絵/頂き物 | ナノ

潮江と女房主

シロさんから頂きました。

こちらも素敵なSSを頂いたので、一緒にお楽しみください。
簡単な流れ設定もありますので先にそちらをお読みくださいませ。
また、名前変換がされておりませんので苦手な方はお気を付けください。



女房主は五年生なりたて。忍術学園では五年生から殺しの任務が入る。女房主が初めて人を殺した日。夜中。泣きそうになってるのを必死に全力でいつも通り振る舞う女房主。でも気づいちゃう文次郎。
な、ことをわかったうえでお進み下さい…!



「潮江先輩、只今戻りました」


「ああ、ご苦労だったな」



戸口の前に座り、会計委員長である文次郎に委員会を留守にした詫びと帰還の報告をする。



「入れ」


「…は、しかし潮江先輩。今の私の姿では…」



全身埃っぽく、顔にも髪にもそこらじゅうに血と泥が混ざったようなものが付いたままで、少し拭ったままカピカピに乾いている。
この姿のまま中に入って、部屋や書類を汚してしまう事態は避けたい。

それに、今は




「構わん」















































なんだ、これは。






「しお、え、先輩…?」



これは人が見たら大いに勘違いしてしまう態勢ではないだろうか。
潮江先輩は私を胸に抱き寄せ、きつく拘束していた。いや、抱きしめている。現在進行形だ。
特にあの腹の立つ同じ組のあの男なんかはあらぬ噂を四方に流しそうなものである。



「あの、」


「武蔵」




先輩の腕にぐっと力が加わる。その際、先輩のどちらかの手が私の頭を先輩の肩に押し付けた。


なんで、どうして





「無理しなくてもいい」









やめて、ください、それ以上、






「…なにがですか」


「今ここには俺とお前の二人しかいない」


「わかって、おります」


「しかもお前は今俺の背が何もかもから隠している」







だから




「…だから、泣けとでもいうのですか」










忍に感情は要らない。なのに、こんなふうに先輩とは言え他者に自らの感情を悟られ、慰められている自分がいる。











いやだ、なきたくない





なくのはきらいだ






「武蔵」








かんじょうが、じぶんのなかみが、ぜんぶさらけだされてしまう、ようで






「……っ、いや、です」


「強情なやつだな…。武蔵、今だけなんだぞ」


「なにが…」


「俺がお前のそばにいれて、お前を隠してやれるのは、今しかないんだ」




「……そ、れは」




貴方がもうすぐ卒業してしまうことを、言っているのですか














「初めて人を殺したんだ。感情が昂ぶったり乱れることなんて当たり前だ。…もちろん、俺もだった」





「しおえ、先輩も…?」






肩に押し付けた口が、もごもごと動く。







「ああ…。初めて人を、人の首をかっ切ったとき、自分の喉が冷えた気がした。血が飛び散って、顔中血塗れになった。拳で拭っても拭っても取れなくてな…そのとき、急に自分が息をしているのが怖くなった」












武蔵は目を見開いて聞いていた。





まさか、あの潮江先輩が








(私と、おなじだ………)











武蔵は震える口を文次郎の肩に押し付けながら、ゆっくりと胸に留まっていた熱い息を吐き出した。









そうか。



おなじなのか。







なら、いいのか。













「しお、え、先輩」


「おう」


「私は、相手の胸から、右の腹まで、私の刀で一気に斬りつけました…」




武蔵は、ゆっくりゆっくり喋りだす。文次郎はそれを静かに聞いた。




「血が、相手の血が、顔にかかって、…あ、あったかく、て」


「ああ」


「拭っても、余計に広がっ、て、」





震える声で、武蔵は一生懸命に喋る。
文次郎はぎゅっと武蔵の目を自分の肩に押し付けた。



「死ぬ覚悟は、とうに出来ていた、つもりです。…けど、殺す…命を取ることとは、ぜんぜん、ちがって、て」


「…ああ、そうだな」








死ぬ覚悟と殺す覚悟は、一緒なところにあるようで全く違うものだ。

それがわかっただけでも大きな収穫だと文次郎は思う。








「き、急に、こ、わく、なって…!」






肩に熱い雫の熱が広がる。
文次郎は黙ってそれごと包み込むように、武蔵を受け入れた。



泣けるうち、泣けるときに泣いておくほうがいいんだ。











俺はもう、こんなふうに泣けない。









「…ああ、いいんだ。今は、それでいい。泣けるうちに泣いとけ」








俺が、お前を甘やかせるうちに。









「俺がいなくなる頃には、しゃんとしてればそれでいい」



「……はいっ………」







しぼり出した返事をしたあと、武蔵も文次郎の背に腕を回し、思いっ切りしがみついた。









潮江先輩。

これで、泣くのはさいごにします。
約束します。









「……っ、あぁあぁぁぁっ………!!」














貴方がここからいなくなる頃には、





貴方のように














絶対に



強い人に、なります

















私が独り、貴方に誓った日



素敵なイラストとSSをありがとうございました。
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