不思議なカップル 「あはっ、ごめんね千梅」 「え?」 「後ろ後ろ」 「後ろ?」 唇が離され、ゆっくり目を開けると、爆笑してる勘右衛門が目について驚いた。 そのあと言われた台詞に疑問を抱きながら振り返ると、何故か先輩六人がいらっしゃった…。 一気に血の気が引いていく身体。しかも目の前には怖い顔をされた七松先輩が私をジッと見て…いや、睨んでいた。 「な、七松先輩が何故ここに!?」 「楽しそうだな、尾浜」 私の言葉を無視して勘右衛門に話しかける七松先輩。 他の先輩たちは「あーあ…」とまるで人ごとのように私たちを見ていた。 酔っぱらってる雷蔵が「あ、ちょーじ先輩だぁ」と声をあげ、中在家先輩へと飛びつく。 慌てて三郎も追いかけるけど、お酒を飲んだのか、何故か足取りが怪しかった。 「あはっ、女の子とキスできるのは嬉しいですよー」 「お前酔っぱらってるのか?」 「ええ、まぁ!あはは、すみませーん!でも舌入れてませんし、お遊びですから」 勘右衛門のこういうとこをちょっとだけ尊敬してる。 相手が誰であろうと引くことのない度胸は本当に凄い。私にも竹谷にも真似できないわ! 「そうか。でも私は遊びだろうと気に食わん」 「はい、ごめんなさい。もうしません。千梅もごめんねー?」 「あ、うん…」 「でもやっぱ許さん」 かなり怒ってらっしゃる七松先輩は勘右衛門に近づく、後頭部をガッと掴んでから自分に引き寄せ、……何故かキスをした…。あんたまで何してんだよ…。 今までニヤニヤとこの修羅場を楽しんでいた立花先輩がブハッと吹き出し、肩を震わせながら顔を背けた。あの人結構笑いのツボ浅いよね。 「―――これで当分悪さもできないだろ」 「いったぁ…。容赦ないですね、七松先輩」 「私は常に本気だ!」 「うーん、ま、いっか。これもプレイだって思えば楽しいです」 とか色々考えている間に、ガリッと鈍い音が聞こえ、視線を二人に戻した。 すると口元を抑えてる勘右衛門と、唇をペロリと舐める七松先輩が目に入って、頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。 「竹谷、何があった?」 「キスしたかと思ったら、勘右衛門の唇を噛んだ」 「何それ怖い。つか痛い」 「おう、で勘右衛門は唇から血出してる」 「うわー…」 それでも楽しそうに笑っている彼が凄い。普通プレイだと思えないよ…。 というか七松先輩に噛まれて、反応がそれだけだなんて…! 素直に尊敬してると七松先輩がこっちを向いてきたので、身体が飛び跳ねた。 や、やばい…。殺される…ッ! 「吾妻」 「は、ハイッ!」 「舌出せ」 「し、た…?」 「出せ!」 「はいっ!」 べッと舌を出した瞬間、勘右衛門のとき同様後頭部を掴まれ、引き寄せられた。 一瞬にして近くなる距離に反射的に離れようとするも、後頭部を掴まれているので逃げることは不可能。 わけがわからない間に七松先輩の舌が絡んできて、さらに身体が飛び跳ねる。 な、何をしてるのか解らないよ! 暴れても誰も助けてくれず、助けを求めて誰も止めてくれず…。 最初は抵抗していたけど、しつこく絡めてくるから次第に身体から力が抜けていって、最後には泣いてしまった。 そこでようやく解放され、酸素を素早く取り込む。こ、腰が抜けた…! 「これよりうまいキスをする奴がいるなら別れてやる!」 「うえ…?」 「仙ちゃん、もうこの部屋でいいだろ!ここで飲もう!」 「ああ、そうだな。楽しそうなことになってるし、何より吾妻が浮気しそうだからな」 「うわっ…!?は、しませんよ!?」 「吾妻、酒!」 「あ、はい!ちょっと竹谷、片づけろ!先輩たちの座る席を用意しろ!」 「おう!兵助、勘右衛門の治療頼む」 「解った。三郎と雷蔵はどうする?」 「先輩たちに任せろ!」 楽しかった皆との飲み会に、先輩たちが乱入してきたので、今回の飲み会はここで終了。 さすがに先輩たちが騒ぐのを聞いて、雷蔵も酔いを覚ましていつものように中在家先輩のお酌をしていた。 三郎は雷蔵に無理やり飲まされたせいでぐったりしてて、兵助は豆腐を食べながら潮江先輩の相手をしていた。 唇を咬まれた勘右衛門は伊作先輩に治療してもらいながら、食満先輩に呆れられ、「いい経験になりましたよー」と笑う。 そして七松先輩はと言うと、私の隣にピッタリ座って… 「……」 怒ってる! どうしよう、私悪くないのに謝るのはなぁ…。いや、悪いか。油断してたのがまずかった。 でも相手は友人だよ。警戒するのはちょっと失礼な気が…。 「な、七松先輩…。お酒飲みますか?」 「もう飲んでる」 「……。あー…えーっと…、ごめんなさい?」 「まだまだ鍛錬が足りんということだな…」 「え?」 「もっとお前を強くしてやる!だから明日から覚悟しろ!」 「どうしたらそういう答えが出るんですか!?鍛錬はもう結構です!」 「ダメだ、許さん!」 「じゃあ竹谷も!」 「俺もかよ!巻き込むなよな!」 「竹谷に警戒心つけても意味ないだろ!」 「………ああ、警戒心を持てってことですね?それは大丈夫です。今回の一件で警戒心を持ちました。だから鍛錬は結構です!」 「ダメだ、ダメだダメだダメだ!私がいいって言うまで鍛錬する!」 「か、勘弁してくださいよ!」 「じゃあヤらせろ」 「鍛錬にお付き合いしましょう!」 「チッ」 「(舌こえええええ!)」 でも、私の気持ちを尊重してずっと我慢してくれる七松先輩が最高に愛しいです。 (まぁ我慢できなくなったら、外で知らない女とヤってるんですけどね…) (△ TOP ▽) |