夢/とある後輩の災難 | ナノ

不思議なカップル


!注意!
BLではありませんが、男同士でキスしてます。





先輩たちを抜きにして、久しぶりに皆で居酒屋にやって来た。
適当に座敷にあがり、適当にお酒を頼んで、くだらない話をしていると、目の前に座っていた雷蔵の様子が時間が経つにつれ、おかしくなってきた。
お酒が入ったコップを持ったまま俯き、微動だにしない…。
これはおかしい。だって雷蔵は私や竹谷と同じく、お酒に強いもん。
隣に座っていた三郎が「大丈夫か?」って顔を覗き込んで声をかけると、チュというリップ音が聞こえ、思わず固まってしまった。


「え…?」
「おー、どうした吾妻。もう酔ったか?」


竹谷が話しかけてきたけど無視して二人を見ていると、雷蔵が、固まって動かなくなっていた三郎にまたキスをした。
そう、雷蔵がキスをしたのだ!
ビックリして竹谷の腕を掴み、「あれ!」って言うと、竹谷も固まって二人を凝視した。言葉も出ないようだ。


「あー、珍しく雷蔵が酔っぱらっちゃったんだねー」
「かかかか勘ちゃん!雷蔵が三郎にキスした!雷蔵ってそういう趣味だったの!?」
「あはは、違うよ千梅。雷蔵、酔っぱらったらキス魔になるんだよ。知らなかった?」
「初めて聞いた!というか、初めて酔っぱらったとこ見た!」
「うーん、体調悪いのかなぁ?おーい雷蔵、大丈夫ー?」


お酒が入っていたコップを置いて、雷蔵に近づく勘右衛門。
竹谷はまだ固まっていたので後頭部をスパンと叩いてやって意識をこっちに戻してやる。
竹谷の隣に座っていた兵助は動じておらず、黙々と豆腐を食べていた。うん、通常運転だ。


「えっへへー、勘ちゃーん!」
「おわっ!ちょっとちょっとらいぞー、悪酔いしすぎだぞ?」
「うーん、だって皆と飲むのって楽しいんだもーん!遠慮なく飲めるから安心して酔っぱらえるしー?」


どうやら彼は、中在家先輩などの先輩たちがいるとセーブをしてしまうらしい。
酔っぱらうけど、最後の一線は守ってるって感じ。だから記憶を失うことはないし、真っすぐ家に帰れる。
でも今回は私たちだけの飲み会だから、何も考えずガンガン飲んでしまい、最後の一線…ようは限界を超えてしまったらしい。
そうしてできたのが、「キス魔の雷蔵さん」。キスをされた三郎はまだ放心してやがった。ビックリしたんだろうねぇ。


「勘ちゃんにもしてあげるー」
「あはは、ほんと?」
「うん!」
「やっりぃ!」


目の前で繰り広げられる、禁断の世界…。ここにそういう人たちがいるなら、きっと喜ぶだろう。
雷蔵が頭をフラフラさせながら勘右衛門の頬に手を添え、チュッとキスをする。
あーあ、やっちゃった…。まぁ酔っぱらってるし、相手が勘ちゃんだし別にいいけどねー。
だって勘右衛門、そういうの好きだし、軽いし、なんとも思ってないもん。悪い言い方をしちゃえば、女たらし。
でもそれが勘右衛門だから別に嫌だとか、ありえないとは思わない。私は今のままの勘右衛門が大好きだ。


「おいおい…、男同士でキスしてんじゃねぇよ…」
「なんだ竹谷くん。キスしたことないからって僻(ひが)みですか?ん?」
「ちげぇよ!だって男同士だぞ!?俺は可愛い女の子としたい!」
「それお前の願望じゃん。つかそればっかだね、竹谷くん。がっつきすぎたら嫌われちゃうぞ」
「うるせぇし!つかお前もキスまだじゃん!七松先輩がいるのにまだじゃん!」
「……」
「…何で無言なんだよ!もしかしてキスはしてんのか!?キスすらしたことないのって俺だけか!?頼む吾妻、俺を置いていかないでくれ!」
「うるさい」
「照れてんじゃねぇよ気持ち悪い!」
「うるさい!雷蔵、竹谷がキスしてほしいって!」
「え、八左ヱ門が?うん、いいよー」
「え!?い、いやちょっと待てよ雷蔵…。俺は女の子が…っ」


立って歩けないから四つん這いになって竹谷の隣に移動して、のしかかる。
雷蔵も力が強いから逃げようとする竹谷を抑えつけ、ニコッと笑ったあと、チューーーと勘右衛門のときより長い接吻をした。あーらら……。
二人を横目で見ながらお酒を飲んでると、勘右衛門が三郎に話しかけてた。どうやら復活したらしい。


「えへっ、竹谷の唇も奪っちゃったぁ!」
「ぐすん…、ファーストキスはお嫁さんに捧げるつもりだったのに…」
「じゃあ八左ヱ門が僕のお嫁さんになればいいじゃん」
「ら、雷蔵…!……こ、こんな俺でもいいのか?」
「うん、八左ヱ門のこと好きだからいいよ!」
「雷蔵!」
「おい竹谷、お前まで酔っぱらってんじゃねぇぞ。あとお前、もう何回もお酒のノリで色んな奴にキスしてるからな」
「マジかよ!記憶にねぇぞ!?」
「その記憶にないときにしてたの」
「千梅ー」


竹谷は酔っぱらったら露出狂になる。そして七松先輩も。
んでもっていつも以上にテンションが高くなり、雷蔵同様キス魔だ。キス魔、というより、何だろう…。罰ゲーム的なノリで皆にキスをしていってる感じだ。
だからファーストキスではない。あと乙女になる竹谷キモイ。
見苦しいなぁ。って思いながらコップに口をつけると、名前を呼びながら雷蔵が抱きついてきた。
結構勢いがあったからお酒がこぼれてしまったが、それ以上こぼさないよう一旦テーブルに置いて、雷蔵を見る。思ったより近くてビックリした…。


「なに、雷蔵」
「飲んでるー?」
「うん、飲んでる」
「でもいつもみたいに楽しそうじゃないよ?」
「今回はのんびり飲みたいんだよ。それに、雷蔵も酔っぱらってるし、いつも迷惑かけてるから今日は皆の介抱側に回りたいの」
「えー、僕酔っぱらってないよー?」


酔っぱらってますよ、雷蔵さん。
目はトロン…としてるし、お酒くさいし、語尾もたどたどしいし…。
苦笑してると首に腕を回され、ギュッと抱き締められて驚いた。
いや、嬉しいよ。嬉しいけど今の雷蔵さんはちょっと…。


「ら、雷蔵…?」
「あはっ、千梅かわいー!照れてるー!」
「照れてないよ。ちょっとビックリしただけで…」
「そんな可愛い千梅にチュー!」


強い力で抱き締められたままキスをされた…。まぁほっぺだからいいけど…。
キスをした雷蔵は満足そうに笑って、今度は兵助の隣へと向かう。
兵助の頬にキスをすると、兵助は豆腐を食べながら「ありがとう、雷蔵」とお礼を言っていた。
あいつのああいう動じないところ、尊敬してる。


「いやー、雷蔵テクニシャンだわ。気持ちよかったー」
「だからってそっちに目覚めるなよー」
「目覚めるわけねぇだろ。俺の夢は可愛い巨乳の女の子と結婚して、幸せな結婚生活を送るんだ!」
「あーそう」
「お前七松先輩と結婚するんだろ?幸せかはどうかは置いておいて、退屈することはねぇな!」
「まぁね」
「何だよ反応薄いな。もしかして七松先輩のこと嫌いなのか?」
「は?嫌いなわけ「えー、なになに!?千梅って七松先輩のこと嫌いなのー!?」


竹谷と話してると雷蔵の席に座っていた勘右衛門が会話に参加してきた。
復活した三郎は雷蔵の介抱をしていたが、キスをされるたび固まってた。あいつ、女の子にされるのは慣れてんのに、雷蔵は苦手なんだな…。


「えー、じゃあ俺と付き合おうよ!外で浮気してきても文句言わないし、千梅といると楽しいし、俺千梅のこと好きだよ!」
「ヒュー、モテモテじゃねぇか吾妻!」
「いや、誰も別れるなんて言ってないし。てか私浮気許した覚えないよ!?」
「でも七松先輩が外でヤってきても文句言わないじゃん」
「あれは……私がまだ…………。我慢させるのも可哀想だから…」
「あはははは!こう見えて純情なんだね、千梅!」
「純情じゃないと思うけど、七松先輩は意識しまくりで照れる」
「いいなー、そういうの!ねぇ、千梅、俺と付き合おうよ!」


軽い口調で私の隣までやってきて、慣れた手つきで肩に手を回す。
あー…、こんな感じでいつもナンパしてるのか。さすが勘右衛門。これじゃあ簡単に落ちるってなもんよ。
私は落ちないけどね!


「勘右衛門、酔っぱらってるでしょ」
「まぁね!だって先輩たちいないし、今日は千梅が介抱してくれるんでしょ?じゃあ勘ちゃんリミッター外させてもらいますっ」
「いやいやいや。だからって雷蔵と一緒にキス魔にならないでよ」
「もー、ノリが悪いぞ千梅!唇と唇合わせるだけじゃんっ」
「おい勘右衛門、止めろよ。お前が言ったら洒落になんねぇ。それに吾妻には七松先輩がいんだぞ」
「だって洒落じゃないもーん。女の子とキスするなら頬なんかじゃなく、唇にしたいもんねー」
「だから…、吾妻には七松先輩がいんだろ。止めろっての」
「……じゃあはっちゃんにする」
「は?」


むー。と子供が拗ねるような顔をしたあと、竹谷に飛びつき、押し倒してからキスをした。
あー…ほんっと見苦しいなぁ。
竹谷が「んー!」って叫び声をあげていたけど、無視してやった。
ダメだ、やっぱり介抱側じゃなくて私も一緒にはっちゃけたい。バカなことしたいなー。でも今日はもう酔えそうにないし…。
それに七松先輩以外にキスしたらダメだと思う。……とは言うが、ノリで皆にキスしたことあるんだよねぇ…!
はぁ…と溜息をついたあと、勘右衛門が満足そうな笑顔で私の隣に戻ってきた。


「はっちゃん下手くそー!」
「…は、激しすぎよ、勘右衛門…。私、感じちゃった…」
「だから乗るんじゃないってのバカハチ」
「いや、でもマジで激しかった!」
「これで大抵の子は落ちるよ!」
「マジかよ!俺にも是非そのテクを教えて下さい!」
「いいよー!まずー…」
「ちょっとちょっと勘右衛門!私の顎を掴むんじゃない!」
「だって教えるためだもん。ちょっと我慢してねー」
「ちょっ…!」


逃がす気がないらしい勘右衛門に顎をつかまれ、あっという間に唇を奪われてしまった…。
舌を入れてこないので助かったものの、あまりいいことではない…。
もしこんな場面を七松先輩に見られたりしたら………。想像するだけでも恐ろしい!


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