それは、唯の噂話に過ぎない。






















「あの噂話の幽霊は、レッドさんなんです。あの人は、もう死んでるんですよ」

彼が行方をくらましてから、今日で二年と一月程。否、くらまして、と云う表現は少々語弊が有るかも識れない。正確に云うならば、修行に行った切り、と云うのが正しいだろう。

彼が修行と称して家を空けるのは、当然を通り越して最早日常である。年単位で帰郷しないことなどざらだし、かと思えば、一月も経たない内にひょっこり戻ってきたりする。全ては彼の気分次第。気まぐれにそれを繰り返すものだから、此方からはまるで予想が付かない。予測不可能なのだ。

「…で?」

小さく溜息を吐きながら先を促せば、案の定目前の少年――名をゴールドと云ったか――は傍目でも良く解る程不満げな表情を浮かべていた。つい先程迄バトルに興じていた為か、帽子から飛び出した癖の付いた前髪が、少し乱れていた。

「で、じゃないです。気にならないんですか?」
「何が」

額に伝った汗を腕で拭いながら尋ねれば、じろりと睨まれた。解っているくせに、言葉にせずとも、込められた視線がそう語っている。グリーンはやれやれ、と本日二度目となる溜息を漏らした。

「君はそれを俺に言ってどうさせたいわけ? 俺に何を求めてんの?」
「決まってます。あの人に会いに行って下さい」

やっぱり、頭を抱えたくなる衝動を何とか抑えて、中々に実力のある将来有望な若きトレーナーを見据える。力強さに満ちた金色の瞳が真っ直ぐに此方を捉えていて、彼の真剣さを物語っていた。

「…あのな、ゴ「あの人は」

説得しようと試みた言葉は彼の強い口調で遮られてしまい、当初の目的を果たすことはなかった。口頭以外にも方法は有るにも関わらず、それでもそれをしなかったのは、彼の、ゴールドの声が少し震えていたから。

「レッドさんは、…待ってるんです」

知っている。あいつは、あの山の頂きで、ずっとずっと待っている。自分を倒すトレーナーを。自分よりも強いトレーナーを。修行をしながらひとり、待っている。それはもう周知の事実である筈。今更、言葉で伝えるべきことではない。それはゴールドも解っている筈。なのに、何故。
そんな心境が伝わったのだろうか、ゴールドは先程迄の凛とした顔を崩して、歪んだ表情を浮かべた。その顔は悲痛で、悲しげだった。

「…強いトレーナー、自分を倒す位、強いトレーナー……レッドさんが望んでいるのは、そんな人達ではありません」

違う?なら、あいつは一体何を、

「レッドさんが望んでいるのは、…待っているのは、






















貴方です、――グリーンさん」























額に伝った汗が、そのまま頬を流れていった。















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