(三) 










夏が、終わった。



いっぱいの汗を流して。
オレたちの二度目の夏は幕を閉じた。





あの夏祭りのときから真ちゃんの顔がうまく見れなくて、でももちろんバスケじゃそんなことは言ってらんない……というかバスケをしてるときだけは何も気にならなかった。

オレのパスを受けて3Pを打つあの姿が。
共にいられるコートが。
その時間が。

なにより愛しかったから。










「高尾」

「あれ?真ちゃん、」

「打ち上げ中に突然いなくなるな、後輩らが気にしていたのだよ」

「ぶはっ!その台詞、大坪さんたちに聞かせてあげたいわー」

「茶化すな」

「ぷぷ……っ、ごめんごめん」





打ち上げと称した部員達のお疲れさま会の途中。不意にコートに立ちたくなって、一人で近くのストリートバスケに出てきた。
すぐに真ちゃんに見つかったけど。

フェンスのところに転がっていたボールを拾い上げて、ドリブルをつく。
チラリと真ちゃんを振り返れば、無理に連れ戻す気はないらしい。
ただ何を言うでもなく此方を見つめている。





「真ちゃん」





名前を呼んで、パスを送る。





合図も、言葉も、何も要らない。

パスを受け取った真ちゃんはそれが当たり前のように、最初から決まってるかのように。
ゴールへとスリーを放った。

静かに吸い込まれたボールは、また、地面へと落ちて跳ねる。





「……ふ、っ」





あれ。

オレ、なんか、変だ。



そう感じたときにはもう視界は滲んでいて。
意味が分からないままに、感情が溢れて、それは涙になって眸から外へと零れおちていた。





真ちゃんが慌てたようにこちらへと駆け寄って来る。





「高尾、っどうした?!どこか痛むのか?!」





違うよ。

答えようと視線を上げたら、綺麗な真ちゃんの緑色の瞳とぶつかった。





あ、そっか。





ストンと、胸に落ちてきた感情が優しく形を成していく。








手を伸ばせば、届く距離で。
オマエはいつもこっちを振り向いていてくれたんだ。
立ち止まりこそしないけれど。いつでも、オレの存在を、認めてくれてたんだよな。



それに気づかないオレは、ずっと、オマエの背中ばかり見つめていると思ってた。





「真ちゃん」





今はもう。



こうやって、隣に並んでいたのに。








「好きだよ」








涙と一緒に零れおちた感情は、いつかの夏のはじまりのように。








「……ああ、」








上手に彼に抱きとめ掬い上げられた。








(それは夏の終わり)








そしてそれは、

二人のはじまり。












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