幸せな将来 !注意! 結婚してます。息子が一人います。名前固定です。 七松小太郎→六歳。性格は真面目。両親を尊敬している。 本編「未来の子供」と同一人物。 「何故あなたは町に行くたび喧嘩をするのですか」 「…もうしわけありません、母上…」 「普段はいい子で、手のかからない真面目な子なのに…」 「ごめんなさい…」 「父上のような立派な忍者になりたいなら、耐え忍ぶことを覚えなさい」 「ううっ…」 「七松家の長男ともあろう男児が母に叱られたぐらいで泣かない」 「うー…」 七松先輩……小平太さんと結婚をして、町から少し離れた山奥にひっそり暮らしている。 小平太さんは現役で忍びだから、もし敵に追われたりしたら山奥のほうが安全だ。私だって元忍びだから戦える。 長男の小太郎が生まれてからは昔みたいに鍛錬できなくなったけど、腕は鈍らないように頑張っている。何かあったとき、家族を守れないようじゃ失格だもん。 山奥に住んでいるから、食料やその他必要なものがあるとき、息子と一緒に町に降りることがあるが、どうもこの子は町の子とよく喧嘩をする。 普段は真面目で、よく私を手伝ってくれるいい子。小平太さんの血を受けついでいるのに「いけどん!」とは言わない。 困らないし、別にいいんだけど、今回みたいにスイッチが入ると暴走してしまうことがある。 何があったか知らないけど、私が息子から目を離している間に、町の子と殴り合いの喧嘩をしてしまった。 小平太さんに鍛えられていることもあって、勿論勝つのは息子。しかも一方的。 相手方のお母さんに何度も謝ると「子供の喧嘩だから」と笑って流してくれたのが唯一の救いだ。鼻血まで出てたよ、あの子…。 自宅に帰って、説教をすると先ほどとは打って変わって弱気な態度。 私が滅多に怒らないせいもあるけど、かなり凹んでいる。 「小太郎。これで何回目か覚えていますか」 「……っ「だってと言い訳をしたら母は絶対に許しませんからね」 素人相手に喧嘩をするな。 何度も喧嘩をする息子にそう約束をした。 感情のままに相手を殴るなんてやってはいけない。忍者になりたいというなら尚更だ。 まだ子供だから。なんて言わない。 息子は真剣な目で私と小平太さんに「立派な忍になりたい」と言ったんだ。言ったからにはこれぐらい耐えてほしい。 ……わ、私だって本当は怒りたくないんだ。 大体、母親ってどういうものか解らない。これでいいんだろうか…叱らないほうがいいんじゃないかと毎日悩んでいる。 七松家の者、立派な忍者。 その言葉を思い出すとついつい厳しいことを言ってしまう。 流れようとする涙を必死に耐え、拳を握りしめる息子に胸がズキンと痛んだ。うう、私やっぱり説教苦手だ…。 「私は夕食の準備をします。それまでにしっかり頭を冷やしておきなさい」 この場にいたらほだされて、抱きしめてしまいそうになったので、さっさと逃げる。 今日は久しぶりに小平太さんが帰って来る。だから美味しいものを作って、笑顔で迎えたかったのに…。 「……ああ、少しあたってしまった…」 だからか。いつもの説教より少し殺気を飛ばしてしまった。 小平太さんが帰って来るのに問題を起こした息子に腹を立ててしまった。 母親として失格だ…!最低だ、私! 謝ろうと振り返ると、息子は正座のまま俯いてまだ耐えていた。 「…」 謝るのはあとからにしよう。 今は私に言われた通り、きちんと反省をしている。 やっぱり真面目だ。私と小平太さんの息子なのに真面目だ。 真面目で、素直。元気いっぱいだけど、どこか冷静。 凄く可愛い息子だと自慢したい。将来は絶対に父を越える立派な忍者になってくれると信じている。 「今日はあの子の好物も作ろうか」 ごめんね、未熟な母親で。私も一緒に成長するから、一緒に頑張ろう。 そう気持ちを込めて台所に立ち、包丁に手を伸ばした。 「千梅ー」 夕食も出来上がり、太陽がすっかり山の向こうに姿を隠したころ、小平太さんが帰って来た。 久しぶりに聞いた小平太さんの声に身体が少し、震える。 よかった、無事に帰って来てくれた。また出会えた。 仕事の関係上、どうしても命の心配をしてしまい、小平太さんが帰ってくるたびにいちいち感動をしてしまう。 急いで玄関へ向かうとボロボロに汚れた小平太さんが笑顔で立っていた。 「お帰りなさいませ、小平太さん」 「おう、ただいま。何か変わったことは?」 「いいえ、ありません」 「そうか。罠も変えていたんだな。一つ引っかかってしまった」 「え?鳴子は聞こえませんでしたが?」 「その前に壊した」 「人間離れした行動はしないでください」 「細かいことは気にするな!」 「…あ、あの…。父上、おかえりなさいませ」 呆れて笑っていたけど、息子の声を聞いて身体に力が入る。 夕食に夢中で忘れていた…。 少しだけ気まずい気分になって言葉を失う。 息子も私に遠慮気味で少し離れた場所から小平太さんに声をかけた。 「おう、ただいま!千梅、風呂湧いてるか?」 「え?え、ええ…。湧いてますよ」 「よし!小太郎、久しぶりに風呂一緒に入るぞ!」 小平太さんは荷物を適当に投げ捨て、息子を担いで風呂場へと走って向かった。 今さっきの空気、絶対にバレたよね…? 小平太さんが帰って来る前にきちんと謝るはずだったのに。 大体、小平太さんはいつも言う時間より早めに帰ってくるから!嬉しいんだけど、なんだか嬉しくないやい! 投げ捨てた荷物を持って、二人の着物を準備した。 「いい湯だったぞー」 「いいお湯でした」 「そうですか。だからと言って頭を拭かず出てくると風邪引きますよ。しっかり拭いててください、夕食を持ってきます」 お風呂からあがった二人の頭からは蒸気があがっていた。 息子もほわんと笑っていて、なんだか楽しそうだ。 「父上、今日はどんなおしごとを……。あ、きいてはいけないことでした、もうしわけありません!」 「そうだぞ。忍びは例え家族であろうと仕事内容を喋ってはいけない。よしよし、しっかり覚えてるな」 「はいっ。父上からおそわったことは、すべておぼえております!」 「小太郎は賢いな。あと四年したら忍術学園に入学するのに、もう立派な忍びだ」 「ち、父上に恥をかかせないために…。わたしはしょうじんあるのみです!」 「恥など細かいことは気にするな。子供のうちはしっかり失敗して、学ぶの一番だ。それより、失敗を恐れ、完璧を求めるほうが怖い」 「は、はいっ!わかりました!」 ……小太郎だって本当は私と一緒にいるより、小平太さんと一緒にいるほうが好きなんだ! 私はいつも怒ってばかりだし、あんな言葉かけてあげれない…。 何より、小平太さんと私が言ったところで説得力がない!私は息子の前で戦ったことがないから当たり前だけど…。 「はい、どーぞ」 なんだかイライラしてしまった。 前々からだけど、二人の会話には私は入れない壁があると思うの! そりゃあ二人は男同士だからね!女の私は入れませんとも! だからって二人で仲良くしないでほしいよね!私も一緒に混ぜてほしいよね!私だって小平太さんからお言葉を頂戴したいよー! なんたって小平太さんは私の憧れの先輩だったんだから! 「違う違う。そういうときは一度空に逃げるんだ」 「え…。ですが、それだとそのあとにげれませんよ…?」 「空中でも身体を捻ればいいだろう?跳躍があれば耐空時間もあって、どうにかなる」 「ちょうやく、ですか…。わかりました、ちょうやくもきたえます!」 「いや、まだ早い。早く筋肉をつけるとダメだって長次が言ってた。今は基礎をしっかり鍛えろ。主に体力、兵法、知識、それから人間観察も大切だ」 「はいっ」 「それから、罠をすぐに作れるようになること。気配や足音も消せるようにな」 「わかりました!」 ………。 なんだよちきしょう…!私抜きで楽しく話してんじゃねぇぞ…。 くそ、久しぶりに昔の口調に戻ってしまったじゃないか…! ちゃんと母親に戻らないと…。もう子供じゃないんだ。耐えろ。耐えるんだ、私。 「あ、その前に千梅に言うことがあるだろう」 「え…?」 「…はい。…あの、母上。今日はもうしわけありませんでした」 会話にいれてほしいと言ったけど、いきなり話しかけられて驚いてしまった。 茶碗を落としそうになったが、しっかり握りしめ、頭を下げる息子に目をやる。 真剣な目で真っ直ぐ私を見たあと、きちんと謝罪。 「約束を守れなくてすみません」と謝る息子は、なんだか小平太さんに似ていた。 「…。いえ、反省しているならもういいです」 「よかったな小太郎」 「はい!父上のおかげです」 「にしても、お前がこんなにも好戦的だとは思わなかったぞ。いい喧嘩をしたな。いい子だ」 小平太さんは昔のように無邪気に笑ったあと、大きな手を息子の頭に乗せて撫でてあげた。 息子も幸せそうに笑って、「いえ!」と明るい声を出す。 「……」 「千梅。おかわり」 「母上、わたしもおかわりください」 「…で……もう……」 「「え?」」 「なんですかもう!二人揃って母を除け者にして。そんなに二人でお話したいなら私はもう知りませんっ」 持っていた茶碗と箸を置いて、二人を睨みつける。 二人とも同じような表情で私を見ていた、さらに腹が立った。何でそんなに似てるんだよ、もう! 「いつもいつも私だけ会話に入れないし、二人だけ繋がるものがあるし…っ。どうせ私はダメな母親ですよ!私だって七松先輩に鍛えてもらいたいし、息子だって溺愛したいです!それなのに二人はいつも私を無視して!私だって男に生まれたかったです!」 「は、ははうえ…!?もうしわけあり「喧嘩だって別にしていいです!しろよ、子供なんだから!でも色々考えてしまうから厳しいことしか言えないんだよ!」 「千梅、落ち着け。お前が男だったらまず一緒に暮らしてない。あと先輩呼びが「七松先輩も酷いです!息子が生まれてからもう鍛錬つけてくれない!そんな冷たい旦那様なんて知りません!」 言いたいことはたくさんあるのに、重要なことだけが言えなかった。 感情のままに叫んでしまって、二人を困らせていることが空気で解ったけど、一度高ぶった感情を元に戻すことができなかった。 少し前ならそんなことなかったのに。と思いつつ、溢れてしまった涙を袖で拭う。 「…っ私一人だけ除け者にしないでください…!寂しいじゃないっすか…」 大好きな人と結ばれました。大事なものが増えました。 そんな二人から無視をされると苦無で傷を負うより痛いです。 涙が溢れ、止まらなくなったので両手で顔を覆うと、お腹に何かが抱きついた。 「わたしは母上のことあいしております!一等、あいしております!」 「何を言うかと思えば…。昔に戻ったみたいだな」 お腹には息子。背中には小平太さん。 二人が私に抱きついてきた。 小さな身体と大きな身体が私を抱きしめる。 「母上がわたしを叱ってくれたのも、すべてわたしのため。この小太郎、しっかりわかっております!」 「無理して母親らしくならなくていいと私は言ったはずだが?私はそのままでお前を好きになったんだから、そのままでいてくれ。そのまま、小太郎を育ててくれ」 「きょ、今日のケンカも…。そのっ……相手が母上をバカにしたから…。ガマンできなくてもうしわけありませんっ」 「もう忍びは辞めたんだ。ただの女になってほしいから、お前を鍛えてない。子供のことだけを考えてほしい。ただの女になってほしい。もう怪我を負ってほしくない。それが私の願いなんだ」 「母上はわたしの大事な母上です!誰であろうと、例え父上であろうと小太郎がゆるしません!母上を守るのはわたしです!」 「だけど、お前の我儘は久しぶりに聞けて楽しかったぞ」 二人が勝手に喋るから全てを聞きとることができなかったけど、背中の小平太さんが私と息子を揃って抱きしめ、ようやく涙が止まった。 「幸せだなぁ…。凄く幸せだ。二人がいるから私は死なない。ありがとう」 だと言うのに、小平太さんの言葉に今度は息子と揃って涙を流し、抱きしめ返した。 「同じような顔をして」と笑う小平太さんは凄く幸せそうな顔をしていた。 ええ、私も幸せですとも! 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