「雨やまないねー真ちゃん」
「……ああ」
「でもわりとあったかいね」
「そうだな」
本日は悪天候のためお家デートだ。
真ちゃん家にお邪魔するのは初めてでもないので勝手気ままに寛いじゃってるけど。真ちゃんも読書してるし。
ちなみにご両親は共にお仕事の関係で外泊中らしい。
いまこのお家には真ちゃんとオレの二人きり。
ベッドの上から窓の外を見ればやむ気配のない雨と、薄暗い曇天が目に入る。
けど別にオレの気持ち的にはそんな暗くもない。ま、好きなやつと一緒の空間にいられて暗くなる理由もないしね。
「あ、飲み物なくなっちゃったみたいだな。何かいれてこようか?」
「ああ……確かリビングに頂いた茶葉があったはずなのだよ」
「んーあの辺?」
「そうだな、あの辺だ」
読んでる本がイイトコみたいで顔を上げずに「頼む」と告げた真ちゃんに「りょーかい」と答えて。階下にある勝手知ったるリビングにお邪魔してお茶を入れる。
もしかしてオレ、真ちゃんより真ちゃん家のリビング事情詳しいかもしれない。
と思うくらいにはもう何がどこにあるか把握していた。ちなみに真ちゃんママからリビング使用の許可は既に得ている。抜かりはない。
あったかいお茶を持って部屋に戻れば、一段落したのか本をテーブルに伏せていた真ちゃんと目が合った。
「はいどーぞ。熱いから気をつけてね」
「ああ、すまない」
「……つうかオレらのやりとりさ、もういっそ熟年夫婦みたいじゃね?」
ふと思ったことをそのまま口にすれば、予想外だったのか珍しくそのきれいな緑眼を丸くさせる真ちゃん。
少しの間を置いて、ぐっと形のよい眉が寄った。あれ?なんか間違ったオレ?
「……。熟年夫婦がこんなことすると思うのか?」
疑問に思う間もなく、視界が反転する。
ベッドに押し倒されたと気づいたのは、拗ねたような表情と、天井を視線に捕らえてからだ。
真ちゃんがこんな大々的にデレるとか今日はほんと、珍しい。
「仕方ないなー。……じゃ、新婚夫婦タイムいっちゃう?」
「茶化すな」
「ハイハイ。ね、真ちゃん」
「何だ」
「キスして」
にっこり笑ってみせれば、眉間の皺が深くなったけど。
降ってきたのは柔らかい口付けだった。
(繋がる優しい距離)
(13/4/12)