委員会で遅くなると言われ、一人で帰るのもなと思い教室で待つ。
大人しく外を眺めながら棒の付いた飴を舐める。
「……、このハチミツ味、ウマッ!」
緑間のように今日はラッキーアイテムを所持しようと試みたところ、今日のソレはハチミツ。
ハチミツなんて持ってこれないから飴で代用したのだが、コレはコレでいい思いをした。
「なんかハチミツにハマりそうだわ、」
「独り言が大きいのだよ」
「うわっ…!もう終わったの、委員会、」
後ろからヌッと現れたおは朝信者。
余りの気配の感じ無さに驚く。
それにしても早いな、と呟くと当たり前だろうと前の席に着いた。
「…お前を待たせて何か言われるのは、嫌だからな…」
「…別に怒らねえけど?」
自分にとってよく分からなかったが緑間は目を合わせようとはせず眼鏡を押し上げた。
オレは別に怒らねえし、勝手に待っているだけだからな。
「…何してるのだよ」
「ん?…飴舐めてるだけ」
「…ちょっと、それを口から取るのだよ、」
言われた通りに口からその飴を取る。
先程まで自分が舐めていた飴なので光っているソレを見るだけで何だか恥ずかしい。
しかし、それを悟られたくなくてズイッと彼の目の前に差し出す。
彼はオレの手の中にあるものを自分の掌に収める。
「…ん、」
かなり真剣な表情でその飴が今度はオレに差し出された。
一体何をさせたいんだ?
「…これをロウソクだと思って息を吹き掛けるのだよ」
「はぁ!?…なんでそんなコトをオレがしなきゃなんねえんだよ!」
「好きな人と結ばれるらしいぞ、」
「…っ!…マジで!?」
それはやるしかない、だって叶わないかもしれない恋だから。
そういうものに目がないっていうか。
さぁ、と目の前に更に突きだし、やらざるを得ない状況になってしまった。
「…ふぅ…、」
いざし終えてみると何だか不満そうな表情を浮かべてこちらを見ている。
気持ちが籠っていないと言われた。
「…気持ち込めながらすんの?」
「それも知らなかったのか?」
「つか、このことすら知らなかったんだけど」
「…そうか、それならもう一回するのだよ」
「わかった、」
この飴を、オレの好きな人だと。
ハチミツ色のこの飴を。
ただの飴だがやけに愛しさを覚えて優しく息を吹き掛けようとする。
自然と目を閉じて好きな人を思いながら。
「…っ、……」
「おい、そこの二人で何やってんだ」
まさに吹き掛けようとしたその時、教室後方の扉から声がした。
突然声を掛けられたためビクリとしてそちらを振り向く。
そこに立っていたのはバスケ部の先輩である、
「み、宮地サン…じゃないっすかー!」
「こんな時間まで居て、早く帰って勉強でもしてろ」
「…オレの委員会が終わるまで待ってもらったんです」
「あぁ?お前は高尾が居ねぇと帰れねぇのか?」
宮地は自分が緑間と一緒に帰っていることを知っている筈だが、何故いつもより口調が荒いのか。
止めようとしても、なんと声を掛けていいものか。
黙って二人の会話を聞くだけだけしかできなかった。
「そもそも、テメェ高尾に何かしてただろ?」
「…っ、それは…」
まさか、好きな人を思い浮かべてあんま事をしてたなんて言えない。
今更ながら、緑間に変な顔を晒け出してしまったはずだ。
「…こい、」
「うわっ…!ちょ、宮地サン…!」
いきなり腕を力強く捕まれ彼に連行される。
待って、緑間はどうするの?
リアカーを学校に置いていくことになる。
逆に冷静になり、変なことしか考えてられなかった。
「……次、コイツに何かしたら…、轢くだけじゃ済まさねえからな…?」
「……、!…っ」
迫力のある低めの声が身体を恐怖で震わせる。
普段と変わらず同じ言葉を使っている筈なのに、まるで憤っているようだ。
姿が見えなくなった教室から緑間は机を叩いた。
「今日は、ラッキーアイテムを所持し忘れていた。だからおは朝の占いは信じるしかないのだよ…、」
今日の蟹座は三位。
決して良くない順位ではない。
ただ、おは朝のアドバイスは、『好きな人に積極的なアピールをすると恋が叶うかも。但しタイミングを間違えてどん底に落ちるので気を付けて』であった。
「…正に、それだったのだよ」
掌にあるハチミツ味の飴が夕焼けと色がマッチし、穏やかな気持ちの反面、なかなかソレを捨てられずに寂しい気持ちにも浸っていた。
*****
宮地サン、と声を掛けてもどんどん前に進み誰も居ない廊下を引っ張られながら感じる。
どうしよう、泣けてくる。
宮地サンが、怖い。
「…っ、…み、みやじさ、……」
「…ワリィ…、ついかっとなった、」
溢れだした涙を優しく拭ってくれる。
その優しさも身に染みて塞き止めることなんて出来なかった。
より一層溢れてしまう。
「…お前、緑間と何やってたんだ?」
「…そっ、それは…、」
好きな人と両想いになれるおまじない、なんて口が裂けても言えない。
だって、叶わない恋だから。
「…好きな人でも居んの?」
「…えっ!?…あっ、その…、」
「最初から殆ど聞いてた……緑間には言えて、オレには言えねえの?」
そっと見上げると寂しそうな表情の宮地が居て、ドキッとする。
イケメンだ、彼はやっぱり。
何も言わずにその顔を見つめていると掴まれていた腕をそのまま前方に引かれバランスを崩す。
その直後には彼の暖かな胸の中に収まっていた。
ふわりと鼻腔を擽る香りに体の芯から震える。
「……なんで、あんな顔させた?」
「…あんな?」
「目を閉じてたかは知らねえけど、緑間に見せてたあの顔は……、キスするときの顔だ、」
「…っ!」
彼の温もりに触れているせいで頭がボーッとしている中、そんなことを言われては益々体の熱が上昇する。
恥ずかしい、緑間に嵌められた。
「…目、閉じちゃった」
「……くそ、」
「えっ?……んんっ、!?」
顎を掬われ上を無理やり向かされた後に直ぐキスをされた。
なんで、こんなことするの?
「…ん、……やぁ、っは……んんっ、」
苦しい、けど満たされていく感覚。
きっとこれは――、
それでも終わりは来ず、後頭部に手を回され深いものされる。
水音が鳴り響き、羞恥心からか思わず服をギュッと掴んでしまう。
どうしよう、変な声でる。
宮地サンに聞かれてる。
息をしづらくなり始めた時に唇が離れていく。
「…そんな顔を、アイツに見せたんだぞ」
「これは…、宮地サンがそうさせたの…っ!」
「……緑間にもキスされるところだったんだぞ、」
「…宮地サンにしか、こんなことさせないもんっ、なんで意地悪すんの?さっきだって、真ちゃんに冷たかった…っ」
煩いと言わんばかりに、オレが喋り出したら強引にまた胸に収められる。
あのときの彼を思い出すだけで涙が出そうだったが、頭を撫でる手が優しくて。
「…オマエを、オマエが好きだから苛めたいんだよ、」
気持ちいと思っているとそんなことを言われて言葉を失う。
好き?オレのことを?
伝えたい、オレの気持ち。
「…オレも、宮地サンのこと……すっ、ん…っ!」
好きと告げる筈が彼の唇で言葉にならない。
「言わせてやんない、…おまじないなんて要らなかっただろ?」
「…うぅ、オレのすっ、……ン…ちょ、宮地サン!」
「言わせないって言わなかったか?」
口角を上げて不敵に笑う彼に心臓がバクバクしすぎてどもってしまう。
…オレは宮地サンが好きだ。
だからハチミツ味の飴がラッキーアイテムだったのを宮地サンだと思って舐めていたなんて言えない。
だって髪の色、似てるし。
こんなことしか、想いをぶつけられないから。
「あんな熱い視線送られて、気付かない訳ない、」
「…うぅ…っ」
あまりの恥ずかしさに顔を覆う動作をしたのだが手を捕まれる。
「…ちゃんと見せろ、お仕置きだ」
「ちょっ、……ん、ふっ……ふぁ……!」
彼の深い口付けでスパーク寸前だった。
あのおまじないは要らなかった訳じゃないと思う。
だってあれは実際、二回もしたわけだし。
一回目は気持ち込めてなかったから、その罰で怖い思いしちゃっただけだ。
だって、あれが無ければオレはきっと宮地サンと恋人にはなれなかったから。
今日の蠍座は一位。
おは朝のアドバイスは――、
『ラッキーアイテム補正で、思いがけない出来事が些細な発展に繋がるかも』
end.
ハチノス。20万打お祝い小説です。
ハチ様、おめでとうございます!
ちょいと長めの駄文ですが、受け取ってくださると嬉しいです。
これからも運営頑張ってください。