▽ SS企画 その10 下腹部に手を添え、長い廊下を歩く。 足だけでなく、腰すらも重たく感じて壁に手をつく。 ついたてで身体を支えながら自室に戻っているのだが、この痛みはやばい…。 (フラフラするし、だるいし…) 生理痛が私は大嫌いだ。きっと好きな子なんていないと思う。 自室につく前に限界を迎えてしまい、廊下に座り込む。 気分も悪いし早く横になりたい。辛い。 五年生の誰か来てくれ。助けてくれ。 「何してんだ?」 「…七松先輩…」 願って来てくれたのは七松先輩だった。 恥ずかしいし、見られてたくなかったんだけど、折角来てくれたので助けてもらおう。 いや…。「セイリツウ?なんだそれ。そんなことよりバレーしよう!」って言われるに違いない。 「おーい、聞いてるか?」 「あ………も、もう死ぬかも…。七松先輩、今までありがとうございます…」 断るか、追い払うか悩んで、そんな言葉が出た。 だけどちょっとした本心だった。それほど辛い…。 「バカなこと言うな」とけげんそうな顔するかな。 そう思って顔をあげると、真面目な顔で私を見ており、思わず「え!?」と戸惑いの声を出してしまった。 「大丈夫か?」 「…え?」 「顔色悪いし、いつもより気怠そうだ」 「…」 「それと、どこ怪我してんだ?血の匂いがする」 スンと鼻を鳴らされ、顔が赤くなった。 だけど聞いてくるその声があまりにも真面目で優しかったので、「生理なんです…」と聞き取り辛い声で伝えると、何も言わずに私を抱き上げ、自室へと連れて行ってくれた。 「伊作を連れて来てやろう」 「えっ!い、いや…それは…。こんなの暖めとけば治るので!あと横になれば!」 「そうか?」 投げていた布団を敷いてくれたので、その上に横になる。 たったそれだけで身体は楽になり、ほっと息をつく。 七松先輩は帰ることなく、私の横に腰をおろして、ジッと見つめてきた。 「七松せ「どこを暖めたらいいんだ?」……どこ、を?あ、…ああ!えー……あの、お腹です」 本当は下腹部、子宮があるところだが、そこまでは恥ずかしくて言えなかった。 私が答えると、七松先輩はその大きな手を伸ばして、私のお腹を触る。 「…七松先輩の手は温かいですね」 「おう。だから痛みが和らぐぞ?仰向けになれ」 言われたとおり、仰向けになって天井を見上げると、大きくて暖かい手でお腹を撫でてくれる。 位置は違うのに、凄く気持ちよくなって、痛みが和らぐ。 「寝ていいぞ?休むに限る」 「すみません…」 「何故謝る?」 「なんか…怒られると思って」 「え?だって子を授かる準備をしている痛みなんだろう?私たち男には一生理解できない痛みだから、お前が辛いと言うなら辛いんだろう。お前は普段から「痛い」なんて弱音、吐かないからな」 …っとにこの人は…。 サラリと真顔で言うから困る。 今の台詞で一気に体温があがりましたよ…。 「ありがとうございます」 「ああ。しっかり休め」 七松先輩の体温を感じながら目を瞑ると、すぐに夢の世界に旅立つことができた。 おまけ。 「……中在家先輩、あれ何してんすか?何で七松先輩はあいつのお腹を枕に寝てるんすか…。あいつ、お腹痛いって言ってたんすけど」 「解らん…。解らんが……」 「えぇ、言いたいことは解ります。まるであいつのお腹にいる赤ちゃんがいるみたいっすね…」 「だが、重たくて苦しそうだから小平太を起こすぞ」 「ういっす」 |