ふわり






触れ合う、という行為は安心感や信頼を表すという。
だが好き好んで僕に触れる人間などいないし、別にそれで構わないと思っていた。








「やった!高尾っちと同じチームっスね!」

「黄瀬くんよろしく。赤司も」





ストリートバスケに集まった見慣れた面子。
とりあえずは3on3からという事でチーム分けをしたら、運良く和成と同じチームになった。
にっこりと邪気の無い笑顔を此方に向けてくる和成に「ああ、よろしく頼む」と返せばその笑みが深まるのが分かる。
ほんの些細な表情の変化さえ見逃さないようにと無意識に目で追い出したのは、もういつの頃だろうか。

最初は単純な好奇心。

真太郎の相方を名乗り、テツヤが気を許し、涼太や大輝、果ては敦までもが懐くほどのバランス力を持つ人間。





「ぜってー黒子と真ちゃんには負けねー!」

「高尾君と敵同士なんて……しかもよりによって緑間君と紫原君のチームなんて勝てる気がしません」

「黒子ォ!もっとヤル気をだせ!」

「緑ちんうっさい。負けるのヤだけどオレも勝てる気しないからそっち入れて高ちんー」

「ブッフォ!!ちょ、真ちゃん、四面楚歌!!」





ワイワイと騒ぐ姿を眺めていたら、ハズレくじを引いて次のローテーションまで待機の大輝が「オマエらさっさとはじめてさっさと代われよ!」と怒鳴ったのでゲームがスタートすることになった。

ああは言っていたがテツヤも敦も負けず嫌いだ。ゲームが始まれば別人のような集中力を見せる。
和成の方も楽しくて仕方がないと言わんばかりに瞳を輝かせボールを追っていた。

僕と和成で真太郎に3Pを打たせないよう阻み、テツヤのパスは相殺する。

問題は。





「ぶふぉ!ちょ、紫原っち!吹っ飛ばすのナシぃぃ!!」

「あ、ごめん黄瀬ちん、いたの気づかなかった」

「ぜったいウソ!こんな存在感のある金髪のイケメンなかなかいないっスよ!!」

「黄瀬君…キミ、そもそもゲームに参加してたんですか?」

「黒子っち?!」

「すみませんちょっとイラッとしたので」





敦には体格的に一先ず涼太に任せてみたが、やはり無理があったらしい。
オフェンスに回った敦はそうそう止められないからな。

やれやれと尻餅をついたままの涼太の方へと向かおうとしたら、それより早く和成が手を差し伸べるのが目に入る。





「黄瀬くんナイスファイトだって!オレとかあまりの紫原の勢いに某進撃するアレのOPが脳内再生されて動けなかったもん」

「高尾っち……」

「次がんばろ!な?」

「「……!」」





しゃがんだ体勢のまま、和成が伸ばした手はあまりに自然な動作で金色の頭をさらりと撫でていった。

ポカンとする周囲に気づきもせず「さ、続き続き!」と涼太の手を引っ張る和成を凝視していたら、此方に気づいたらしい。
笑顔のまま駆け寄ってくる彼になぜか体がびくりと震える。



緊張、しているのか?
まさか、僕が?





「赤司もさっきのナイスディフェン!」





その温かい掌が、くしゃりと僕の髪に触れて。



ぶわり、と。
一瞬で熱が顔に上がっていくのを感じた。





「よーし、紫原!次は全員で止めに…………ってあれ?みんな、どーかしたん??」

(((赤司(君)が頭を撫でられて……照れている、だと?!!!)))





振り返った全員が、心のなかで同じ思いをシャウトしていたことなど知らず。
熱の下がりきらない頬を隠すように口許を覆ったまま、和成のシャツを軽く引いた。




「ん?赤司、なに?」

「あの、……このゲームに勝ったら、さっきのを……もう一度してほしい」

「さっきの?」

「……あっ、頭を」





その濁りない橙色の瞳を直視出来ずに言えば「ああ」と明るい声だけが耳に届く。





「全然いいけど、オレ、勝ったら嬉しくてバグアンドちゅーしちゃうかも!なーんてな!」

「!!!」





(((赤司(君)爆発した……)))








他人と触れ合うことなんて、何の意味もないと思っていた。

そこに、喜びという感情を見出だせたのは、和成。オマエのおかげだよ。








(やったー!勝ったー!!)
(……!!か、かっかずな)
(真ちゃーん!次一緒に組もうぜー)
(真太郎……)
(オレは何も悪くないのだよ!!そんな目で見るなァァァ!)



(13/5/13)



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