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▽ まだ後輩のお話

本日の五年生の実習は、六年生である七松小平太とコンビを組み、戦場へ赴くこと。五年生ともなれば戦場実習なんて別段おかしいことはない。
おかしくはないし、それなりに慣れているのだが、「七松と一緒」というのが竹谷の身体を強張らせた。
もしかしたらいつもみたいに暴走するんじゃないだろうか…。と気合いを入れ直して戦場へと赴いたのだが、彼の想像以上に普通だった。
いけどんなんてしておらず、「戦忍び」らしく敵を倒している。容赦のない攻撃に見惚れてつつ、己もひたすら敵を倒した。
立っている敵のほうが少なくなるころ、竹谷はようやく息をつき、手に持っていた苦無をおろし、近くで戦っていたはずの七松を探す。
しかし味方の兵しかおらず「七松先輩」と名前を呼ぶと背後で何かが動く音と、殺気。
慌てて振り返ると、倒れていた敵が最期の力を振り絞って自分に襲いかかってきた。
おろした苦無が重たくてあがらない。体力の限界からか、身体もうまく動かない。


(殺られる―――)


思わず死を覚悟したとき、目の前に大きな影が現れ、キンッ!と鉄の音が空と耳に響く。


「七松…先輩…」


探していた先輩が自分を背中で守るようかばい、敵と対峙している。
助かったことにホッと息をつき、七松の登場にさらに安堵する。
やはり先輩というものは頼りになり、それでいて嫉妬するほどたくましい。


「竹谷、殺せ」


殺気を飛ばしながら命令する七松は、学園では見たことない表情をしていた。
そのギャップに戸惑っていると、横目でギロリと睨まれ、石のように固まる。


(だ、て……!)


竹谷が躊躇っているには理由があった。
敵の顔をよく見ると自分と同じか、それより下だった。
一旦冷静になったせいもあり、手が動かない。
七松は「っち」と舌打ちをして、もう一本苦無を取り出して敵の首をはねた。


「………すみません」


最後の最後でヘマをしてしまった…。
そういうように謝ると、殺気を静めた七松が振り返り口布を外す。
無表情で冷たさを感じる雰囲気に思わず目線を反らしたが、「まぁいいさ」と血で汚れた大きな手で竹谷の頭を撫でる。
きっと怒られると思っていた。
だけど彼はいつもように笑って、グリグリと乱暴に撫でる。


「怒っては…?」
「何で?」
「だって最後…」
「そりゃあ殺るに限るが、できなくて当たり前だ。そのフォローをするのが私たち六年生だからな」


ニッと白い歯を見せて笑う七松に、また胸が締め付けられ、「すみません」と弱々しく謝れば、「おう!」と元気よく答えてくれる。


「だけど来年はダメだぞ」
「っす!俺も後輩を守れるように頑張ります!」
「ああ、任せた!」