宮高で合宿話 



そっと髪を撫でるあの人の掌にこんなにも安心するなんて、知らなかったんだ。








「も、無理…だめ…立てねぇ…真ちゃん…余裕…ずるい…」

「…馬鹿な事を、言うな。…どこをどう見たら、余裕に見えるのだよっ…」


秀徳高校男子バスケットボール部、毎年恒例・地獄の夏合宿、の真っ只中。
束の間の休憩時間、体育館の床に仰向けに倒れ込んだ高尾は隣で休憩している緑間に息を切らしながら声をかけた。
そんな高尾の言葉に、眉間に皺を寄せた緑間は肩で息をしながら答える。“キセキの世代”と呼ばれ周りより秀でた才能を持つ彼でさえ、この合宿は厳しいものであった。


「オイ!一年!いつまで休憩してんだ!さっさと走れ!轢くぞ!!」


三年スタメン、宮地の罵声が体育館に響き渡り、倒れ込んでいた一年生達は「はいっ!」と飛び起き練習を再開した。

が、そんな宮地の声にもぴくりとも動かない人物が一人。


「たーかーおー?いつまで寝てんだ?あ?」

「うぅ…ママ…あと5分…」

「誰がママだ。おらっ!とっとと立て」


ガシッと腕を掴み宮地は高尾を立たせ、その顔を覗きこんだ。


「……おい、本気で具合悪いなら端に避けとけよ」


真面目になった宮地の声に高尾は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑い宮地から体を離した。


「や〜だなぁ宮地ママったら心配性なんですから。全然大丈夫ッスよー!起こしてくれてありがとうございまっす!高尾ちゃん感激!ってね。んじゃ、サクッと真ちゃんに追いついて来まーす」


すでに走り出している緑間を目指し、いつも通りのテンションで軽やかに走って行く高尾の後ろ姿を見ながら、「…あの馬鹿」と宮地はひとり呟いた。





練習を終え、夕飯や風呂を済ませた部員達は学年ごとに分けられている部屋へと戻って行く。
これが修学旅行などであれば今からが楽しい時間、となるところだが、心身共に疲れ果てた部員達は翌日に備え早々に眠りについた。


皆が寝静まった頃、ゆっくりと起き上がり部屋の外へと出ていく男が一人…。



「…はぁ」


誰もいない自販機横の長椅子に座り、高尾は深いため息をついた。


分かっている。
明日も明後日もキツい練習が待っているのだ。

一日の終わりにしっかり体を休め明日に備える事。

それが今 自分が一番しなければいけない事だと。

分かっては、いるのだ。

だが…。




「…お前、まさかいつもこんな時間まで起きてるわけじゃねーよな?」

「…!?」


静かな廊下に響き渡る澄んだ声。

嫌と言うほど聞き覚えのある声に、恐る恐る後ろを振り返った高尾の目に映ったのは、予想通りの人物。


「それとも、随分お早いお目覚めで、の方か?――なぁ、高尾?」


壁に寄り掛かり、にっこりと笑う宮地の姿に高尾は引きつった笑いを返す事しか出来なかった。






「…で、この2日間ココで時間潰して起床時間前にしれっと戻ってた、ってわけか」

「……はい」


あからさまに不機嫌な宮地にびくびくしながら高尾は合宿が始まってからの2日間、ほとんど寝れていない事を話した。

はぁ…と大きなため息をついて、宮地は高尾を見る。


「…体調不良の理由は分かった。……でもな、高尾……忘れんなよ? お前の代わりは、ここにはたくさんいるんだからな?」

「…っ!」


頭に浮かぶ先輩達の姿。
自分が奪った、スタメンの座。

高尾は思わず俯き、握り締めた手には力が入った。


「自己管理もちゃんと出来ねーようなヤツが居座れるほど、ウチは甘くねーぞ。お前だって分かってんだろ…。ちゃんと飯食って練習してしっかり寝る。じゃなきゃ意味ねぇぞ」

「………」

「どうしても寝れねぇってんなら俺が寝かしつけてやるからよ」

「いやいやいや宮地さん ちょっとタンマ! 指鳴ってます! 笑顔が超怖いっす!」


“寝かせる”と言うよりは“気絶させる”という表現が似合いそうな空気を出している宮地に高尾は慌てて後ずさった。


「ばーか。 んなビビってんじゃねーよ。 ほら、いいから寝ろ」


高尾の頭に手をやり、宮地は自分の膝に高尾の頭をぐいっと押し付けた。


「………えーっ…と…み、宮地さん…?」

「うっせぇ。いいから寝ろっつってんだろーが」


戸惑う高尾に宮地は有無を言わせない態度で更に高尾の頭を押し付けた。世間一般的に「膝枕」と呼ばれる状態になっている自分達の姿に、高尾は「寝ろって言われてもなぁ…」と呟き宮地を見上げる。


「…ねぇ、宮地さん…俺が寝てないって何で分かったんスか?」

「あ?んな死にそうな面しといて何言ってんだ」


当たり前の様に答えた宮地に高尾は一瞬目を見張った。


「……俺、そんな死にそうな顔してました?誰にも何も言われなかったっスけど…」

「してるから言ってんだろーが。ったく、世話の焼ける。合宿中はどいつも自分の事で手一杯だからな。他人気遣う余裕なんてねーだろ」


…じゃあ、宮地さんは?
という台詞は言葉にならず、高尾は宮地から目を逸らし「そうっすね…すみません」と小さな声で答えた。


誰にも気づかれないように、いつも通りに振る舞っていたはずだった。
実際、他の部員達や監督にも、一番一緒にいた緑間にも、気づかれてはいなかった、と思う。

なのに―――。



宮地の手が、数回高尾の頭を優しく撫でる。



あー、もう…ずりぃなぁ、宮地さん。




高尾は心の中でそう呟き、宮地の心地好い手の感触を感じながらゆっくりと意識を手放していく。


「ほんっと、しょうがねぇヤツ…」


宮地のやわらかい声が、二人以外誰もいない廊下に静かに消えていった。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐


数時間後。
そのまま寝入ってしてしまった宮地と、その膝で寝る高尾を見ながら「……一体どうしろと言うのだよ」と立ち尽くす第一発見者の緑間がいれば良いと思います。




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3Dの友人より誕生日祝いに頂いた宮高です。ありがとう…!貴女の書く宮地サンくそツボすぎてやばいもっとくれ(←








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