(※大学生設定)
(※赤司様が大幅にキャラ迷子)
「ごめん、赤司」
「は?」
和成が突然意味深なことを言って家を出ていった。
半ば押し掛けるように同棲をはじめたときも「赤司だし、しょーがねえか」と笑って受け入れたアイツが、ボクを放置して家を離れるはずがない。
そのときはそう思っていた。
だがいくら待っても、帰ってこない。
「という訳なんだが、テツヤ、何か聞いていないか?」
「わざわざ夜遅くに尋ねてきたかと思えば……傍迷惑な内容で正直ドン引きです赤司君」
「つか、え、何?高尾に逃げられたのか、赤司」
「大輝うるさいよ、逃げられたわけないだろう」
「まだ、でしょう」
「……ちょっ、テツ、赤司が玄関の隅に同化し始めたぞ!」
テツヤの所に探りを入れにきたんだが、どうやら何も知らないらしく。たまたま泊まりに来ていたらしい大輝とそろって残念な視線を貰った。
いや、逃げられたなんてそんなはずないありえない話だ冷静になれ征十郎。
そっと送り出され道なりに歩いていると目立つ金髪が視界に入る。
「涼太」
「げっ、赤司っち」
「涼太そのリアクションはなにか知っているんだなそうかオマエが和成をたぶらかしたのか覚悟は出来ているんだろうな」
「ち、違うっスよ!さっき高尾っちに会ってちょっと話を聞いただけっス!!てかノンブレス怖ッ!」
「さっき?会ったのか?何処だ、何処で会った?」
渋々と涼太が告げた場所は、ここから程ないところにあるカフェだった。
確か、そこは敦のバイト先だったはず。
「オレの方が先に出たんで、もしかしたらまだいるかもしれないっス」という涼太の言葉に期待をしつつ足早に向かえば、入口の所で見慣れた巨体を発見する。
「敦!」
「あれ〜赤ちん?ごめんけど今日はもうお店おしまいだってー。残ったケーキはオレのだしー」
「そんなことより、和成を見なかったか?」
「高ちん?」
首を傾げる柔和な動きは敦らしいのだが、今はそれすらもどかしい。早く、和成に会わなければいけないのに。会って。
「高ちんなら緑ちんと一緒に帰ってったよ」
「……!」
「赤ちん。……高ちんね、何かスゲー落ち込んでた」
「……そう、か」
「緑ちんに任せたら、今日はにゃんにゃんしちゃうんじゃない?」
「にゃ……っ?!にゃん、にゃん、だと……!!」
正直、想像しただけで心臓が嫌な音をたてる。
和成が、ボク以外の人間に、愛されるなんて。
「たぶん緑ちんの家に行ったんじゃないかな?がんばってね、赤ちん」と敦に背中を押され、ボクは気がつけば真太郎の家へと全力疾走していた。
和成。なにが、悪かったんだ。
優しいオマエを怒らせるようなことをしたなら、いくらでも謝罪しよう。だから。
「和成!!!」
「っ!あ、赤司?」
追いついた後ろ姿に思わず大声で声を掛けた。驚いた顔で振り返る和成に、ホッと息をつく。
隣に立つ真太郎が顔をしかめるのが見えたが、今はそれどころじゃない。
「和成、なぜボクに黙ってこんな時間まで外をフラついている?」
「赤司、」
「ボクの許可なく他の男と会って、挙句、真太郎と今から何をするつもりだったんだ」
「赤司……!」
「だいたい和成は危機感が足りない。以前から何度もそう言って」
「赤司!!!」
「っ!」
和成が声を荒げる所なんて、今まで見たことがなかった。
「オレ、オマエのとこには帰んないから」
なにかが、プツリ、ときれる音がした。
「和成、すまない、オマエに何か不愉快な思いをさせたなら、謝る」
「えっ、ちょっ?え?!あか、し……えええ?!!」
「ムリだオマエを失うだなんて考えられない、ボクは、オマエがいなければもう生きていく希望もなにもない。頼む、ボクから離れていかないでくれ」
「はっ、ちょ、わかった!わかったから土下座とかヤメテ!!」
「オマエが帰ってくるのならボクの土下座くらい安いものだ!和成のためならボクと云う存在の全てを差し出す覚悟だって」
「オマエたちいい加減にしろ!近所迷惑なのだよ!!!」
辺りに、真太郎の怒号が響き渡った。
「だから、オマエがオレをやたら甘やかすから一回距離をおいて……そもそもあれは『しばらくは帰るつもりはない』って意味で……赤司、聞いてる?」
「当たり前だ。和成の言葉は一言一句聞き逃すことなどしないよ」
どうやら、和成は和成なりに考えて家を出たらしいが。全く人騒がせなことだ。ボクに和成を甘やかすななどいくら本人の頼みでも聞き入れる訳にはいかない。
腕のなかに収まる彼にキスを落とすと困ったように笑う和成が、愛おしくて仕方なかった。
「かなわねーなあ……」
「おかえり、和成」
「はいはい。ただいま、赤司」
(いつだってここがオマエの居場所だよ)
(13/4/18)