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▽ 頼りになる六年の先輩のお話

真新しい苦無を持って、ガリガリと地面を掘り続ける小平太がスンッと鼻を鳴らして顔をあげた。
泥だらけになった顔のまま、周囲を見回すと見慣れた委員会の先輩が見えた。
まるで犬のようにあからさまに喜んで、苦無を投げて彼の名前を呼ぶと彼も小平太を見つけて優しく頬んでくれた。
隣に同じ組の先輩もいたが、小平太には委員会の先輩しか見ておらずもう一度「せんぱい!」と呼んで走る速度をあげた。


「小平太、あまり急ぐと」


と、そこまで言うと、小平太は石に足をとられ、派手に転んでしまった。
受け身をとることもできなかった小平太を見て、彼は慌てて近寄る。
しかし、彼が手を貸す前に一人で勢いよく起き上がり、手の甲で鼻血をぬぐったあと、「へいきっ!いたくない!」とまだ聞いてもないのに答えて、身体についた砂埃を手で払う。
彼も手伝おうと手を伸ばすと、小平太の手が震えているところに気付き、「小平太?」と名前を呼ぶ。
砂を払っていた手は制服をギュッと握り、ぐすん…と鼻水をすする。
あれだけ派手に転んだんだ、きっと痛いに決まっている。
彼は笑って頭を撫でながら「大丈夫か?」と声をかけてあげると、顔をあげることなく彼の腰に抱きついて泣き始める。


「鈍くさいなぁ、小平太は」


ははは、と笑っていたけど、頭を撫でて慰めるのは止めない先輩に、小平太は「うううっ…!」と唸りながらも彼から離れることなく痛みを堪えている。


「でも偉いぞ。もっと派手に泣くかと思った」
「うっう…!…だ、って…わたし、つよいもん…!」


男だから、強いから泣いたりしない。
先輩みたいに強い忍者になりたいから、これぐらいで泣いたりしない。
泣きながら必死に喋る小平太だったが、嗚咽のせいでほとんど聞こえず、先輩はやっぱり笑って小平太を抱き上げる。


「でもケガは保健委員に見てもらおうな」
「うん…」


抱きかかえ、片手で小平太の涙を拭ったあと保健室へと連れて行ってあげる。
ぎゅっと先輩の頭に抱きつくと、痛みも次第に和らいできた。先輩に頭を撫でてもらうだけで痛みが和らぐなんて凄い!と抱きつく力を込めると名前を呼ばれた。


「小平太、よく我慢できたな。偉いぞ。さすが僕の後輩だ」


何故か嬉しそうに笑う先輩を見て、「おう!」と痛みもすっかり忘れ、元気よく答えた。


「ところで何してたんだ?」
「ざんごうほり!クナイで!」
「将来有望だなぁ小平太は」


こうして褒めて育てられた小平太は、たくましい委員長へとなったのだった。