後編への繋ぎ !注意! 流血・暴力表現があります。 苦手な方は読まないことを全力でおすすめします。 吾妻と一緒に忍務に出かけた奴がケガを負って学園に帰って来た。 夜も遅かったので下級生たちに見られなかったのは幸いだった。 忍務内容より、「吾妻が危ない」ということを伝えると、そいつはその場で倒れ、善法寺伊作先輩に引き取られて行った。 顔色が悪かったが、大丈夫だろう。善法寺先輩がどうにかしてくれる。だから、今俺がすることは何だ? 同室で親友の吾妻を助けに行くことだ! 先生の指示を仰ぐのが正解だと思う。先生が遅いなら最上級生である六年生の指示に従う。 だけどそんなの待ってはいられなかった。 別の忍務で疲れたはずの身体を無理やり起こして、学園を飛び出る。 後ろで三郎たちが何か叫んでいたが、ジッとしていられるわけがない。だってあいつは俺の親友だぞ!? 「ハナコッ!」 指笛で呼んだ狼のハナコに吾妻がどこにいるか匂いで探させる。 ハナコと吾妻は仲がいいし、すぐに解るだろう。 止まることなく森を走り続けていると、後ろから物音が聞こえ、武器を構えて振り返る。 「っ七松先輩!」 しかし現れたのは、七松先輩だった。 すぐに武器を下ろして足を止め、学園を飛び出したことにどう謝罪しようかと思った一瞬の隙に、七松先輩は俺の横を通り過ぎて行った。 俺を見つけ、認識しときながら、一度も足を止めることがなかった…。 集中しているのか、吾妻が危険で焦っているのか。今の俺にはそれを判断するだけの冷静な頭を持っていなかったので、ハナコと一緒に七松先輩を追いかける。 既に七松先輩の背中を見失っていたが、ハナコがいるおかげで道に迷うことはなかった。 「いたッ!」 森の中のとある開けた場所に、吾妻がいた。正確には、敵二人に拘束された吾妻と、今まさに吾妻を殺そうとしている忍者がいた。 その光景を見た瞬間、自分が何故こんなとこにいるのか解らなくなるほど混乱した。 吾妻の抵抗を見届け、身体を斬られるところを見てから、ようやく「吾妻が殺されかけている」ことが理解でき、震える足で吾妻に駆け寄る。 敵は七松先輩が相手をし、俺は目を閉じて動くなくなっている吾妻の頬を懸命に叩く。 「しっかりしろ、吾妻!」 起きろよ、おいッ!何でこんなとこで寝てんだバカッ!地面で寝てたら七松先輩に、「情けないぞ!」ってまた鉄拳制裁食らうぞ!俺まで巻き込まれるんだから止めろよ! なぁ、起きろよ!起きてくれよ吾妻!やだ、…死ぬな…ッ!死ぬなよ千梅! 「死ぬな!」 倒れていた千梅を仰向けにして必死に声をかけるも、千梅はピクリとも動かなかった。 まだ身体は温かい。だから死んではいない。解っているけど、気持ちは焦っていた。 仲間が死ぬところなんて見たくない。親友なら尚更だ。 自分が忍びであるということを忘れ、ただひたすら悲しんでいる俺の頬を、七松先輩が殴った。 敵は逃亡したのか、姿はない。 七松先輩は特に喋ることなく俺から千梅を抱きあげ、学園へと走って行く。 「……くそっ…!」 こういう時こそ冷静さが必要なのに…。 でも今は後悔している暇はない。 すぐに立ち上がり、地面に落ちていた千梅の小刀を拾ってから、七松先輩と千梅を追いかける。 隣を走るハナコが「大丈夫?」とでも言うように俺を見てきたので、頭を撫でて安心させようとしたが、自分の手が真っ赤に染まっていることに気づいて、息が止まった。 俺の血じゃない。七松先輩の血でもない。この大量の血は………。 「……」 首を左右に振って、何も考えないようにした。 それなのに、目の前を走る七松先輩から濃い血の匂いが届き、涙腺が緩んでしまう。 大丈夫。きっと大丈夫だ…。七松先輩の足ならすぐに学園に戻れる。学園に戻ったら善法寺先輩がいるし、立花先輩だっている…。だから大丈夫。 「大丈夫だ。大丈夫だ…。大丈夫なんだよちきしょう!」 俺はひたすら千梅の無事を祈ることしかできなかった。 (△ TOP ▽) |