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▽ 弓道部の話

先輩は二年生にして弓道部のエースだ。
部活に滅多に顔を出さないが、その実力は折り紙つき。昔から弓術は得意だと聞いていたが、目の前でその実力を見て、改めて実感した。
視力もいい。動体視力も一般人より上。短期集中型だから弓道は俺に向いている。
そう言って笑う先輩は、楽しそうだった。純粋に楽しんだろう。


「どうだ、兵助。今のいけてたか?」
「いけてたか、いけてないかは解りませんが、お見事でした」
「それがいけてるってことだ!」


身体は獣のようにしなやかで、バネがある。筋肉だってほどよくつけている。
昔と変わらない先輩は矢を持って弓を引く。


「(……鷹のような人だ)」


先輩は室町時代、鷹匠をしていた。だから鷹の扱いには長けていた。山犬や狼の扱いにも長けていたけど、鷹はそれ以上の腕前を持っていた。
そのせいなのか、弓を射るときの先輩の目は、獲物を見つけた鷹のように鋭く、力強い。
その目を見るたびに身が引き締まる思いがする。怖い、と。
きっとあの目で睨まれると、金縛りに合ってしまうだろう。逆らう気すら失うだろう。
だから、獣たちが先輩に服従するんだ。と、八左ヱ門は自慢気に話していたな。
前まではそんなに関わることがなかったから解らなかったが、今になってそれを実感した。
きっとあの目で何か命令されたら、俺も大人しく従ってしまうだろう。


「よっしゃぁ!二回連続ど真ん中!」
「俺は昨日三回連続で当てました」
「ぐっ…。お、お前マジかよ…」
「日々鍛錬を重ねていますから。いくら先輩でも負けたくありません」
「見かけによらず負けず嫌いなのね、兵助くん」
「負けず嫌いではありません。俺はただ強くなりたいだけです。それに、努力をしないと勝ちたい相手に勝てませんから」
「ははっ、兵助は本当真面目だよな。俺、お前のそういったとこ好きだよ。天才だなんて一言で終わらせてほしくないよな」


笑う顔は弓を射るときの表情とは全く違う。
そのギャップに戸惑ってしまうが、撫でられる頭は気持ちよかった。


「じゃあ俺も負けないように頑張るか」


やるときはやる。そのメリハリがある先輩に、次第に魅かれていく。
こうして俺も八左ヱ門みたいに先輩の犬になっていくんだろか…。


「そうだ、帰りに豆腐食べに行くか?奢ってやるよ」
「本当ですか!?是非、お願いします!」
「おう!」


さすが、獣使い。人間を虜にするなんて簡単ですよね。