あーん。


笑った顔がすき。
オレを呼ぶ声がすき。
見上げてくる目がすき。


高ちんのことがだいすき。


でも高ちんが好きなのは、オレじゃない。

それでもいいんだ。
一番すきな顔を独り占めできる瞬間、オレは知ってるから。








「たーかちーん」

「んー?」

「見てみて」





じゃーん、と取り出したお菓子に「なになに?」と無邪気に寄って来る。
ほんとよくも悪くも、危機感とか警戒心がぜんぜんないよね。





「あ、チロルじゃん」

「そー新味なんだけど、うまかったから高ちんにもあげる」

「まじか!サンキュー!」





にこにこと笑う顔がかわいい。
お礼に高ちんちょーだいとか言えないから、そのちっこい頭をわしゃわしゃしたら「ちょっ、ヤメテ縮むから!!」って怒られた。残念。





「オレが開けてあげる」





かさり、と音をたてる包みとオレの手に注がれる高ちんの視線。
その目はタカみたいにすごく広い視野をもってるって前に教えてもらった。高ちんにはどんなふうに世界が視えてるのかな。

なんか考えごとしてたらうまく包みが開かなくてイラッとする。





「あー貸して?オレが開けるから」

「やだ。オレが開ける」

「紫原?」





意地になるオレを不思議そうに見てくるけど、ここはゆずれねーし。
やっとこ全部外れた包みからチョコを取り出して、はい、と高ちんに摘まんだまま差し出す。





「高ちん、あーん」

「ん。あーん」





少しだけ上を向いた顔と、チョコを口に含んだときの、笑顔。





「ありがとな、紫原」





オレを呼んでくれる、その声。





このときだけは高ちんのだいすきな全部がオレのもん。
オレの気持ちなんて、何も知らないままでいいから。だから。








「ね、高ちん。もういっこあげる」








(なんども、ちょうだい)



(13/4/15)



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