時々甘い 「……」 「…」 食堂には五年生、六年生の全員が集まって、端っこと端っこに固まって食事をしていた。 私は六年生に背中を向け、もそりもそりとご飯のみを口に運んでいく…。 あれから逃げ出した私は部屋に引きこもり、服を整えていた。 すぐに竹谷たちが来て、優しく声をかけてくれて、かくれんぼは終了。 んで、疲れたし気分を変えようと皆で楽しく夕食をとろうと思ったんだけど、何故か六年全員が帰宅して、食堂で鉢合わせ。 いつもだったら七松先輩が私や竹谷のおかずと盗りに来るといった騒ぎを起こすのだが、今日はそれもなく静かだ。というか、気まずい。 不思議に思った立花先輩が、七松先輩の頬に咲いた紅葉を見て笑いながら「何があった?」と聞いた。 「吾妻に叩かれた」 不機嫌そうに喋る七松先輩。言葉とともに殺気を飛ばしてくるのは止めて頂きたいです…。言えないし、見れないけど。 「そうか、そうか…。くくっ…!やったな、小平太。男前があがったぞ」 「女とは言え、お前が鍛えてるもんな…。見事だ」 「……小平太…、あとで冷やしたほうがいい…」 「なっさけねぇな小平太!でもまぁ、なかなかだぞ!」 「ふふっ、どんなことしててそうなったのか気になるなー。そこんとこ本人から詳しく聞こうよ」 こっち見てくんなよ、六年がよぉ! 私だけじゃなく、竹谷たちまで気まずい雰囲気になってんじゃねぇか! 「ご馳走様でした!竹谷、行こう!」 「お、おう!」 視界に入れず食堂から出て行きたかったけど、入口付近に六年が座っていたので、視界にはどうしても入ってしまう。 何か言われる前に「失礼します!」と大声で挨拶して、頭を下げて、さっさと出て行く。 きっと七松先輩が睨んでいたけどこんなところで言えるわけがない! 竹谷の腕を掴んで食堂を出ていくと、後ろから立花先輩が「相変わらず仲がいいな」と茶化してきたので睨んでやる。 あの人は私と竹谷を使って七松先輩で遊ぶから嫌いだ!いや、苦手だ! 「小平太……、冷やさないのか…?」 「いい!私はもう寝るッ」 夕食も済ませ、風呂に入ってから部屋へと戻ってきた。 布団もあのときのまま。乱れたまま…。 戸に立ったまま布団を睨んでいると、後ろからホカホカになった長次が声をかけてきた。 叩かれた場所は赤くなっているが、大して痛くはない!だから冷やす必要はない! 布団に飛び込み、枕を握りしめると夕方のことを思い出してイライラしてきた! 「うがああああ!」 「小平太、夜は静かにしないと…」 「解ってるッ。だけどイライラするんだ!」 「……それは、…吾妻でか…?」 「当たり前だろう!?あいつ……あいつぅ…!」 「小平太、あまり枕を握るな…。破けるぞ…」 「何であいつは恥ずかしがるんだ!」 吾妻はおかしい! 私のことを好きだと言いながら、竹谷とよくつるんでいる。 よく下ネタ?を言ってるから、そういうのが好きだと思って迫ると拒否をする。 全くもって意味が解らん!そもそもあいつは私のことが本気で好きなのか!?私は毎日あいつや竹谷を可愛がってるのに! 「もう寝ろ…。明日になれば忘れるのがお前だろう…?」 「……解った…。明日は吾妻と竹谷を鍛えてやる…」 「ほどほどに、な?」 「おう!おやすみ、長次!」 布団を整えて潜り込むと、いつもと違う匂いが鼻をかすめた。 すんすんと鼻を鳴らして自分の布団をかぐと、吾妻の匂いがして驚いた。 ああ、そっか。昼間寝てたもんな。それで匂いがうつったのか。まぁいい、寝るか。 「……。…っ、……あー……。…んー、……ダメだッ」 ダメだダメだ!吾妻の匂いがするから悶々とする!夕方のことを思い出して寝れん! しきりを少し横にずらして長次の名前を呼ぶと、静かに目を開けて「どうした」と答えてくれた。 「すまんが布団を交換してくれないか?」 「………」 「吾妻の匂いがついて寝れんのだ…」 「…構わん」 ゆっくり起き上がって、自分の布団と私の布団を交換してくれた。 よし、これで悶々としなくてすむ!あと長次の匂いがするから安心するなっ。母上のような太陽の匂いがするから私は長次の匂いが大好きだ! 「……」 今長次が寝ている布団に、吾妻もいたんだよなー…。 ……長次は好きだし、悪くないし、これからもずっといたいと思う大事な親友だけど、…ちょっとやだなー…。 「もー……」 「今度はどうした…」 「長次、すまん。やっぱりいい。布団返す…」 「解った…」 うー、ごめんなぁ長次…。 また布団を戻してもらって、今度こそ寝ようとしきりを元に戻した。 今度こそ寝るし、寝れる! 長次にちゃんと、おやすみなさいをしてから布団に潜り込む。 吾妻の匂いがするけど気のせいってことにしておこう!明日だ明日! 「……(…やばい…)」 今度は吾妻と長次の匂いがする…ッ。 したくないのに、吾妻と長次の変な想像してしまい、今度はイライラしてきた。 気にしない。細かいことは気にしない! そう思って力強く目を瞑るも、イライラが積もって目が冴えてしまった! 「全部吾妻のせいだ!」 布団から勢いよく飛び起きて、五年長屋へと早歩きで向かう。 吾妻と竹谷の部屋は少し私の部屋から離れているが、五年長屋と六年長屋は近いのであっという間につく。 二人の部屋の戸を開けると二人揃って布団から飛び起きた。 何でお前らはちゃんとしきりをせんのだ!部屋も汚い! 「吾妻、私の部屋に来い!」 「うえッ!?ちょ、……は…?」 「これは夢だこれは夢だこれは夢だ」 「竹谷うるさい!現実だ!来いと言ってるんだから、来い!」 「い、嫌ですよ…!絶対に行きません!」 「今夜はせんから来い!」 露骨に警戒する吾妻の腕を掴んで、連れて行く。 吾妻が竹谷の名前を呼んで助けを求めるので、竹谷を睨みつけると、竹谷はすぐに布団に潜って寝始めた。 「裏切り者!」とうるさい吾妻も睨みつけて部屋に入れると、ちょっとだけ静かになる。 「中在家先輩…っ…」 「…小平太」 「なにもせん!だから、今夜だけ一緒に寝ろ!」 「…………寝るだけ?」 「そう!」 「はぁ…、まぁ…。それだけなら…」 私が先に布団に入って横を叩くと、おずおずと言った様子で隣にちょこんと座った。 警戒心があるんだか、ないんだか解らん女だな! 「では、おやすみなさい、七松先輩」 「……」 背中を向けて、もう寝たフリをして無視すると、溜息をついてゴソゴソと布団に潜る。 吾妻も背中を向けてきたので、背中と背中が当たってちょっとだけ温かかった。 まだちょっと長次の匂いがするけど、……吾妻は隣にいるし、もうイライラしない。 ようやく寝れると思った直後、 「吾妻…」 「何ですか、中在家先輩」 「小平太のこと、嫌いか…?」 「嫌いじゃないですよ。ただ、あれは恥ずかしかっただけで……」 「それだけか?」 「え?ああ、接吻は…その、気持ちよかったです、が……って、何言わせるんですか!」 「だ、そうだ、小平太」 「もおおおお…!ちょーじ、わざとだろう!」 「不安そうにしてたから聞いてあげたんだろう。吾妻、これからも小平太を宜しくな」 「……狸寝入りとは卑怯ですよ、七松先輩。また叩きますよ」 「なら今度は本気で襲う」 「中在家先輩、そちらのお布団で寝てもいいでしょうか」 「それは私が許さんッ!」 「ちょ、七松先輩!首、首締まってますってば!」 どっちに嫉妬していいか解らんからイライラする! (△ TOP ▽) |