お久しぶりです、初めまして まぁ街中であんな派手なことをすれば、噂も立つもので…。 まだ入学して数ヶ月しか経ってないのに、私はビッチとして有名になってしまった。やったね、全然嬉しくないや! でもそれを信じているのは私と会話をしたことのない人たちばかり。 クラスの皆は「お前がビッチになれるほど器用じゃない女なのは知ってる」って笑ってた。私の性格をよく知っておいでだ。 そんなおかげで問題はない。問題があるとすれば、七松先輩が露骨に私を避け始めたことだ。 彼を見つけることもできない。忍んでやがる。 「あーあ、もう終わりかなぁ…」 「諦めるな。諦めたらそこで終わりだぞ!」 「竹谷の熱血時々うざい」 「これが男というものだ!」 「うざい」 「一言やめて。突き刺さる」 でも何でか解らないけど、ちょっと気持ちが落ち着いている。 女の人と一緒にいるところを見るとやっぱりイラッとするけど、あの日のことを思い出すと心が落ち着く。 何で私の腕を掴んだのか。何で竹谷にあんなことを言ったのか…。 きっと無意識だったんだろうな。解ってなかったみたいだし。 それが嬉しかった。思い出すだけでちょっとニヤけてしまう。 「あと一年とちょっと。ゆっくり頑張るべー。もう無駄に気合い入れるの止めるべー」 「それはいいな。お前が頑張ると空回りしてしまう」 「あら三郎」 「それに、押してダメなら引いて見ろという大変便利な言葉もある」 「引いて見ましょうか。多分あんまり効果ないだろうけど、私も学生生活楽しみたいわ」 「そうだね。じゃあまずは次の試験、頑張ろうか」 「「うへー」」 夏休み前の試験に心底嫌な気分になったが、三郎と雷蔵が許してくれるわけがなく、みっちり扱(しご)かれた。 「長次は、吾妻と仲がいいのか?」 「……珍しいな、お前がその名を口にするなんて…」 「あいつムカつく…」 試験中は部活がないので、仕方なくやりたくのない勉強をしている。 長次が逃がしてくれないのもあるけど、赤点を採ったら部活に出れなくなるので頑張ろうとは思うのだが、…勉強は嫌いだ。 ある程度まで進め、集中力が切れたので机に突っ伏して長次に話しかけると、ペンを止めて私を見てきた。 最初出会ったときからあまり好きじゃなかった。なんか小さいし、弱そうだし、挙動不審だったし…。 なのに期待した目で私を見てきて、何だかムカついた。何かを言ってほしいという目、嫌いだ。言いたいことがあるならさっさと言えばいいのに、それすらも言わない。 「吾妻は…いい奴だぞ」 「うるさい」 「だが、引き留めたんだろう?」 「知らん。勝手に身体が動いた。…そのせいであいつとも別れたし…」 「小平太、それは自業自得だ」 「違うっ、あいつが悪いんだ!あいつが竹谷といつも………いつも一緒にいたっけ。というより、竹谷って何で名前知ってんだろ、私」 「さぁな。竹谷も部活で有名だからじゃないのか」 「おおっ、そうだそうだ!」 なんか聞いたことがある。あいつもバレー部に入ればいいのにって思ったんだけど、声がかけれなかった。 だって竹谷のそばには吾妻がいるし、竹谷は私のことをあからさま嫌っている。 竹谷だけじゃない、吾妻の周りにいる男たちは私をよく思ってない。 なんだ、姫気取りか?そう思うと余計腹が立つ。 「小平太、彼女を作るなとは言わんが、節操なしは控えろ」 「だって付き合ってくれって言うから付き合ってるだけだぞ?」 「そう言っていつも修羅場になるだろ…?」 「私は部活が優先だって伝えてるし、デートなんてしたくない。なのに怒るっておかしくないか?」 「確かにお前は悪くないが、気がないなら止めろ」 「だって…」 何だか落ち着かない。 そりゃあ高校生だしすぐにヤりたくなるのもあるけど、そうじゃない。 いつも足りない。何かが足りない。それが解らなくてもやもやする。 「吾妻はお前のことを好いてるみたいだぞ。付き合ってみたらどうだ?」 「―――ダメだ。私じゃもうダメだ」 「…小平太」 「え?ちゃんとした返答になってなかったな、すまん長次」 「いや」 何でダメなんだろうか。何がダメなんだろうか。 それに、私が悪いような言い方だった。私は悪くない。 「…ごめん長次、今日はもう帰る」 「そうか。こことここだけはやっておけ」 「う…」 「赤点」 「解ったよ!」 ノートと教科書を鞄に詰め込み、長次にお礼を言って別れる。 静かな廊下と、時々教室から聞こえる笑い声。 この世界は平和だなぁなんて変にしみじみしたあと、靴を履きかえていると校庭に見たくない奴らがいた。 男五人と女一人。試験中だと言うのにサッカーで遊んでる。 「呑気なもんだな」 最近吾妻の顔を見なくて清々していたのに、あんなことを考えてしまい、そして吾妻を見つける。 文句を言いたいけど、あいつはもう私を見てこない。ムカつく。だからと言ってわざわざ私から行くなんて腹が立つ。 「竹谷、こっちだこっち!パース!」 「させないよー!兵助、ハチから奪って!」 「任せろ」 「おいバカ!早く雷蔵をかわせ!」 「だって雷蔵っ、しつこくて…!」 「ごめんね、しつこい性格でー」 靴を履きかえたあとも、あいつらを見ていた。 楽しそうに笑う吾妻から目が離せない。 「ごめんな千梅、守れなくて。もうお前は私といないほうがいい」 自分だけど自分じゃない男が頭の中で囁き、それに合わせて私もボソリと呟く。 意味が解らなかったけど、その言葉が嫌にしっくりきて、上履きを戻して校門に向かう。 嫌だけど試験勉強して、早めに寝よう。早くバレーしたいなぁ…。 「竹谷パスだって!」 「ちょっと待てっ…うわ!」 「わっ!」 「八左ヱ門、雷蔵!?」 「雷蔵、大丈夫か!?」 「おい吾妻、大丈夫か?」 竹谷と不破が声をあげ、顔をそちらに向けると二人仲良く地面に転がっていた。接触しすぎたんだろうな。 尾浜が二人に駆け寄り、鉢屋が不破を気にかけ、久々知が吾妻に駆け寄った。 竹谷と不破は頭や腰を擦りながら起き上ったが、吾妻は地面に倒れたまま。隣にはサッカーボール。 二人が接触した際、ボールを蹴ってしまい、吾妻に当たったんだろうか。 見てなかったけど、倒れている様子を見てだけでどんなことか解った。 「……」 吾妻が立ち上がらない。動いてないように見える。 また、死んだのか?また―――。 「千梅!」 身体が勝手に反応する。今さっきの知らない男が叫んでる。 私がいなくても結局は無茶するんじゃないか。どうしろと言うんだ!お前はどうやったら生きてくれるんだ! もう死んでほしくない。生きてほしい。幸せになってほしい。お前を守れないのが苦しい。お前に責められるのが怖いんだ。嫌われたくない! 「おい千梅、しっかりしろ!死ぬな!」 「あの七松先輩…。吾妻は失神してるだけですよ…?」 「保健室連れて行くからどけ!」 話しかけてくる久々知を押しのけ、千梅を抱き上げて保健室に走って向かう。 大丈夫、死んでない。 解っているのに、心臓がうるさい。早く保健室に行きたい。早く目を覚まして安心させてほしい。 「先生!」 「あら七松くん、また怪我?」 「千梅が倒れた!」 先生に先ほどあったことを伝えると、ベットに寝かせてと言われたので寝かせてやる。 「先生…」 「ただの失神よ。大丈夫、すぐに目が覚めるから」 その言葉にようやく力が抜けて、溜息をもらした。 ベットの上で静かに寝る千梅を見てまたちょっとだけ身体が震える。 足元に座って千梅が目を覚ますのを待っていると、思ったより早く目を覚ましてボーっとした顔で私を見てきた。 「千梅、大丈夫か?」 「……何で…」 「すまん、千梅。お前を守ると言いながら、結局守れなかった。でもお前が嫌いになったとかじゃない。ただ、怖かったんだ…」 「記憶…が…!」 「すまん。何度謝っても足りん」 「違う、違います…。私が弱かったからです。すみません、守れなくて…すみませんっ…!あのあと先輩がどうしたかが気になってこんな未練がましくあなたを慕って…!」 「お前が死んだあとも私は生き続けたよ。死にたかったけど、それは逃げだし、何よりお前のご両親に申し訳ない。まぁ…お前の父上には嫌われてしまったが、母上は解ってくれた…それだけが幸いだ。なぁ千梅、もう遅いだろうか」 「うっ、うっ…!ひっく…っ、っく…」 「未練がましいのは私なんだ、千梅。またお前の想い人でありたいと思ってしまった…。今度は、今度こそはお前を死ぬまで守る。だからもう一度私と共に生きてくれないか?」 「勿論ですッ…」 私だとお前が守れないと思った。だから記憶を取り戻さなかった。 だけど結局は危ない目に合うんだ。ならば、私の手元に置いておきたい。 私の知らない場所で死なれるより、私の手の中で死んでほしい。 本当に未練がましいのは私のほうなんだ。 「また、宜しくな」 「はい!」 (△ TOP ▽) |