▽ 守ってるお話 今日はとある事情で、特務の先輩と同期の竹谷が不在だった。 珍しく一人にされた彼女は朝から溜まった書類を片づけていたのだが、これがなかなか終わらず、いつの間にかお昼を迎えていた。 「……食堂に行くの嫌だなぁ…」 前にあんなことがあってから、一人ではあまり近づきたくなかった。 しかし、そうは言ってもお昼ご飯はちゃんと食べなければ午後からもたない。 重たい溜息をはきながら、重たい足取りで食堂に向かっていると、やはりたくさんの視線を浴びた。 「あ、見つけた!」 「丁度いいな、一緒にお昼食べないか?」 トレイを持って並んでいると、聞きなれた声が食堂に響く。 振り返ると上着を脱いだ三郎と勘右衛門が立っており、勘右衛門が「こっち!」と言いながら大きく手を振った。 「勘ちゃん、三郎!」 すぐに暗くなっていた表情が明るくなり、列から外れて二人の元へと向かって「珍しいね、会うなんて!」と声をかけた。 「だねー。あ、一緒に食べていいよね?」 「勿論!」 二人に挟まれ、再び列に並ぶ。彼らが隣にいるだけで、周りからの視線も気にすることなく笑っていられる。 色々な話をしながらご飯を受け取り、空いてる席の角に彼女が座り、その隣に三郎、彼女の前に勘右衛門が座って両手を合わせた。 「ほんっと立花先輩って容赦なくてさー。精神的にも肉体的にもボロボロだよボロボロ!」 「勘右衛門は参謀長殿で遊びすぎるんだ。こっちまで飛び火してくるから止めろって言ってるのに…」 「あはは、相変わらずだね二人とも」「笑ってる場合じゃないだろ…。ほら、こぼしてる」 「え?」 話すのに夢中になっていたせいで、ご飯粒が机に落ちていた。 三郎は呆れながら拾って食べてあげ、「気をつけろよ。大事な食糧なんだから」と軽く注意してあげると、彼女は「ごめん…」と少し凹む。 「三郎はうるさすぎなんだよねー!勘ちゃんが元気の出るおまじないしてあげる!」 ニコッと笑う目の前の勘右衛門に、「え?」と彼女が顔をあげると、ご飯を乗せた箸が目の前にやってきた。 「はい、あーん」 「勘ちゃん!?」 「勘右衛門」 「だって三郎が怒るから。アーンは?」 「そんなことできないよ!皆も見てるしっ…!何より恥ずかしい…!」 真っ赤になる彼女を見た勘右衛門は素直に「可愛いー!」と感想をもらし、何故か三郎が怒鳴る。 まるで彼女の母親のようだと言えば、さらに怒って、勘右衛門の足をわざと踏んでやる。 「ったぁ!何すんだよ!」 「お前がおかしなこと言うからだ!」 「元はと言えば三郎のせいじゃん!」 「お前が変なこと言うからだろ!」 「変なことなんて言ってませーん!あ、解った…三郎がしてあげたかったんでしょ?三郎って素直じゃないからなぁ…」 「な、っ別に…!そんなわけ…っ!」 「真っ赤になってるし!って、こっちも真っ赤になってるー、三郎より可愛いー!」 「勘右衛門!」 「はいはい、解りましたよっと…。それよりもうお昼終わるよ?」 「え、あっ!ほんとだ!今日中に書類終わらせないとまた長次先輩に怒られる…!」 「勘右衛門」 「うん。じゃ、途中まで一緒に行こうか。丁度中在家先輩に用があるんだー」 「そうなの?じゃあ一緒に行こうか」 急いでご飯をつめこみ、食器を勘右衛門と一緒にさげてから食堂をあとにする。 彼女が三郎に気づいて振り返ると、勘右衛門に止められ、無理やり腕を引っ張られて先を急かされた。 「三郎くんはやることがあるから」 「そうなの?」 「うん、そうそう!」 笑う勘右衛門だったが、どこか黒かった。 「さて…」 残った三郎は静かに椅子から立ち上がり、殺気を放って周りを睨みつける。 しかしすぐに雷蔵のように優しく笑って、再び口を開いた。 「まだあいつの悪口を言ってる奴がいるみたいだな」 三郎の言葉に何人かが肩を震わせ、何人かが食堂をあとにしようとした。 「また言ってみろ。私たちが直々に手合わせしてやる」 雷蔵スマイルから、三郎の極悪スマイルに変わった瞬間、食堂は真冬のように寒くなった。 そして、 「それから、下心持ってやる奴は先輩たちに頼むから覚悟しておけ」 追い打ちをかける言葉を残し、三郎も食堂をあとにした。 |