「よォ」
「おー」
秀徳の校門脇に立つガラの悪い男。
もう最近見慣れてきたけど。
「青峰。わざわざ通ってくれんのは嬉しいんだけど、ぶっちゃけ転校とか、オレ個人で決められる話でもないわけ」
「んな細かいこと気にすんなよ、要はオマエが桐皇の制服着て桐皇通えば問題なくね?」
「問題だらけだよオマエはもっと常識を気にしろよ」
見上げるほどにデカイ青峰は、何を血迷ったかここ数日オレの桐皇勧誘に励んでいる。
最初は爆笑して黒子とかにメールしてネタにしたもんだけど。
こうも毎日来られると冗談にしろ笑えなくなってきた。
コイツは、何を考えているのか。
「高尾」
スッと伸びた手が頬に触れる。
褐色のそれは武骨で、オレの顔面なんて軽く覆えそうなほどなのに。
あまりに優しいから、戸惑うばかりだ。
「緑間なんてやめて、オレのとこに来いよ」
まっすぐに見つめてくる濃紺の瞳。
たぶん、コレは、口説かれている。と思う。
無意識に見入ってしまって。動くことすらできないままに青峰を見つめ返した。
その静かな空間を壊したのは、聞き慣れた声で。
「……何をしているのだよ」
「……っ、真ちゃん!びっくりしたー。いつからいたの」
「チッ、めんどくせーヤツが来た」
振り向いた先で、真ちゃんが眼鏡のブリッジを押し上げながら「至極不愉快です」と言わんばかりの表情でこちらを見据えていた。
すぐ上で青峰の舌打ちが聞こえたかと思えば。くしゃりと頭を撫でられる。
「あ、青峰っ?」
「また来る」
触れていた手が離れていく。
一瞬だけ見えたその瞳の光の強さ。
無意識に、心が震えた。
一滴の光の雫は、確かに色濃くオレの中を染めていく。
(影を欲して)
(13/4/7)
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