▽ 結婚記念日のお話 「お待たせしました」 「は、はい!」 スーツ姿の竹谷が綺麗に包装された花束をぎこちなく受け取る。 そわそわと落ちつきのなかった竹谷だったが、花束を受け取った瞬間、ふにゃんと幸せそうに笑って店員さんに頭を下げた。 今日は結婚記念日一年目! 勿論、嫁大好きな竹谷は記念日を大事にし、今日は恥ずかしかったけど花屋に入り、こっそり溜めていたお金で特別綺麗な花束を作ってもらった。 きっと喜んでくれるに違いない。と綺麗に仕上がった花を見て笑う。 渡した瞬間の嫁の顔を想像するとまた頬が緩くなり、自宅までの足取りはとても軽く、いつもより早く家に帰れた。 だけど、玄関を前にしたら足がピタリと止まってしまった。 家に帰るのにこんなに緊張したことがないほど、竹谷は緊張している。 チャイムを鳴らし、開けてくれるのを待つ。 「おかえりなさい」 と出迎える嫁を見て、花束を持っているにも関わらず、強く抱き締めてしまった。 だけど嫁も笑って抱き締め返してくれ、そんな小さな幸せをグッと噛みしめる。 「おかえりハチ」 「ただいま。あ、…あの、これ…」 やはり竹谷の想像通り、嫁は幸せそうに笑ってくれた。 それどころか涙まで浮かべて「ありがとう」「大好き」と何でも言ってくれる。 その笑顔だけで苦しかった節約生活も報われる気がした。 「あのね、私も今晩張りきったの!」 涙を拭いながらパタパタと居間に向かう嫁を、とことことついていく竹谷。 上着を脱ぎながら居間につくと、自分の好物ばかりが食卓に並んでいた。 「おっほー……」 「あとね……」 嫁が脱いだ上着を竹谷から受け取りながら、ぴったりと寄り添って恥ずかしそうに笑う。 「私のことも残さず食べてください」 「…っ、い、……いただきます…」 |