沈む有毒









「おいで」





まるで、母親か恋人かを気取るように背中に回された腕は温かい。
漠然と、煩わしいと思った。

それでも無理に振りほどく気にもなれなかった。





「不貞腐れるのもいい、強がるのも構わない。ただ、自棄になるのだけは辞めておいた方がいい」

「テメェにだけは、言われたくねえ」

「別に私は自棄にはなっていないよ」

「……よく言う」





暗がりのなかで小さく交わされる会話は確かにお互いのなかに落ちていく。
辺りは静かだ。
巨人の気配もない。

ただひたすらに近い体温と鼓動に耳を傾ける。





「リヴァイ」

「……」

「私は、いつも死への理由を考えるんだけどね」





その声は、波紋のように拡がって。








「この世界で、ほんとうに、死ぬことへの意味理由などあるのかな?」








歪んだ視界の端でひしゃげた身体。それを見つめるコイツの瞳に涙はない。感情すら、もう。








(生きる意味が欲しい訳じゃない)



(死んだ理由が欲しいだけだ)





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