彩る夜と月



待ち合わせは人目の少ない高架下近くの街灯のところ。
虫が多いから早めに来いと視線を反らした宮地サンにオレは笑って、当日はいつもの待ち合わせより30分も早く家を出た。
今日は宮地サンと過ごす初めての夏祭りだ。
喧騒を避けて、人混みを避けて。静かな場所で花火を眺めるだけ。
それだけでも、十分に楽しみだったし、宮地サンと過ごせるならオレ的には祭は二の次ではあった。まぁ、ちょっと、一緒に騒げたらなぁと思わなかった訳じゃないけどな。



高架が見えてきて自然と歩調が速まる。
まだいないだろうと思っていたシルエットが確かに見えて、驚いて咄嗟に駆け出した。



「宮地サンっ」

「……よぉ」



気づいた蜂蜜色の目がオレをとらえる。
それだけでテンションが鰻登りとか。恥ずかしいから絶対顔にも口にも出さない。
今夜も安定にカッコイイ宮地サンが「センパイを待たせるとか何?焼かれてーの?」とわりと真顔で聞いてくるからとりあえず「遅れてすみませんっした!!」と全力で頭を下げた。
と同時に噴き出す声。



「ははっ、冗談だっつの。まだ遅れてねーよ、バカ」

「……っ、」

「むしろ約束の時間より早く来たことを誉めてやる」



おっきな掌にくしゃりと頭を撫でられて、顔に熱が集まる。
この人は、ほんとにオレを調子に乗せる天才だ。
されるがままになっていると、頭に置かれていた手がするりと頬を滑り、顎に添えられたと思った次の瞬間には掠める程度のキス。
思わずポカンとしてたら、何事もなかったかのように前を向いてさっさと歩き出すもんだからその背中を慌てて追い掛ける。



「宮地サン」

「おー」

「……手、繋ぎませんか?」



夏の熱気にあてられたのかお祭り効果かは定かじゃないけど。普段ならスルーされそうなお願いにも、宮地サンは少し呆れたように笑ってから無言で手を差し伸べてくれた。
そっと重ねると、自然と指が絡まる。
幸せだなぁ、と。
笑みが零れる。



薄闇に存在感を放つ明るい髪色がまるでオレの道標のようだ。



繋がった手がオレたちの間でゆらゆら揺れている。



「……いか焼き食いてーな」

「オレは綿菓子食べたい」

「女子か」

「あ、オレ、あれ得意ですよ。輪投げ」

「子供か」



コートの中では決してあり得ないスロウペースで歩む。
遠くに聴こえる賑やかな喧騒。
少し先で立ち止まった宮地サンに倣って、オレも足を止める。
さっきぶりに、その視線はこちらに向いていて。



「…………、やっぱ祭の会場の方、行くか」

「ブフォ!……言うと思ってましたけど……!」

「だいたいお忍びデートとか、芸能人じゃねえんだから」

「堂々とデートしてて真ちゃんにでも出会したらどうすんですか」



あ。しまった。
そう思ったときにはぎゅっ、とほっぺをつねられて「痛い痛い!」とちょっと大袈裟に騒ぐ。
ジト目の宮地サンは手を離すことなくニッコリ極上の笑顔を浮かべた。



「デート中の1緑間1ペナルティ、忘れてねーよな?ああ?」

「すみません」

「……まぁ、今日は忍ばないデートでいいっつーなら、3ペナ分は我慢してやるよ」

「それで手を打ちましょう」



自然と離れた掌を少し寂しく思う。
けどせっかくのお祭りだ。楽しんだ方がいいに決まってる。
でも正直、宮地サンの言ってた『穴場で二人きり花火眺めるプラン』も捨てがたかった。



「じゃ、行くか」

「へーい」



今度は隣を歩き出す。
恋人の距離から、先輩後輩の距離に。



顔を向けなくても表情が視えるその位置で歩き出した直後。
何か思い出したように宮地サンが口を開いた。



「ああ……そうだ、高尾」

「なんですかー?」



振り仰いだ先の唇が弧を描いて。



「今日の夜は、オレん家直帰な」

「へ?」

「祭のあとは……打ち上げ花火だろ」

「ぶはっ!まさかの下ネタ!!」



爆笑するオレと珍しく声に出して笑う宮地サン。
向かう先には賑わう祭の最中。



ぽっかり浮かんだ月だけが、オレたちを見ていた。




(13/8/13)



高尾くんと夏祭り





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