(※黄瀬くんと、のシリーズ設定)
「おー、ちょっとツラ貸せや緑間ァ」
「どこの不良なのだよオマエは……」
校門を出た瞬間に低い声に呼び止められた。
名前を呼ばれてしまえば無視もできず、やたら目立つ青い髪の男へと視線を送る。
「よし、じゃ行くぞ」
「待て。何故オレの貴重なオフの放課後を貴様に提供しなければならないのか理解に苦しむ」
「あ?オレがオマエに用事があるっつったら高尾のことしかねえだろーが」
「は?」
青峰の口から出た予想外の名前に思わず固まっていたら、半ば強引に近くのマジバへと連行された。
「青峰ェ……なぜオマエと高尾のことを盗み見などしなければならないのだよ!!」
「ばっか、おま、声がデケーよ気づかれんだろ!!」
「オマエにだけは馬鹿呼ばわりされたくない!」
「いいから黙って座ってろって!」
肩を押さえつけられ仕方なく席に腰を下ろす。
ここから絶妙な位置に見える高尾は、誰かと待ち合わせなのだろうか。しきりに時間を気にしている様子だ。時折ソワソワと髪の毛を弄っている。
オレは、その仕草の意味を知っていた。
「まるでデート前の女子だな」
「ブッ!!」
突然投下された言葉に思わず飲んでいた抹茶シェイクを噴き出してしまう。
そうだ。高尾は無意識のようだが、やたら髪を触るのは楽しみなことへの期待から落ち着きを無くしているときの癖。
つまり、高尾は今、浮かれている。
そして誰かと待ち合わせをして……。
視線の先にいた高尾が、何かに気づいたように顔を上げた。瞬間、向かって来ていた人物に満面の笑顔を向ける。
「……っ」
「ちょ、緑間……手がシェイクでまみれてんぞ……」
「気のせいなのだよ。オレは至って冷静だ」
「そーかよ。じゃ、冷静ついでに高尾の待ち合わせ相手の名前、オレに教えてくんね?」
「知るか!あんな頭の悪そうな金髪!!!…………、金髪?」
そう。
高尾と笑みを交わしてあまつさえ「今日も疲れたっスー!高尾っち補給させてー!」などとほざきながら高尾に抱きつく男。
あの、頭の悪そうな、金髪は。
「黄瀬!!!?」
「つうかオマエ知らなかったのかよ?最近黄瀬と会うたんびに「高尾っち高尾っち」っつってマジ高尾のこと超報告してくんだけど仲良すぎてやべえんだけどアイツら」
「いや、確かに、以前メールをする友人になったとか何とか聞いてはいたが……」
まさかこんなところで会っていようとは。しかも高尾のあの砕けた表情を見る限り、かなり心を開いているようだ。
「つうわけで、どうにかしろよ緑間」
「はあ?!貴様がどうにかすればいいだろう!」
「いいのか?オレらがこうやって不毛な言い合いしてる間にあっちは楽しそうに「これ食べる?あーん」とかやってんぞオイ」
青峰に言われて高尾達へと視線をやれば、仲睦まじくた、食べさせ合いをしていた。
ブチ、とどこからともなく音が聞こえたのは気のせいではないだろう。
「黄瀬ェェェッ!!!」
「み、緑間っち?!!」
「は?真ちゃん?」
「よー、黄瀬ェ。随分楽しそうじゃねえのオレも混ぜろや」
「青峰っちまで?!何してんスかアンタら……っ」
「それはこっちの台詞なのだよ!!どういうことなのか一から説明を要求する!!!」
「え、なにそれ緑間っち、めんどくさっ!!」
「ブッフォ…!!ちょ、真ちゃん!浮気現場に出会した旦那みたいなんだけブフォッ!!」
結局。
高尾と黄瀬の元へ突撃したのちオレが納得する説明を聞けたのは、一時間程あとの話だった。
ちなみに説明したのは笑いの波が収まった高尾だった。
(青峰っちー、なんで緑間っち呼んだんスかあ……)
(いや、面白そうだったから)
(愉快犯かアンタは)
(13/4/21)