曰く、本日こそ



朝から、落ち着かない。

今日のおは朝、蟹座は一位。
ラッキーアイテムも持った。

大丈夫だ。抜かりはない。

そう自分に言い聞かせるものの一抹の不安は拭えないでいる。こればかりはオレの人事だけではどうにもならないのだから。








「しーんちゃん?どうした?」

「……っき、急に話しかけるな高尾!」

「ごめんごめん。休憩入ったよって言いに来たんだけど、真ちゃんってば真顔でシュート練しまくってんだもん」

「し、集中していただけなのだよ……」

「そっか」





いつものように笑う高尾に、つられて弛み掛けた表情筋を引き締める。
今日こそ、高尾との関係を名のあるものにしなければならない。
恐らく、高尾はオレに好意をもっている。これは自信があった。だが待てど暮らせど何も言ってこないのだから此方としては蛇の生殺し状態だ。

だから、仕方なくオレから告げてやろうと今日という日を選んだ訳だが。なかなか、タイミングが掴めないまま部活も間もなく終わろうとしている。





「おい、」

「あ、オレ宮地サンに呼ばれてるからちょっと行ってくるわ」

「高尾……!」

「?」




焦りと、募る不安で、咄嗟にオレは高尾の手を取っていた。
普段はわりと鋭いその鷹の目がキョトンと見開かれ、こちらを見上げている。触れた手から、高尾の体温が伝わってくる。
顔が熱い。まるで頭が沸騰しているかのように。





「真ちゃん?」





その薄い唇から、名前が紡がれた瞬間。
ぱちん、と。
オレのなかの何かが弾けるのを感じた。





「好きだ、オレと付き合ってほしい」

「…………は、?」





体育館にいた他の部員たちがざわつくのが分かったが、今のオレの全ては高尾に向かっている。





「オレと、つきあ」

「いや、っそれは聞こえた!聞こえたから!!」





握っていた手を逆に取られ、高尾が慌てたようにオレを引っ張る。
だがここは譲れない。





「高尾、返事をまだ聞いていないのだよ」

「……ッ、も、ちょ、と真ちゃん……とりあえずこっち来て!」




今にも泣きそうな顔で見上げられ、オレの決心は脆くも崩れ去った。

引かれるがままに体育館裏に連れて来られ、高尾の様子を窺う。
まさか、嫌われたり、はしていないだろうが。





「真ちゃん、さっきので一躍時の人だぜオレら……」

「?そんなことより、返事を」

「ぶはっ!もー、どんだけ余裕ないの」

「オマエが相手だからだ」

「……っいきなりデレ全開とか、ほんと、心臓に悪いから……」





ふ、と息を吐いたあと、橙の瞳が、まっすぐにオレを見つめた。





「参ったよ。降参」





ああ。
思えば、その笑顔に惹かれたのだよ。
全てを受け入れるような、オマエの、その笑顔に。








「オレも、好きだよ」








(やっと手に入れた)



(13/4/19)


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