(※桐皇高尾くん)
(※というかもう「黒に染まれ」の高尾くん)
「っ青峰、ぇ……!」
「あ?高尾、どうし……ッ?!!」
涙目に乱れた服。
更衣室に飛び込んで来た高尾を何事かと振り返れば、何を言う間もなくオレにタックルをかましてきた。というか、タックルの勢いで、抱き着かれた。
「ちょ、おい、なんだどうした……?」
「……み」
「み?」
胸元に顔を埋めたまま、小声で聞こえてくる言葉に耳を澄ましたそのとき。
バーン!!という派手な音を立ててまた更衣室のドアが開け放たれる。
「高尾ォ!まだ確認は終わっていないのだよ!!」
「は?ちょ、え、緑間?いや、ここ桐皇の更衣室なんだけど」
「青峰……?」
いや、怪訝そうな顔してんじゃねーよ。怪訝な顔してーのはこっちだっつの。
いきなり突撃してきた緑間に蔑んだ視線を送ったのは別にコイツが高尾のことを馴れ馴れしく呼んだからだとかそういうわけじゃない。決してない。
「それよりも高尾、まだ確認は済んでいないのだよ」
「……いや、高尾とオマエで何確認すんだよ」
「そもそも言い出したのはオマエだろう。最後まで人事を尽くせ」
「きもちいくらいスルーしやがって……」
「今オレは高尾に話しているのだよ」
相変わらずやりづれーなオイ。
チラッと視線を落とせば気まずそうな表情の高尾と目が合う。この顔、何か心当たりというか、原因が自分にあることがわかってる顔だな。
「高尾、緑間に何か言ったのか」
「……ぃだろ、って」
「あん?」
胸元の空気がわずか揺れる。
「緑間ぜったい童貞だろって言ったんだよ!したら違うっつうから……じゃー確認させてよ、ってオレ、冗談だったのに「確認してみればいい」とか言って押し倒されそうになったから逃げてきたの……!!」
「…………は?」
いま、なんつった?
押し倒されそうになった?
高尾が?緑間に?
「……あー緑間、とりあえず殴らせてくんねえ?」
「断る」
「あ、青峰!緑間悪くねえから……っ」
「まあ焚き付けたのは高尾みてえだけど押し倒すとかありえねーだろ。つうか緑間庇うならオレのとこ来んな」
「……っ、…青峰しか」
「あん?」
緑間に向けていた視線を高尾へ投げれば、変わらず目を伏せている。
特に口を挟む気は無いらしい緑間が、眼鏡を押し上げる音がやけに耳についた。
「青峰、しか、思い浮かばなかったんだから、仕方ないだろ……」
「は?」
「だから!ヤバイと思ったとき一番に青峰が浮かんだからここに戻って来たってこと!!」
「……っ」
それは、つまり。
一瞬で顔に熱がこもって。咄嗟に高尾から視線を反らす。
「話は終わったのか」
「……緑間、さっきはからかってごめん」
「気にするほどのことじゃないのだよ。よく分からんが青峰とは和解したのだろう」
「いや和解っつうか別にケンカしてたわけじゃねえけど……緑間?」
スタスタとオレらの方へ歩いて来た緑間がいきなりべりっと高尾をオレから引き剥がした。
「これで心置きなく確認に専念出来るな」
「いやどんだけ確認してもらいたいわけオマエ?!!!」
このあと更衣室にさつきが現れるまで、緑間とオレの不毛な攻防は終わらなかった。
緑間まじめんどくせー。
(青峰、オレ二度と緑間に冗談とか言わねーから……)
(そうしてくれ……)
(13/5/4)
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