「涼ちゃん!」
「え、」
満面笑顔の高尾っちが駆けてきたと思ったら、え?え、いま、名前呼んだ?この人オレのことナチュラルに名前呼びした??
「へへ。名前、呼んじゃったー」
「え、た、高尾っち?」
「オレさ、涼ちゃんのこと大好きだぜ!」
「へっ?」
あ。いまオレ絶対マヌケな顔してる、っていうか。
「え、ええええ?!たっ、高尾っち?!いま、すっ、す!?な、なに、なっ、な……!」
「ちょっと待ってください高尾君。ボクも黄瀬君に言いたいことがあります」
「あ、黒子」
「黒子っち!?」
高尾っちの衝撃発言の動揺覚めやらぬところに現れた黒子っちは、いつも通りのクールな表情のまままっすぐにオレを見上げてくる。
透明度の高いガラス玉のような瞳に思わず見入ってたら。
特になんてことはないように黒子っちが口を開いた。
「黄瀬君。本当はキミがボクに会いに来てくれるの、とても嬉しいんです」
「え」
「黒子は素直じゃないからなー」
「好きな人に素直になれないタイプなので」
え。黒子っち。
オレのこと、嫌いじゃなかったんスか。ムカつくとかウザいとか言ってたのは、あれ、照れ隠しだったんスか。
「黄瀬君。恥ずかしいので照れ隠しとか言うのやめてください」
「えっ、」
「心の声が出てましたよ」
「いやいやそこじゃなくて、えっ、恥ずかしいって、……ちょ、なんなんスか?!天使っスか!!」
「いや天使はオマエだろ、黄瀬」
ほっぺたをピンクに染めて俯いた黒子っちにあらぶった瞬間、聞き慣れた低い声がオレの名前を呼んだ。
言われた意味が分からなくて慌てて顔を上げると、これまた見慣れた顔。
「あ、青峰っち……?」
「青峰君ずるいです、自分だけカッコよく決めようだなんて」
「はァ?オレは事実を口にしただけだろ」
いやいやいやいや。コレはさすがにおかしい。
青峰っちがこんなにもあからさまなデレを披露してくるとかそんなまさか。
「黄瀬ェ」
「な、なんスか?」
「ククッ、んだよ照れてんのか?かわいーとこあんだなオマエ」
「あっあああ青峰っち?!」
「コロコロ変わる表情見てっと飽きないっつーか、そうゆうとこ好きだわ」
え。なんスかこれ。
ドッキリ?
ドッキリか何か??
でも、間違いなく一つだけ言えることがある。
「オレ、今なら幸せ死にできるっス……」
「……ん、……」
「黄瀬くん!!」
「……あ、?」
「あー、良かった!気がついた?」
「た、高尾っち……?」
見上げた先に、心配そうにこっちを覗き込む高尾っちの姿。
あれ?オレ、どうしたんだっけ。
「大丈夫?黄瀬くん、ミニゲーム中に青峰と激突して更にタイミング悪く近くにいた黒子を避けようとして頭から床に落ちちゃったんだよ」
「……あ」
「軽い脳震盪だと思うけど、クラクラしたりしない?」
「平気っス、ていうか、その」
この、後頭部にあたっている温もりは、その。
オレの言わんとするところを察してくれたらしい高尾っちが、慌てたように身体を起こす。
「あっ、ごめん男の膝枕とかイヤだったよな?動かすよりしばらく横になってた方がいいって誠凛のカントクさんが言ってたから」
「いや高尾っちの膝枕とか感無量っス……!!…むしろ」
「ん?」
「……なんか、おかげですげー幸せな夢を見てた気がするんスよ」
へにゃ、と我ながらしまりのない笑いが浮かんだのが分かった。
ほんと、何かすごい幸せだったんスよ。よく覚えてないけど。
「オイコラ黄瀬、気がついたならさっさと起きろ」
「いつまで高尾君の膝を厚かましく借りるつもりですか」
「え」
「ちょ、青峰に黒子!まだ黄瀬くん気がついたばっかだから!」
「甘やかしてんじゃねえよ高尾。ほら黄瀬、オマエなら大丈夫だ今すぐ起きろ」
「そうです黄瀬くん、キミなら大丈夫ですよ早く高尾君から離れてください」
「もーっ、二人とも黄瀬くんにもうちょい優しくしたげなって!」
うん。
ひとつだけ言えることがある。
(やっぱり高尾っち天使)