お久しぶりです、初めまして !注意! 転生ネタ入ります。 十五年間待った。 折角私を誘ってくれたのに、きちんと最後までついて行けることができなくてごめんなさい。 あのあとあなたはどうしましたか?長生きされたでしょうか?聞きたくありませんが、好きな方はできましたか? かけたい言葉は日に日に増していき、ようやくあなたを見つけたと、それが嘘のように全部消えてしまった。 それほど嬉しかったのです。 「―――小平太さん!」 何度も名前を呼んだことがある。友人たちにも「小平太さんに会いたい」と泣きごとも言った。 だけど本人を目の前にしてこの名前を呼ぶと、何だか嬉しい。 やっと会えた。ずっと待ってました。 「なんだ?」 振り返る小平太さんは昔より髪の毛がかなり短くなっていて、少し驚いた。 そうですよね、昔みたいに……あのときみたいに伸ばす必要なんてありませんもんね。 「なんだ?というか何で私の名前を知ってるんだ?」 生まれたときから前世の記憶があった私は、いつも仲間を探していた。 小学生のときに竹谷と出会い、中学生のときの残りのメンバーと出会った。 そして同じ高校を目指し、入学したら生徒会代表に立花先輩を見て全員が驚いた。 記憶は中学のときに全員取り戻しているので、問題ない。 これからどうしようかと作戦を立て、三郎が立花先輩と接触をすると、向こうから「よう」なんて気安く声をかけてくれてこっちの驚いた。 さすが先輩たちですと三郎が皮肉をこめると懐かしい先輩方が全員笑ってくれた。 あとは小平太さんだけらしい。 彼だけ記憶を取り戻さないと、小学校から付き合いがある中在家先輩が教えてくれた。 無暗に声をかけないほうがいいと言われたが、小平太さんを目の前にした途端、我慢していたものが溢れて名前を呼んでしまった。 小平太さんのまとう雰囲気は変わってたけど根本は変わっていない。 嬉しくて笑うと何故かピリッとした緊張が走って、私の身体に力が入った。 「お前一年だろ?気安く名前で話しかけてくるな。きちんと敬称をつけろ」 「…すみません、七松先輩」 「おう。それで、なんの用だ?」 なんの用だ?と聞いてくる小平太さん…じゃなくて七松先輩だったが、あまり関わりたくない顔をしていた。 私ともう関わりたくないのかな…。途中で死んだから嫌いになったのかな…。 そうだよね…。信用して私を傍に置いたのに、途中で死んでさ。 竹谷や先輩たちからその後の七松先輩について聞いたけど、誰も知らないらしい。 だから私の死をどう思ったのか解らなかったが、この態度だとどうもダメらしい…。 記憶がないということは、きっと悔いのない人生を送ったんだと思う。 「あ……えっと、…」 「小平太ー?何してんの?」 「おー、すまん。今行く」 「…え、…あの、七松先輩。あの方って先輩の…?」 「そうだが、お前に関係ないだろ?もういいか?」 「…はい…。引き留めてしまって申し訳ありません…でした…」 頭を下げると何を答えることなく去って行く七松先輩。 顔をあげると、先ほど呼ばれた女の先輩と笑って何かを話したあと、一緒に廊下の向こうに消えて行った。 ああ……先輩にはもう好きな人ができたんだ…。本当に記憶がないんだ…。 「悔しいなぁ…。もっと女子力あげてくればよかったよ」 いくら文句を言っても、この事実を変えることできない。 ここで泣くのはさすがに恥ずかしいので、涙を堪えて仲間たちの元に走って向かう。 教室には竹谷おり、暇潰しに漫画を読んでいたので何を言うことなく竹谷に抱きつくと、「どうしたぁ!?」と驚きながらも抱き支えてくれる。 寂しい。記憶がないなんて寂しいです。 悲しい。私をもう見てくれないと思うと悲しいです。 悔しい。七松先輩の隣に立てるあの人が嫌いだ。 泣きながら先ほどのことを竹谷に伝えると、「そうか…」とだけ言って静かに抱きしめてくれた。 その優しさに余計に涙がこぼれたので、罵声を浴びせるも「ああ」としか答えてくれない。どんだけいい奴なんだよ! 「ごめん、ありがとう竹谷」 「気にすんな」 「はぁ……。七松先輩に会えたのは凄く嬉しかったんだけど…彼女がいるんならなぁ…」 「諦めるか?」 「諦めるわけがない!」 「じゃあ頑張ろうぜ!俺も応援するし、何でも手伝ってやる」 「竹谷くん…何で君はそんなに男前なの?好きっ、抱いて!」 「俺は…激しいぜ?」 「何が激しいぜ。だ」 「千梅、落ち着いた?」 「「三郎、雷蔵!」」 竹谷から離れ、制服の袖で涙を拭ったあと、適当に会話をしていると三郎と雷蔵が後ろから現れた。 泣いてるところ見られたな…。 恥ずかしかったけど、その話題にあまり触れないようにしてくれる二人。 優しいなぁ、もう。三人だけじゃなく、兵助と勘右衛門も優しいから困る。 その優しさだけで止まっていた涙がまた溢れそうになって笑って誤魔化す。 「千梅、僕たちも協力するからね」 「面倒だが手伝ってやろう。私たちはお前の味方だからな」 「だからもう優しくしないでってば」 「嬉しさのあまり泣くんじゃねぇぞ?」 「うるさいバカ!」 仲間や先輩たちの力を借りて、まずは七松先輩の記憶を取り戻すことにした。 とは言っても、先輩たちも色々試したらしいが(昔の話をしたり、忍者の話をしたり)、あまり効果的ではないという。 それでも先輩同士は仲良くやっているので問題ない。 先輩たちが仲良しなら私たちとは仲良くしなくていいかな…なんて思って、勝手に一人で凹む。どんだけ七松先輩のことが好きなんだろうか。 前世も好きだった。滅茶苦茶好きだった。だから嫁にしてもらえるって言われたとき、泣いて喜んだ。 離れて余計気づく自分の想い。 「あ…。な、七松先輩…」 「ん?誰だ?」 登校中、偶然七松先輩を見つけ、勇気を出して声をかけると、首を傾げられた。 ラフに着た制服姿も格好いいなって見惚れていたけど、七松先輩の言葉に一気に気持ちが沈む。 そうですよね…七松先輩は興味のない人の名前なんて憶えないですもんね…。 でも今日は彼女もいない。少しだけ…少しだけ話がしたい。声が聞きたい。 「一年二組の吾妻千梅です」 「へー」 「っ…。あ、あの…中在家先輩たちと仲良くしてもらってて…」 「そうなのか」 「………すみません、引き留めてしまって…。失礼します」 「おう」 どれも興味のない言葉ばかり。本当に私は他人になってしまったんだと、改めて思い知らされた。 頭を下げて、逃げるようにその場から走り出す。逃げるよう、じゃなくて逃げるんだ。 声を聞けて嬉しかった。愛想笑いだろうけど、笑顔を見れて嬉しかった。短髪になっても格好よかった。 何故、私を思い出してくれないんでしょうか。私だけじゃなく、何で皆を思い出さないんでしょうか。 いや、普通は前世のことなんて思い出さない。おかしいことじゃない。だけど私たちの中だとおかしい。 自分勝手だけど、記憶を取り戻してほしい。私を見てください。また名前を呼んでください。 「で、今日は負けちゃったけど、明日からはもうちょっと頑張ろうと思います」 「そうだね、せめて視界に入って意識してもらうのが一番かも…」 「だがあまりやりすぎるなよ。七松先輩にしつこくやりすぎるのも逆効果だ」 「何かあったらすぐ俺らに言え。助けてやる」 七松先輩と別れたあとクラスに向かい、先ほどのことを三人に話すと、「七松小平太攻略会議」を始めてくれた。 どこの乙女ゲームより難しいぞと笑う三郎に、竹谷が「乙女ゲームってなんだ?」と質問をするので、簡単に説明してやる。 竹谷は乙女ゲームをして、多少なりとも乙女心を知るべきだ。 「うん、邪魔にならないように頑張る。あと、七松先輩じゃなくて先輩たちに近寄ろうと思う」 「ああ、それはいい考えだと思う。利用してやれ」 「三郎…悪い顔になってるよ」 「だってな雷蔵。あの人たちには生前お世話になったんだ。これぐらいしていいだろ」 「お世話してやったんだから、恩返ししてくれてもいいんだぜ?」 「特に千梅。僕、君には結構お世話してあげたと思うんだけどなぁ…」 「「「げっ」」」 「こんにちは、食満先輩、善法寺先輩」 朝の時間だと言うのに一年生のクラスに来ないで頂きたい。特に伊作先輩! とかなんとか思いつつ、二人のために私と竹谷が椅子を自然と譲ってあげた。くそう…これが叩き込まれた体育会系ノリ! 「すぐクラスに戻るよ。千梅、小平太と前みたいな関係に戻りたいの?」 椅子に座って、いきなり真剣な顔になって私を見上げてきた。 伊作先輩は嫌いだし、苦手だけど、そうは言っても頼りになる先輩だ。 食満先輩も真剣な顔に変わって私を見ている。 「未練がましいと笑いますか」 「笑わないよ。そこまで冷たい人間じゃないし、君が嫌いなわけじゃない」 「気持ち悪い」 「そういうところは嫌いだよ」 「伊作、千梅…。頼むから早く終わらせてくれ」 「解ったよ…。あのね、僕たちも小平太の記憶を取り戻そうとしている。自分勝手な思いではあるけど、一人だけ記憶がないとちょっとね…」 「今のままでも十分に楽しいんだけど、やっぱり一線引かれてんだよなぁ…。だから小平太も俺たちとあまり絡んでこようとしねぇし」 「あとね…。まぁこれも僕たちの自分勝手な思いなんだけど、小平太見境なくて……」 「女の入れ替わりがなぁ…。なんつーか…、前もそれなりにだったけど、なんか激しくて…」 「ずっと女の子いるよね。別れたと思った次の日にはもういるとか…」 「…」 あまり…いい報告じゃない。 生前、特に忍たま時代は私と付き合っていながらも他の人としていたけど、それは前に言った通りだし、何より付き合っていたから…安心していた。 だけど今はそうじゃない。二人の言葉を聞いて、ただ嫉妬するしかない。 「食満先輩、善法寺先輩。それだけならもうお帰り下さい」 「…すまん、竹谷」 「八左ヱ門に謝るのではなく、千梅に謝って下さい」 「不破も厳しいなぁ。ごめん、千梅。僕たちはそれを言いに来たんじゃない」 「用件だけを伝えて下さい。あなたたちの愚痴は聞きたくありません」 「現世になっても絆の強さは健在か」 「少し過保護気味になるけどね。あのね、千梅。小平太にはやっぱり君しかいないと思うんだ。このままだとあのバカ、本当に種付けしそうで…」 「伊作、言葉」 「だってとっかえひっかえしてんだよ!?ちゃんとゴムつけてるって言ってるけど、怖い!ゴムだって絶対とは「伊作!まだ朝だから!」なに言ってんだい留三郎!これは大事なことだよ!?」 「と、ともかく千梅。俺たちもお前は応援してるからな!何かあったら俺たちを利用しろ。俺たちも頑張るから」 「ちょっと留三郎、まだ話は終わってないよ!」 「いいから帰るぞ!」 七松先輩に負けず劣らず、あの二人もなかなかの台風だと思う。どうするんだ、このクラスの空気…。 「吾妻なら孕んでいいとかってことか?」 「そうじゃないよ、八左ヱ門。ほら七松先輩って、千梅には手を出さなかっただろ?それって、隣にいるだけで満足だったからじゃないかな?」 「二人の言うことが本当なら、酷いもんだな。吾妻、七松先輩はやめたほうがいいんじゃないか?」 「やめる?私が?嫌だよ。私は七松先輩しか見れない。生涯、あの方にこの身を捧げたい」 大層な言い方だが、本音だ。 また、あの人の背中を追いかけ、隣に立ち、七松先輩が見るその先を見たい。 現代になってもその気持ちだけは変わらない。 「許されるなら……また…今度はちゃんと子供を産みたい…」 生前の、後悔の念が強いから、記憶を持ったまま生まれたんだと思う。 償いみたいだけど、今度はちゃんとあの人の子供を産みたい。幸せになりたい。 「なら、頑張るしかないな」 「千梅、大変だけど頑張ろうね!」 「また振り回されるんだぞー?」 「おう、どんとこい!」 (△ TOP ▽) |