(二) 











「真ちゃん、浴衣似合いすぎじゃね?」

「オマエも悪くはない、が」

「へ?」





気晴らしにとノリで誘った夏祭りにまさかの二つ返事で現れた真ちゃんは、深い海の色をした浴衣を爽やかに着こなしていた。
裾に游ぐ金魚が愛らしい。

人混みのない場所で待ち合わせてから暫く、ぼんやりその浴衣姿に見入っていたら、急に真ちゃんの両手がオレの衿を正面からわしりと掴んだ。





「えっ、な、し、真ちゃん?なになにっ怖い怖い!」





逆光で光るメガネが主に。

焦って身を退こうとしたら、衿の合わせ部分をぐっと引き上げられ、整えられる。





「???」

「衿が広がりすぎなのだよ」





眉間にシワを寄せたままぽつりと一言告げられる。
どうやらエース様、オレの鎖骨が気にくわなかったらしい。





「あー、今日はじめて自分で着付けしたからさ。弛かったのかな?ま、でもサービスだと思って!」

「オレ以外にも見られることをわかってないからこその発言だな」

「……っ!」





鋭い視線から逃れるように慌てて屋台に目を向ける。

ホントに、最近の真ちゃんは、おかしい。

いや、おかしいのはオレの方かもしんないけど。
真ちゃんの言葉に一喜一憂とかしちゃって。乙女か、っての。





無言のままでいたら、そっと、温かい指がオレのそれに触れた。

いつかの夜のように。

また煩くなる心臓に鎮まれ鎮まれと言い聞かせながら、真ちゃんの様子を窺う。

気遣うような瞳が、オレに向けられていた。





「嫌か?」

「や、とかじゃねえけど、さ……その、誰かに見られちゃうかも、しんないし」

「誰かに見られたら、困るのか」

「……っオレじゃなくて、真ちゃんが」





その先は、声にならなかった。





今日の蟹座のラッキーアイテムだと言っていた花火の絵柄のうちわが。
オレたちを人の目からそっと覆い隠して。





その陰で、音もなく静かに唇が重なった。








(それは夏の盛り)






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