたので、なんとか出血多量で死ぬことはなかった。 しかし、緑色の服を真っ黒に染めあげ、触れば赤い血が手につく。 「伊作」 「言えない。こればかりは千梅の生命力にかけるしかないよ」 可愛くない後輩だが、嫌いなわけではない。だから死んで欲しくない。 テキパキと無駄な動きをすることなく治療を始める伊作。 小平太はその横を離れようとはせず、ジッと千梅の顔を見続けていた。 伊作に言われれば動いたし、時々唸る千梅を見て、手をギュッと握ってやる。 こんなの自分らしくない。と思うが、今自分にできることはこれしかなかった。 「出血もなんとか止まった…。あとは縫うだけだね」 「私がやる」 「え?」 「伊作、私にやらせてくれ」 千梅は女。だと言うことを無意識に思っていたせいか、文次郎や留三郎のときより丁寧に治療をした。 酷かった出血も止まり、浅かった呼吸が徐々に通常へと戻ってきている。 出血の量から、深くまで斬られていると思ったが、思ったより深くはなく、見た限りでは臓器もやられていないようだった。 一安心して汗を拭ってから呟くと、今まで黙っていた小平太が口を開き、伊作を真っ直ぐ見つめる。 「でも小平太不器用だろ?」 「やらせてくれ」 「不器用なお前がやると、余計な傷がつくんだ」 「伊作がやっても傷は残るだろう?傷をつけるなら、私がつける。私が責任を持つ」 身体に傷を負ってしまった。それもかなり大きいのを。 そして今から傷を縫って塞ぐ。 忍びの道を選んでいるとは言え、女性が身体に傷をつけるものじゃない。だから伊作は慣れている自分がすると言っているのだが、目の前の小平太は頑として譲らなかった。 どうせ傷をつけるなら、恋人である自分がつける。と言う意志を瞳から読みとれた。 それとは別に、「知らない男に傷をつけられた」ということに憤りを覚えていたが、伊作にはここまで読みとれなかった。 「そこまで言うなら任せるけど、ダメならすぐ変わるから」 「解った」 既に針を持っていた小平太は、なんの迷いもなく千梅の身体に針を刺した。 痛みに千梅の表情は歪み、暴れようとするのを伊作が抑えて止める。 途中、苦痛で目を覚ますかと思ったが、一度も覚ますことなく縫合することができた。 千梅の額には脂汗が滲んでおり、息もあがっている。 縫合が終わり、針を置いたのを確認してから伊作が千梅の手を離すと、ぐったりと動きを止める。 縫合中の小平太はいつも以上に集中しており、無駄な動きをすることなく綺麗に傷口を塞いだ。 千梅が暴れてもその集中力は切れることはなく、伊作はただただ感心するのみ。 皮肉の一つでも言おうとしたが、空気を読んで、縫合した場所に消毒を塗った。 「見事だったよ」 「ああ」 「でもね、これだけは言わせて」 コトンと、消毒液が入った瓶を床に置いて、小平太の隣に正座する。 二人の目の前には死んだように千梅が眠っていた。 「何だ」 「斬られた箇所はほぼ下腹部。もしかしたら、子供が作れないかもね」 男とは違う身体の造り。 しょうがないと解ってはいるが、この怒りが消えることはなく、ただ膝の上に乗せた拳をギュッと強く握りしめた。 伊作はそれだけを伝えると、治療器具や薬をしまい、飲み薬や塗り薬だけを置いて保健室から出て行く。 残った保健室には誰もいないかのような静けさが漂っている。 「千梅」 いつもは名字で呼ぶし、そっちのほうが慣れているはずなのに、今は名前で呼びたい。 名前で呼んで、呼吸を確認して、生きていることを教えてほしい。 先ほどまで冷静だったのに、千梅が助かるのを確認すると、次第に殺していた感情が沸々と湧いてきた。 静かに立ち上がると、消えそうな声で名前を呼ばれた気がして、手を握る。 「……」 「…。死んだら私が殺してやるからな」 冷たい手の甲を自身の額に当てたあと、手のひらに唇を当てる。意味は懇願。 願うように目を瞑ったあと、手を布団に戻し、背中を向けて保健室を出た。 「私は今から忍びとして失格なことをしに行く」 「お供します」 保健室の外の廊下には八左ヱ門がずっと控えていた。 正座のままジッと戸を睨んで、助かるのを願っていたのだ。 小平太が廊下へ出ると、頭を下げ、持っていた小刀を両手で差し出し、小平太はそれを受け取る。 すぐに口布をあて、二人は揃って中庭から塀を飛び越え、森の中を走って行く。 冷静さを取り戻した八左ヱ門の目は異様に冷たく、感情を全て学園に置いてきた。 二人がついた場所は、千梅が忍務で行っていたお城。 警戒中のようで、たくさんの忍びや兵士たちが炎を焚いて動き回っている。 忍びとしては本当に失格なことだと思う。 大体忍びに友達なんて必要ない。恋人も必要ない。 必要のないもののために、こんな派手なことをしようとするんだから、尚更おかしい。 仕返し。だなんて、プロになる身として、許される行為ではなかった。 それでも二人は一切の迷いなく、お城へ堂々と侵入し、向かってくる敵を殺すのだった。 (△ TOP ▽) |