▽ SS企画 その23 「なぁ、お前ら。大事な話があるんだ、聞いてくれ」 「聞いて下さい」 六年全員が集まっていた部屋に虎徹と千梅が珍しく真剣な顔でやってきた。 真剣な表情、真剣な声…。 滅多に見られるものではないので、その場にいた六年は全員口を紡ぎ、二人を見る。 「いいぞ、どうした?」 そう言ったのは仙蔵。 仙蔵の声に二人は顔を見合わせてコクリと頷いたあと、一歩部屋に入って戸を閉める。 その場に座って全員の顔を見てから虎徹が言いづらそうに口を開いた。 「実は俺たち、生き別れの兄妹なんだ」 「何を言ってるんだ」とすぐに突っ込みをいれそうになったのは留三郎。 しかし、先ほども言ったように彼らの真剣な表情に、突っ込みをいれることができなかった。 よくよく考えてみれば、言動や行動が似ている。 虎徹の妹となれば身体能力も高いだろう。座学は苦手だろう。 なんて言ったらいいか解らない留三郎は、隣に座っていた文次郎に顔を向けると、彼も複雑そうな顔をしていた。 「俺は知らなかったんだけど、親からの手紙で……」 「私が赤ん坊のころ、両親と一緒に山に散歩に行って、そこで誘拐されたらしいんです…。まさか虎徹先輩が兄だったなんて…」 「俺たちも最初は信じられなかったんだ!でもよ…俺とこいつの両親が揃って騙そうとするなんてありえねぇだろ?」 「……何故、私たちに?」 「悪い、長次…。俺ら二人じゃ抱えきれなくて…。別に千梅が嫌いなんじゃねぇ。ただ、ビックリしてよ……」 「すみません、先輩方」 「うむ、それなら仕方ないな。なに、気にするな二人とも。私も前々からまさかとは思ってた。ふむ…なるほどな」 長次は黙って頷き、仙蔵は顎に手を添えて二人を見据える。 文次郎と留三郎の二人は当人二人以上に混乱しており、「え?」「まじで?」と無意識に戸惑いの言葉をもらしていた。 しかし、小平太は虎徹に、伊作は千梅の目の前に移動する。 「お義兄様、妹さんを私にください!」 「ぶはっ!ぐふ…っ、おまっ…小平太ちきしょう…!」 「お義兄様!お願いします!」 「さすが小平太!ごほん……お前に千梅が守れるのか?これは友としてではなく、義兄として問う」 「勿論です!お義兄様より無茶なことは致しませぬ!」 「じゃあ千梅。これ、虎徹の治療代ね」 「ふざけんなよ不運野郎。何で私が虎徹先輩の治療代を支払わなくちゃいけねぇんだ!つかタダで診ろよ!」 「はぁ?兄の治療代ぐらい払いなよ。妹なんだろ?妹って生き物は健気で、兄に尽くすものだよ。ほら、払えよ」 「妹になに幻想抱いてんだ!それは兄のほうに回してください、無理です」 「虎徹ー。「俺の妹がこんな可愛いわけがない」ってタイトルに、「マジで」って入れたほうがいいと思うんだー」 「ギャハハ!小平太が義弟になったら毎日が楽しそうだな!」 「虎徹をお義兄様って呼ぶのやだなぁ」 「…………嘘、なのか?」 「さぁ?」 「貴様ら二人は本当に鈍いな。嘘に決まってるだろ」 「…確かに似ているけど、出身地が離れすぎている……」 「「だって仙蔵が!」」 「冗談に決まってるだろ。それぐらい気付け」 因みにこの数分前…。 「千梅…実は俺とお前は生き別れの兄妹なんだ…!」 「な、なんだってー!?そんな…虎徹先輩のこと今まで普通の先輩だと思ってたのに…。いきなり兄だって言われても信じられません!」 「ああ、お前の気持ちもよぉく解るよ。俺も信じられないんだ…。ごめんな、年上の俺がこんなにも混乱しちまって……。情けねぇよな…」 「虎徹先輩…。ぶふっ…!あ、う……そんなことないです…。いきなりだったら誰だって戸惑うと思います。…すみません、私もいい年なのに…。でも、本当です、よね?」 「間違いねぇ。俺の親を問い詰めたら吐きやがった。お前には……申し訳ないって笑って…じゃなくて、泣いてたよ…」 「でしょうとも!あ、違うわ。えー…でも、私、虎徹先輩が兄でも構いませんよ?というか、前々からずっと兄のような人だと勝手に親近感抱いてましたし」 「千梅もか!いや、俺もさ、お前のこと妹みてぇだなぁ…って思ってたんだよ。ははっ、逆にすっきりしたな!よし、皆にも報告にいこうぜ!」 「ええ、いい遊びネタができましたね!」 「俺としては文次郎と留三郎と伊作は引っかかると思うんだ」 「いや、伊作先輩はダメです。私が絡むと、すっげぇ冷えた対応するんすから」 「お前に対して冷たいよな、伊作のやつ。まぁいいや、行くぞ!」 「了解っす!」 |