「えっと、いらっしゃいませ」
「どこの店だよ」
はじめて高尾ん家にお邪魔することになった。のはいいけど。
コイツ、緊張しすぎだろいや可愛いけど。
ドアを開けた瞬間やたらと丁寧に迎えられて思わずつっこんでしまう。
普段の調子の良さはどこへいったのか。
まるで借りてきたネコみてーに大人しい高尾に自然と笑みが零れた。
「てきとーに座っててください。オレ、何か飲み物持ってきます」
「おー、さんきゅ」
部屋を出ていく高尾を見送ってからふう、と息つく。
何かつられてこっちまで緊張しちまうじゃねえか。つうか別にヤりに来たとかそういうわけじゃねーんだから楽にしてりゃいいのに。
「は、?」
あ?いや。まさか。
まさか、アイツ、今日オレに、ヤられると思って、るのか?
「……ッ」
カッと顔に熱が集まって、誰もいないのに咄嗟に手で顔を覆う。
いや、別にそういうつもりで今日は来たわけじゃないというかただ高尾の部屋ってどんなだろーなとか軽い好奇心で誘った家デートだしつうかまだ付き合ってから2ヶ月だろ?早いんじゃいやでもフツーかどうなんだコレはむしろ手を出さない方が間違いなのかそうなのか。
一人ぐるぐると考え込んでいたら、ガチャリとドアが開いて。
片手にグラスの乗った盆を持った高尾が戻ってきた。
「?宮地サン、どうし……っ」
「あ、っぶね……!!」
こっちを見た瞬間、体勢を崩したのが見えて慌てて立ち上がる。
「……」
「……」
「……あの、まじ宮地サン、イケメン」
「るせーよ……ったく。らしくもねえ緊張なんてしてるからこんなことになんだろーが!」
「仕方ないでしょ!好きなひとが自分の部屋にいたら緊張くらいしますって!」
体を支え、お盆を上手いことキャッチしてみせたオレを見上げてしみじみ呟いた高尾に怒ったら逆ギレされた。
つうか、なんだその理由。
密着したままお互いに固まる。
無防備に見つめられたらそれはそれで気まずいんだっつの。
「あー……とりあえず、座るか?」
「はい……てかさっきの、何かラブコメのワンシーンみたいでしたね」
「オマエが引き起こしたんだろ」
「まあそうっすけど」
どちらともなく笑いが込み上げて顔を見合わせて笑う。
なんかお互いいらねー気使いすぎたな。
「高尾」
「なんすか?」
「先に言っとくけど、ヤりに来たわけじゃねーから」
その言葉に、高尾がいつもみたいに腹捩って爆笑しだすのはすぐあとの話。
(はじめてのお家デート)
(13/4/10)
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