▽ 彼なりの甘え方法の話 ザァザァと長屋に落ちる雨音を聞きながら、破けた制服を縫い続ける。 同室の竹谷は遅くなると言っていたので、久しぶりに静かな部屋でまったりと過ごそうと思っていたのだが、きっとそうはさせてくれないだろう。 「…きた」 何年も振り回され続けたら、彼の気配をすぐに感じ取ることができる。 それでも彼、七松が本気を出したら解らないのだが。 忍たま長屋にいるときは気配を絶つことをしないので、視線を手元から戸へと向けた。 「七松先輩、今日は雨ですから何もできませんよ」 戸が開く前に先手を打つと、スッ…と戸を静かに開けて元気のない小平太が部屋に入ってきた。 珍しいことがあるもんだ…と彼女は少しだけ驚き、「七松先輩?」と名前を呼んだ。 「今日は雨だから外に出たらダメって長次に言われた…」 「前に外に出て、びしょびしょに濡れて、本を汚したからですよ」 「でも外に出たい!雨でもマラソンできる!」 「そうですが、今日ぐらいは大人しくしておきましょうよ」 暇な時間を潰すためか、同室の長次に追い出されたのか、自分の部屋にきた七松に「大人しくしててくださいね」と言うと、隣に座って手元をジッと見つめる。 見られると緊張したが、無視して縫っていると膝の上に顎を乗せてきた。 「何してんすか…」 「暇。構え」 「今は無理です」 「何で?」 「縫物しているからです」 「制服破ったのか?」 「はい。誰かのせいで」 「お前…誰かに狙われているのか?誰と戦ったんだ?強かったか!?」 あんただよ。とは言えず、強かったですね。と答えると目をキラキラさせて喜んだ。 それから七松が一方的に話し、彼女はただ相槌を打つ。 しかし、それも途中で切れてしまってフッと顔をあげると、膝に頭を乗せて寝ていた。 「珍しいこともあるもんだ…」 驚きながらも自分の羽織りを七松にかけてあげて、縫物の続きに戻る。 外はまだ雨が降っていた。 |