夢/とある後輩の災難 | ナノ

傷跡


!注意!
流血・暴力表現があります。忍者してます。
苦手な方は読まないことを全力でおすすめします。





非情にまずい状況に陥った。
今日の忍務は久しぶりに竹谷や雷蔵たちとは違う人と組んで向かった。
忍務内容はそれほど難しくなく、そこそこ悪名高いお城に侵入し、戦力を調べて報告すること。
暴れられないのはちょっとだけ楽しくないけど、今日は竹谷以外の友達と組んだから、阿吽の呼吸で戦えない。
やっぱり暴れるとしたら竹谷か、七松先輩とがいい。どう動くかなんて、見なくても解るからね。


「大丈夫?」
「な、んとか…」


組んだ子は、は組の生徒で、脱出するときに敵兵に見つかってしまい、現在追われてる最中。
何がまずいって、あの子が見つかった際に足に手裏剣を打たれ、ケガを負ってしまったからあいつを撒くことができないということ…。
最初はその子を担いで逃げてたんだけど、後ろから打たれた手裏剣によって私も肩を負傷してしまい、担げなくなって一緒に走り逃げている。


「くっそー…、あの忍者だけ撒けない…」


後ろをチラリと見ると、一人の敵忍者と目が合って前を向く。
複数の忍者は撒けたが、あいつだけは撒けない…。きっとあいつが忍組頭だと思う。雰囲気で解る。あいつは強いと。
でもまっ、私(忍たま)に追い付けないようじゃあまだまだだけどね。


「吾妻、……あの…すまない…」
「どうした?体力限界か?」
「……ああ…」


は組の子の顔色が悪いことは既に気づいていた。
足からの出血も酷く、体力もあまりない子だからしょうがない。
さて、どうしたものか。
肩を負傷しているからと言って、戦えないわけはない。
あいつぐらいなら倒せることができる。……いやいや、敵を侮ることなかれだぞ、私。


「(この子が残るより、私が残ったほうがいいよね…)」


戦えないこの子が残っても、言い方は悪いがすぐに殺されるだろう。足止めの意味がない。
じゃあ私が残って時間を稼いで、この子に逃げてもらうのがいい。うん、それがいい!
いつもだったら無条件で竹谷が残ってくれるんだけどな。って思いが出てきて、すぐに消し去った。今はあいつを止めないと。


「私が残るから、それ届けてね。んでもって竹谷か七松先輩に報告してくれる?」
「え…?い、いやいや!俺が残るよ。あんまり走れねぇし、何よりお前女じゃん」
「は?私より体力も腕力も劣ってる奴に言われたくねぇんですけど。言っとくけど私、あんたより強いよ」
「……でも…」
「ごちゃごちゃ言ってないで走れ。ここは私に任せな!」


こういうときに女扱いするの止めてほしいよねぇ。そんなことより忍務を優先しろって話。覚悟が足りねぇわよ!
伝えるだけ伝えて苦無を取り出して走るのを止める。
一度、「吾妻」と名前を呼んで足を止めた子に、「行けッ!」と殺気を込めて睨みつけると、グッと唇を噛みしめて再び走り出した。


「―――お前が残ったのか」


敵が近づいて来たのを確認して、地面へと降りると敵も一緒に降りてくれた。
お互い向い合い、武器を構えることなく一歩、近づく。


「まぁね。ほら、あの子足ケガしてるじゃん」
「……お前、女……くノ一だったのか」
「くノ一って言えばくノ一。でも、そこらへんのくノ一とはちょっと違うよ。彼女たちは綺麗に敵を倒すけど、私は泥臭くお前を倒す!」
「女にやられるほど、私は弱くないぞ」


口布の上から解るほど、敵がニヤリと笑って、手裏剣を打ってきた。
解っていたのでそれを紙一重でかわして、敵の懐へと潜りこんで鳩尾に一発食らわせる。
手ごたえあり。敵の身体が一瞬だけ宙に浮く。
怪物と言われている七松先輩に鍛えられてますから、これぐらいできないとね。
でも何があるか解らないので、すぐに敵から距離を取り、様子を窺う。


「なかなかやるな、お前…。げほっ…!女じゃないだろ」
「あはは、よく言われる。けど女ですよー。毎日ボロボロになるまで走って、鍛錬して、頑張ってるんですぅ。―――だから、侮るんじゃねぇよクソが」


女だと思って油断してやがったんだ、こいつ。
だってあんな攻撃、プロ忍者なら避けれて当然の速さだ。それとも本当に弱いんだろうか…。
目を細めて睨みながら言ってやると、敵はまた笑って「そうか」と呟いて、私を睨みつけてきた。
ああ、本気で戦ってくれるんだ。敵として私を見てくれたんだ。
もう普通の女の子に戻れないほど、私は戦いに魅力を感じる。戦えるのが嬉しいし、楽しい。
きっと、力もあるし体力もあるからだけど、動くのが楽しい!七松先輩にちょっとだけ近づけるような気がして嬉しい!


「利き手じゃないほうの肩を負傷したから、全然余裕で倒せる!」
「敵を侮らないほうがいいぞ、嬢ちゃん」
「あはっ、そうですね、おじさん。じゃあ全力で戦わせていただきますわ」


苦無や手裏剣が交わる音が森中に響き渡る。
何度か殴ったり、蹴ったりを繰り返し、逆もされた。
でも七松先輩の鉄拳制裁に比べたら全然痛くないし、辛くない。
心の中で感謝しつつ、体力の限界を迎え初めていた敵の喉元に苦無を突き立てる。
一瞬にして静まる森。次に二人の荒い呼吸がして、口元に笑みを浮かべた。


「じゃあ死ね」
「情けもなしか」
「何があるか解らないからね」


余裕をこいて敵と話すなんて危ない行為だ。だからすぐに殺す。忍者に情けなんて必要ない。
苦無に力を込めたあと、喉をかっ斬ってやろうとしたが、今から死ぬ男の口元には笑みが浮かんでいた。
それと同時に背後に気配を感じたので、振り返って苦無で飛んできた手裏剣を弾き飛ばす。
くそ…、撒いたと思ったはずの敵がこの戦いの間に追い付きやがった…。やっぱり七松先輩のように、瞬殺にはできないか…。
一気に増えた敵に、少しだけ焦りが生じた。私の体力もそろそろ限界だ。肩だって痺れてきた…。
たくさんいる敵をどうやって倒す?というか、倒せるのか?どうやって?


「くっ…」
「ようやく見せたな。その顔を待ってた」


私も結構淡々としているが、敵も淡々とした性格だと思う。
先ほどまで死ぬ寸前だったのに、恐怖に震えた声なんかじゃなく、最初と変わらない声色で話しかけてくる。
懐に忍ばせてあった小刀を取り出し、襲いかかってくる敵や手裏剣をかわしながら、一人、また一人と殺していく。
でもやっぱり人数には勝てず、たくさんの傷を作ってしまい、その傷口から大量に出血する。
残ったのは最初の敵一人と、部下らしき忍者二人。


「(やばい、ボーッとする…。息も苦しい。痛い…)」


そう言えば、は組のあの子。どこまで行ったかなぁ…。あの足だからまだ学園についてないかな?あはは、そうだったらちょっとヤバい。私、助からないなぁ…。
きっと竹谷と雷蔵と三郎が来てくれるんだろうな。死に顔なんて見せたくないなー…。


「(ってバカ千梅!そんなこと考えるな!)」
「考え事はこれが初めてだな」
「しまっ―――」


戦う最中に考え事はダメだ。
そんな戦いの基本中の基本を忘れ、感傷に浸っていた私に、敵は容赦なく襲いかかって来た。
反応が遅れ、二人の忍者に身体を拘束され、目の前には忍刀を持った男。

斬られる。

一瞬にして覚悟した。斬られるということ、死ぬということ。
でもまだ生きたいと思う自分がいて、拘束していた一人の男を尋常ではない力でふっ飛ばし、無理やり体勢を変えた。(多分これが火事場のクソ力ってやつだと思う)


「いっ……ぎ…ッ!」


避けたまではよかった。首を斬られず、死なずにすんだ。
次の行動に移そうとしたが、もう一人に拘束されているのを忘れていて、動きを止められた。
そいつを蹴り飛ばすと同時に、脇腹から下腹部にかけて鋭い痛みが走り、思わず声が漏れてしまった。
そこを中心に身体中の血の気が引いて、そのあと生温かいものが身体を伝う。
それが自身の血だということが認識できず、力なく膝を地面について、前のめりに倒れる。
痛いはずなのに、痛みは感じず、ただひたすら眠たかった。
地面はとても冷たいのに、目が冴えることはない。


「トドメだ」


見事な男だ。情けもなくさっさと仕事を終わらせようとしている。
吹っ飛ばしたはずの敵もいつの間にか復活して、私を見降ろしていた。
横目でそれを確認したあと、ゆっくり瞼を閉じる。しかし、いつまで経っても意識が飛ぶことはなかった。


「しっかりしろ、吾妻!」


聞きなれた声とともに、頬に刺激が走る。
もう眠たいんだから寝かせてくれ…。
そう思うのに、その声はいつまで経っても声をかけ続けてきた。


「………な……ぱ、…い…?」
「千梅、死ぬな」


誰が呼んでいるのか確認してから、眠ろうと目を開けると、七松先輩がいた。
私を見ることなく真っ直ぐ前を向いている。
ああ…、こんな真面目な七松先輩、見れるもんじゃないなぁ…。最期に珍しいもの見た、なぁ……。


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