夢/とある後輩の災難 | ナノ

とあるマンションの一日


「いらっしゃいませ、立花様。ご予約のお部屋は既に準備しております」


立花先輩たちに連れられてやって来たのは、私と竹谷が何度か来たことがある普通の居酒屋だった。
それなのに何だこの歓迎はっ…!くっ、さすが立花財閥の御曹司…。この居酒屋とも繋がっていたのか。
と、思うのはずっと昔の私で、慣れた今は「あー、はいはい。またですか」って感じ。
一番奥にある広い座敷に案内され、いつものポジションにそれぞれが座る。
自慢じゃないが七松先輩のおかげで、私はかなりお酒に強い。
同期の中で一番強いのは竹谷。続いて私、雷蔵、勘右衛門、兵助、三郎の順。
三郎はお酒は好きだけど、どうしても酔ってしまうんだって。難儀だねぇ…。
んで、先輩たちはというと、七松先輩がやっぱり一番強い。続いて、中在家先輩、潮江先輩と食満先輩は同じぐらいで、立花先輩、伊作先輩の順。ここでも最強、七松様だ。
七松先輩は何も考えずにどんどん飲むから強くなって、中在家先輩は考えながら綺麗に飲むから強い。お二人の胃は強靭だ。


「今日は私の奢りだから好きなだけ飲むがいい」


立花先輩は苦手だけど、時々こうやって盛大に奢ってくれるから嫌いになれない。あと、色んなとこに連れてってくれる。
座敷の入口にはよくお酒を飲む私、竹谷、七松先輩、雷蔵、中在家先輩が固まっている。よく食べるし運ばれたお酒を奥に運ぶのは面倒だからね。
あと何で雷蔵がお酒が強いかっていうと、元々強いのもあるけど中在家先輩に誘われて付き合ってるから。さっすが男前雷蔵さん!
座る位置は、入口から、竹谷、私、七松先輩、伊作先輩、食満先輩、勘右衛門。
竹谷の前に雷蔵、中在家先輩、三郎、兵助、潮江先輩、立花先輩。
見事に学年がバラバラになって座っている。でもこれが通常スタイル。これが安定しているのだ!


「えー、では乾杯の音頭はこの私、竹谷八左ヱ門が務めさせていただきます」
「いよっ、待ってました!」


運ばれてきたお酒を皆に回し、持ったのを確認して竹谷が立ち上がる。
もうお約束となっている展開なので、数名がおしぼりを片手に握っていた。


「本日はお足もとが悪い中、ご出席頂き、誠にありがとうございます」
『雨降ってねぇよ!』


全員で突っ込んで、おしぼりを竹谷に向かって投げつける。
竹谷は慣れた様子でおしぼりを捨て、挨拶を続ける。
挨拶と言っても、今日あったくだらないことを言って、場を盛り上げるだけ。で、ひとしきり笑ったあと、


「では、立花先輩に感謝して、かんぱーい!」
『かんぱーい!』


近くにいた者同士で乾杯をして、お酒を一気に胃へと運ぶ。
飲み会の始まりだーっ!


「えー、でもやっぱり一番はお米の日本酒だよー」
「そうだそうだ!もっと言ってやれ、雷蔵!」
「いーや、酒と言えば芋だ!辛口とか最高にうめぇじゃねぇか!」
「芋は口が臭くなるから苦手だな、僕」
「臭くなるよねー。お酒臭い女の子なんてドン引きされちゃう!」
「え、お前女だったの?胸ねぇから男だと思ってた」
「お前そればっかだな。いい加減にしねぇとチンコ握りしめて不能にしてやっぞ」
「止めろよそんな怖いこと言うの!俺からチンコとったら何が残るんだよ!」
「でもハチのほうが吾妻より胸囲あるよね」
「雷蔵さん!?」
「まぁ俺はダイナマイトバディだからな。おい吾妻、羨ましそうな目で俺を見るなよな」
「その割には童貞じゃねぇか!」
「俺は好きな子に捧げたいの!」
「見栄おつ」
「おつでーす!」
「あ、雷蔵、雷蔵。その軟骨ちょっと頂戴」
「いいよー、レモン適当にぶっかけてるけど平気?」
「さすが大雑把さん!うん、全然気にしないよー」
「ぶっかけてると聞いて!」
「「下ネタおつ!」」
「軟骨おいしー!雷蔵がアーンしてくれるともっと美味しくなるかも!」
「いいよー。はい吾妻、あーん!」
「あーん!うん、美味しい!」
「何だ吾妻、それ楽しそうだな!」
「んぐっ…!な、七松先輩…ッ!?」
「私もしてやろう。ほら、口開けろ」
「いえいえ、結構ですよ。中在家先輩と飲み勝負してたんでしょう?どうぞお続け下さい」
「いいから口開けろ」
「今日も拒否権なし!で、では……」
「吾妻ー、気をつけてねー」
「雷蔵さん、どう気をつけろと!?」
「ほら、もぐもぐどんどーん!」
「―――がはッ…!うえええ…勢いが強すぎて、のどちんこに当たった…!」
「チンコと聞いて!」
「もうお前帰れ!」
「アハハハハハ!」

「ふむ、思っていたより楽しくないな」
「どうした小平太…。もう終わりか?なら今回は私の勝ちのようだな…」
「何を言う、長次!勝負はまだまだこれからだぞ!吾妻ー、もっと強い酒頼め!」
「了解っす。あ、竹谷と雷蔵もいる?次は何にする?」
「前回は……何升か忘れてしまったが、今回は私が勝つ…!」
「いーや、今回も私が勝つ!」
「七松先輩、お酒来ましたよー。こっちの瓶が七松先輩で…」
「こっちが中在家先輩ですね。えっと、余計なお世話かと思いますが、ラッパ飲みはよくありませんよ?」
「七松先輩、飲むのは構いませんが、たまにはおつまみも食べて下さい」
「そうっすよ。胃に悪いっすよ?…って吾妻、俺のつまみ取るんじゃねぇ!」
「こっちのエリアに置いたものは全て私のものです、キリッ!」
「キリッじゃねぇよバーカ!エリアとか小学生か!」
「お前の脳みそは中学生だけどな!」
「ふむ、さすが私が鍛えてるだけあって竹谷も吾妻も不破より強いな!」
「不破も強い…。本気を出せば二人にだって勝てる。そして私も……」
「まだ言うか、長次。仕方ない…。吾妻、掛け声かけてくれ!」
「「おっぱいは神!」」
「二人とも声大きいよー」
「吾妻!」
「あ、はい!なんすか?」
「早飲み競争するから掛け声かけろ!」
「解りましたー。では…、よーい……」
「負けん!」
「負けん…」
「スタート!」

「見てるだけで酔いそうになるな、隣は…」
「だな。ところで三郎、もう水か?」
「…」
「今回のは結構きつかったのか?」
「少し徹夜してたのもあって酔いの回りが早いんだ…。ああとまでは言わないが、それなりに強くなりたいものだな…」
「二日酔いになっても僕が作った薬あげるから安心しなよ」
「善法寺先輩は何でも作れるんですね。できれば豆腐が美味しくなる調味料とかを……。あ、豆腐はそのままでも美味しいんですけどね」
「兵助、豆腐に対するフォローはいらないよ」
「久々知ってば酔ってるの?鉢屋とは違って顔に出ないから解りにくいよー」
「俺はいつでも豆腐に酔ってます!」
「へえ。ところで鉢屋。君が協力してくれたら、酔わなくなるような薬が作れそうな気がするんだけど、どう?実験台は入口で騒いでるバカ二人で試そうかと思うんだけど」
「また八左ヱ門と吾妻ですか。いい実験台とは思いますが、いい加減にしないと本当に死んでしまいますよ?」
「そんなヘマしないよー。ねぇ、留さん?」
「ヘマはしねぇにしろ、お前はちょっと自重しろ。軽くマッドサイエンティストになってるぞ」
「えー、でもぉ…。生きがいいんだもん。ていうか吾妻はちょっと僕をバカにしすぎなんだよね!そう思わない?」
「善法寺先輩が実験台にしようとするからでしょう…。口は悪いですが、あいつも必死ですよ」
「でも小平太にはあんな口きかないよ?ねえ、何で?何でなの!?」
「や、止めろ伊作!酒飲んでんだから胸倉掴んで振るな!酔いが―――…うえ、気持ち悪ぃ…」
「はっはっは!情けねぇぞ、留三郎!頭を揺らされただけでその程度か!」
「潮江先輩、おつまみが届きました」
「おお、すまんな久々知。……ところでお前、その豆腐何個目だ…」
「もう数えぐれないほど食べてます」
「そ、そうか…。たまには肉を食え、な?それじゃなくてもお前細いんだからよ」
「豆腐は野菜のお肉と「鉢屋、久々知を止めろ」
「豆腐の話題を振った先輩の責任です。ご自分でどうぞ」
「留さん大丈夫?トイレ行く?僕もついていくよ?あ、薬飲む?まだ試作品だけど…」
「俺も実験台にすんじゃねぇよ…。いいから水くれ、水…」
「解った。鉢屋、悪いけどお水くれない?」
「えー…、食満先輩と間接ですか…?」
「そんな嫌がらなくてもいいだろ!僕なら喜んで渡すよ!(介抱は得意だし、留三郎とは親友だし的な意味で)」
「え…、善法寺先輩と食満先輩って……」
「そういうご関係だったんですね。気付かなかったな、三郎」
「ああ、ビックリだ…」
「何言ってるの二人とも!僕と留さんはずっと前からそういう関係だよ!(幼馴染的な意味で)」
「ヒソヒソヒソヒソ」
「ヒソヒソ、豆腐うまい、ヒソヒソ」
「伊作ぅ…、お前の言葉足らずはまだ直んねぇのかよ…っ!」
「ハッ!酒に弱い奴はさっさと潰れてろ!負け犬が」
「んだとゴラァアアアア!勝負だ文次郎!伊作ッ、酒持ってこい!」
「え、だ、大丈夫なの?」
「いいから持ってこい!ここまできたら飲みまくってやる!」
「いいだろう!既に満身創痍な奴に勝っても嬉しくねぇが、勝負だからな手加減はせん!久々知、酒を頼め!」
「解りました。ついでに豆腐も頼もう」
「まだ食べるのか…」

「いやー…、今回も盛り上がってますねー」
「あそこに参加するのは嫌だが、見てる分にはいいな。愉快だ」
「ところで俺、立花先輩に聞きたかったことがあるんですけど、いいですか?」
「ああ」
「この間街で歩いてた外国の人、先輩の恋人ですか?」
「いや、ただのそういう関係だ」
「あはは、やっぱりぃ?立花先輩って外国人もいけるんですねぇ」
「そういう尾浜もこの間歩いてたではないか」
「ああ、ブロンドの子ですか?あれはただの友達ですよー。そういった友達はたくさんいますけどね!」
「私も人のこと言えんが、ほどほどにしとかないと、いつか刺されるぞ」
「あっはは!大丈夫ですよ、そういう風にならないよう気をつけてますし、襲われてもやり返すほどの力と技は持ってまーす!」
「そうか、それはいいな。ところで尾浜」
「このお酒美味しいですねー。なんですか?」
「そろそろバカが脱ぎ出すぞ」
「ですね!俺もそろそろはっちゃけよーっと!」



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