見えてるのに、届かない。
近いのに、遠い、あのひと。
「宮地サン!」
「おー、ちゃんと練習してたか」
「今日は委員会かなんかだったんですか?」
「いや、担任に用事頼まれた」
「うわ優等生っぽい」
「バカ優等生っぽいんじゃなくて優等生なんだっつの」
体育館に入ってきた宮地サンに話しかけたら渋い表情が返ってきた。
部活ではいちばんに宮地サンに声を掛ける。これはオレの日課。
今日は部室になかなか来ないから用事だろうなとは思ってたけど。いざ体育館に来るまではソワソワしちゃって正直、練習に集中できなかった。
宮地サンは尊敬できる部活のセンパイで、オレの、好きなひとだ。他人にも自分にもすげえ厳しいのに些細な変化に気づいて、オレを掬い上げてくれるこの人からいつからか目が離せなくなってた。
でもこの気持ちを伝えたところで迷惑にしかならないってわかってるから、言わない。言えない。
「高尾、キャプテンが3on3をするから来いと言っている」
「あ、真ちゃんわざわざ呼びに来てくれたの?ありがとー、今いく……」
「おい、高尾」
聞きなれた相棒様の声に答えて踵を返そうとしたら、不意に呼び止められる。
「何ですか?宮地サン」
「……あー、いや、何でもねえわ」
「……?ならオレ行きますね!」
「高尾、はしゃぎすぎて怪我すんなよ」
「ちょ、子供じゃないんですから!!」
こうやって、些細なやりとりができるだけでいい。
目が合って、笑い合って。
名前を呼ばれる。
それだけで、すごい幸せ。
きっと宮地サンに彼女ができたりしたら、しばらくは立ち直れないんだろうけど。
「おら、拗ねてんなよ。行くぞ」
ああ。
そうやって、優しく触れるから。
オレはいつだってこの視界に貴方を捜してしまうんだ。
撫でられた手の温もりに、無性に泣きたくなった。
(視えないこころ)
(13/4/13)
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