恋人は大事な犬 「仙ちゃん…」 「どうした小平太。お前が難しい顔するなんて珍しいな」 「ちょっと話がある。今大丈夫か?」 「ああ、特に問題はない。何だ?」 「吾妻のことだが…」 「(小平太が吾妻のことで相談とは珍しい…。とうとう恋人らしくなるつもりか?)」 「あいつ、おかしいんだ」 「……。すまんな、小平太。私は長次みたいに察しのいいほうではない。できるだけ丁寧に話してくれないか?」 「解った…。あのな、吾妻と竹谷は同室で仲がいいだろう?」 「ああ、仲がいいな。よく一緒にいるし、町にも出かけているようだな」 「だっておかしくないか!?」 「小平太、丁寧に話せ…」 「吾妻は私と一緒に町に出ようとしないし、竹谷と一緒にいるときみたいに笑わない!それにすぐ「竹谷竹谷」って呼んで竹谷ばっか頼るし…」 「(小平太が振り回すからだろう。と言ったところで、「何で?」の返答しかないな)吾妻と竹谷は趣味が似てるからだろう。お前は一応先輩になるわけだし、気を使ってるんだろ」 「でもっ…!でも私なんかやだ…。私だって吾妻と町に出たいし、一緒に本読みたい…」 「因みに、吾妻と一緒に町に出たらどうするんだ?」 「え、知らん。いつも何してんだ?野武士とか山賊とか熊とか倒してるのか?」 「はぁ…。あと、一緒に読む本とは?」 「春本」 「(間違ってる。間違ってるぞ小平太。いや、これが小平太なのだが…。………吾妻も色気がない女だからお似合いだ。しかし、女性が男と一緒に春本を見るんじゃない)」 「仙ちゃん?」 「小平太、デートという言葉を知ってるか?」 「知らん。うまいのか?」 「いや、うまくはない。小平太は吾妻とどんな風になりたい?」 「んー…一緒にいるだけで楽しいし、バレー付き合ってくれるし、ついて来れるし…。いい奴だ!それにこの前、ようやく熊を一人で倒せるようになったんだぞ!」 「吾妻…とうとうお前まで人外になってしまったのか…」 「あいつ泣いて喜んでたなー!ああいったのは私も嬉しい!」 「(喜んでいいのか、悲しんでいいのか解らなかったんだろうな…)小平太、もっと女性らしく扱ってやったらどうだ?」 「扱ってるぞ?竹谷より手加減してるし、胸もっと大きくならんかなーって言ってるし、夜這いに行ってない」 「…………」 「おーい、仙ちゃーん」 「面倒くさいな、お前ら」 「え?」 「小平太は吾妻がお前に頼ったり、甘えたり、一緒に遊んだりせんのが不満なのだな?」 「おう!」 「それはお前の躾不足だ。もう一度躾し直したらどうだろうか?」 「そっか!さすが仙ちゃんだな!」 「ついでにこれを吾妻につけろ」 「これ…」 「ああ、犬の首輪だ。ちゃんとつけてやって、誰が吾妻の飼い主かちゃんと解らせてやれ。あいつもお前と一緒で身体に叩きこむタイプだろう?」 「そうだな!よし、じゃあつけてくる!仙蔵、ありがとう!」 「ああ、構わん。構わんから次からは長次に相談しろ。解ったな?」 「解った!」 「…………仙蔵、面倒になったからって適当に終わらせるな」 「いたのか、文次郎」 「ここは俺の部屋でもあるからな。首輪なんて嫌がるだろうが…」 「そこは小平太が説得するだろ。それよりこれから面白いことが起こりそうだな。しばらく観察するか」 「あまり後輩を虐めてやるなよ…」 「虐め?はっ、遊んでいるんだ、私は」 「どっちにしろタチが悪ぃよ」 「―――うっ…。なんかブルッときた……。こ、これはもしかして七松の登場か?登場するのか!?」 「吾妻ーッ!」 「で、で、出たーっ!」(ガタッ) 「逃げたら殺す」 「(ビクッ!)な、……なんでしょうか、七松先輩…。竹谷ならいませんよ?」 「お前に用があるのだ!」 「えッ!?い、いやいや、竹谷が帰ってくるまで待ちましょうよ!お茶ついできますよ!(一人で相手できるかぁ!)」 「竹谷に用はない!お前に用があるんだから大人しく座れ」 「あ、じゃあ茶菓子でも…」 「座れ」 「はい…。(重圧ぱねぇえええええ!私なんかしたっけ!いや、してない!伊作先輩の褌を隠した程度だ)」 「これつけろ」 「これ…って、首輪…ですよね?」 「言われなくても、私が持ってきたんだから解ってる」 「あ、すみません…。え、でもこれを、私に、つけるんですか…?」 「同じこと二回も言わせるな」 「すみません!……いやいやいやいや…、七松先輩、お言葉ですがこれは犬の首輪です」 「だから、解ってるって何度言わせるんだ」 「あの、私人間ですよ?」 「そんなの見れば解る。今さっきからお前は私をバカにしてるのか?」 「いえ、違います。私が言いたいことは、犬につけるものを何故私がつける必要があるのでしょうか?ということです」 「だってお前私のだろ?」 「…えーっと…、ええ、まぁ…、そういう関係ですが、だからと言って首輪はおかしくないですか?」 「お前は犬を飼ったらどうする?首輪をつけるだろう?」 「……まぁ…、そうですね…」 「そういうことだ!」 「(今の言葉で解れと!?さすが暴君様ッ、私たち一般人とは違う思考回路を持ってらっしゃる!)そ、そうだとしても首輪はちょっと…。私マゾじゃないですし」 「マゾってなんだ?」 「あ、知らなくて結構です」 「今の言い方ムカつくな」 「大変申し訳ありません!ともかく、私は首輪なんてつけたくありません。お断りします」 「お前に拒否権は?」 「ありません」 「よし!じゃあ私がつけてやるから大人しく首を出せ」 「(し、死刑宣告されたみたいだ!怖い怖い怖い怖い)」 「むー…、難しいな…。えっと、こうやって………、こうか?」 「ぐえっ!…な、七松せんぱっ…ごほっ、ごほっ!」 「お、閉めすぎた」 「(だから嫌なんだよ!絶対にこうなることが解ってたよ!伊作先輩じゃないのにオチ読めちゃうんだよ!)…あの、私が自分で閉めますから…」 「それはダメだ!ちゃんと誰が飼い主か解らせないといけないからな!これは飼い主である私がつける!」 「(私犬じゃないのに…)……そう言えば、どうして私に首輪を?」 「え?仙ちゃんに相談したら「首輪をつけて躾直せ」って」 「(立花あの野郎ぉおおおお!やっぱりあいつか元凶か!絶対に天井裏で覗いてるだろ!)七松先輩」 「何だ?」 「七松先輩はいつから私の飼い主になったのでしょうか…」 「お前が付き合って下さいって言った瞬間から」 「(選択肢間違えたなぁ…。いや、それより、付き合って下さいイコール犬になりますじゃねぇだろ…)」 「よしできた!いいか千梅。絶対に外すなよ?外したら……どうなるか解ってるよな?」(指を鳴らす) 「身にしみて。……え、ずっとですか!?」 「犬が首輪を外すのか?」 「外しませんね、ええ、すみません。(マジかよ!なんの公開プレイだよ!絶対に竹谷に笑われるし、雷蔵たちにも変な目で見られる…!先生になんて言おうか…)」 「いいか、吾妻。私が呼んだら一分以内に来い。あと竹谷に頼るのも禁止だ。それと、前々から思っていたが、ちゃんとしきりをしろ!」 「一分以内!?え、ちょ、そんなの無理……あ、いつもと変わらないや。竹谷…に頼ったらダメなんですか?」 「何で竹谷に頼る必要がある?」 「何でって言われましても…。実際頼りになりますし、いい奴だし、面白いし…。しきりも行き来が面倒ですし」 「……」 「(―――あ、怒った…)解りました。しきりは今晩にもちゃんとします。竹谷にもあまり頼りません」 「よし!」 「(ほっ、助かった…)」 「じゃあバレー行くぞ!」 「(助かってなかった!)」 (△ TOP ▽) |